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生まれ変わってお嬢様!  作者: ガイアにゃんこ
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ある青年の人生

 佐々木元治は貧乏であった。元治と書いて“もとはる”と読む。

というのも、元治の母は妹である元香の出産時に体調が急激に悪化し、そのまま帰らぬ人になってしまった。

また、男手ひとつで兄妹をそだててくれた父親も元治が高校1年生の時に仕事場の事故で大怪我を負い、そのまま病院で息をひきとってしまった。

そのため、元治は高校生活とバイトと親の残してくれた貯金を切り崩しながらの妹の養育を両立してきたのだ。

しかし貧しいながらに元治とその小学生の妹、元香は日々を幸せに過ごしてきた。

だが元治の穏やかな日常を脅かすものは貧困だけではなかった。

彼は生まれてから恐ろしいまでに不運だったのだ。

どれくらい不運かという例として、まずくじの類には当たったことがない。

町内会の福引などポケットティッシュしかお目にかかったことがないし、幼い日に友人の家で某人生をご家庭で体験出来る系ボードゲームをやった時など八割方一の目しか出なかったため、最後の方はずっと涙目で一人ルーレットを回す羽目になった。

さらに買い物に出れば、家計も苦しいのに財布を落とし、買った卵を全部割り、挙句の果てに買った魚も野良猫に盗まれる。

その不運の度合いはもはや幸運の神に何か恨みでも持たれているかの如くだった。

そんな元治はしかし、自身が常に逆境に立たされてきたため常に人に優しく誠実な男だった。

生まれてこの方自分の利益のために嘘をついたことはないし、困っているひとがいれば金銭的なこと以外ならすすんで力になった。

それは中学まで元治を育ててきた父親がその生き様で元治に示したものであった。

父もまた、先に天国に行ってしまった最愛の人に恥じない生き方をしようと、必死に生き、二人の子供を育てたのだった。

そんな父の背中を見て育った元治は、自分を残して死んだ両親を尊敬こそすれ恨むことはなかった。

それどころか父の生き様を見習い、自分と共に残された少し年下の妹を必死に育てたのだ。

そして彼の妹もまた、そんな優しく誠実な兄、元治が大好きだった。

兄妹は貧しいながらも、幸せに睦まじく過ごしていたのだ。


しかし、あくまで元治は不運に愛されていたのであろう。

高校卒業を間近に控えた冬の日、凍った路面が原因で起こった大型トラックの事故に巻き込まれ、瀕死の重傷を負って病院に緊急搬送されたのだ。




 暗闇の中に響く声があった。

透き通るような美しい、しかしどこか懐かしい様な気もするそれは、すでに亡くなった両親のものでも、苦楽を共にした妹のものでもない。

「・・・君に朗報だ。起きなさい、----よ」

その偉そうな声が自分にかけられていると分かり、元治がうっすらと(まぶた ) をあける。

そこには怪しげな、しかしこの世のものとは思えない程に美しい女がいた。

輝く黄金の髪に磁器のような白い肌、しかしその瞳は眠そうに半分閉じられている。

さらに身に着けているものは闇の中にあってなお存在を主張するほどに真っ黒なローブで、それが女のつま先から首元まで覆っていた。

美貌に反して、その格好はまるで死神のようである。

「ようやっと君に転生の許可が下りた。いや、なかなか上が首を前に振らなくてね」

まるで知り合いか、久しぶりに会った親戚のように、女は話しかけてきた。

元治にこのような格好をした知り合いはいない。

「何とか君が生きているうちに決まってよかったよ。事故にあってようやく上も過失を認めたようだ。いやはや、無駄に序列が高くなると保身に走る輩が多くて困るよね本当に」

怪しい女の発言に、置いてけぼりだった元治がようやっと我に返って言葉を発する。

「じ、事故?事故ってなんのことですか!っていうか、あんた誰?!」

そこでいままで夢中になって上とやらの愚痴を言っていた女が我に返り元治をその美しい手で制した

「え?あー・・・、いや、すまないすまない。説明が遅れたね。うーむ、君の理解しやすい表現を選んで端的に説明するとするならば」

そこで女は一言切って言い放った


「・・・わたしは神だ」


元治は黙ってしまった。

そして冷静に考えてみて、元治は今自分が夢の中にいるのだという結論に達した。

それが自然だと判断したからだ。

なぜなら、暗闇に陥る前後の記憶がおぼろげであったし、そもそも元治は神という存在を信じていなかった。

いや、信じたくなかったとも言える。

人が頑張って自分の力で生きているのに、そのことまでも神のおかげであるということになれば、自身の類稀なる不幸までも神という不確かな存在のせいにしてしまう。

それは元治が自身に甘えを許さなかった上で人生に下した結論だったのだ。

「その神のあんたが、俺の夢に何の用があるんですか」

夢だとは決めたが、生憎自力で覚ます方法に覚えもなかったため、とりあえず怪しい女との会話を続けることにした。

(ストレスが溜まってるのか?最近バイト増やしたし、疲れてるんだろうか)

そんな彼の心中を知ってか知らずか、自称神は続ける。

「まず、覚えてないみたいだから言うけどさ、君はいま交通事故に巻き込まれて瀕死、いや正確にはもう少ししたら死ぬっていう状況なんだよ」

「は?なに・・・っ!?」

突拍子もない自分の夢の設定に思わずツッコミを入れようとするも、脳裏に甲高い音をたてながらタイヤをスリップさせたトラックがこちらに突っ込んできて、吹っ飛ばされる自分の体が空を舞う光景とその時の全身を襲う痺れと恐ろしいまでの痛みが急に思い浮かぶ。

「お?都合よく思い出してくれたみたいだね。こちらとしても交渉を進めやすくて助かるよ」

「思い出したって・・・」

いったいどこからが夢なのだろうか。

病院のベッドの上で意識が戻らない自分の姿を想像してとたんに不安になる。

これは事故にあった自分がみている都合のいい夢なのではないか。

女は元治の反応を見て嬉しそうに話し始めた。

「まず君という存在について話そうか?」

「お、俺に、ついて?」

ふらつく体を向き直し、元治はなんとか女との会話をつづける。

とりあえず状況を判断する為の材料を会話の中に探そうとおもったのだ。

「ああ。単刀直入に言うと、君は生まれ方を間違えたんだよ。君という魂はそもそも地球に、いやこの世界に生まれるはずではなかったものだ。それが唐突に君の母親が身ごもり、予定に無い出産してしまったものだから、我々はひどく焦った。それで書類をさかのぼり他の部署に問い合わせたところ、一人生まれるはずの赤ん坊が生まれていないという。これはゆゆしき事態だよ。すぐに我々は早急な対応を迫られたさ。だが、生まれてしまった存在には意思がある。人間には特にね。そのため、今回の例外的な転生にも、本人の同意がひつようなんだ。お役所仕事のつらいところだね」

意味が分からない。

自分の妄想にしても飛躍が過ぎている。

女の言葉はさらなる混乱を呼ぶだけだった。

呆然とする元治に構わず女は続ける

「だが超常たる我々が、世界に影響を出さずに君たちと接触するためにはしかし、対象の深い意識に潜らないといけないんだ。故に我々は、この時を待っていたといえる。だが、ようやっと瀕死になった君に交渉しに行こうとしてみれば、今度は向こうの連中がしぶりだしてね。元々はあそこのミスから来たものだからね、ぎりぎりまで隠蔽しようとしていたらしいが、うちのボスがガツンと言ってくれてね。ようやっと首を前に振ったのさ。それで君が死ぬ前に急いで交渉役としてこの件を担当していた私が派遣された訳だ」

「はあ・・・・」

痛みの幻が落ち着いてきた頭で冷静に考えるも、わけがわからなかった。とにかく頭が回らない。

「そ、それで、なにがいいたいんですか?」

自分はここまで妄想家だっただろうかと思いつつも目が覚める気配もないのでとりあえず女との会話を続ける。

「いや、だからね。君には本来生まれるはずだった世界に生まれ直してもらいたいんだ」

「はぁ」

「おや、冷静だな。存外と」

「そういわれても、未だに訳が分からないというか。じゃあ今ここにいる俺はどうなるんです?」

「うーん、前例のないことだからはっきりとは言えないけど、消えて無くなるんじゃないかな?半分はそのために転生するようなもんだし。この世界の住人がきれいに忘れるように私たちがちょちょいっと記録の改編と消去もするしね」

「そうなんですか・・・」

突拍子がなさ過ぎて、なんだか他人のことのような返事をしてしまう。

だがそこで、ふと一つのことが頭に浮かぶ。

「あの・・・俺がいなくなった後って、妹は、元香はどうなるんですか」

「あーそっか、君、妹さんと二人暮らしだっけ、うーん・・・どうなるんだろうね?たぶん君のことは忘れちゃうんじゃないかな」

神を名乗る女の言葉に、元治は夢の中の話にしても焦る。

「あいつはまだ小学生なんだぞ?一人でどうやって生きていくって言うんだよ!」

元香は唯一の家族である元治がいなくなっては、頼るべき人がいなくなってしまう。

そんな元香を、元治は残された唯一の家族として、自分の命よりも遥かに大事に思っていた。

「転生だかなんだかしらないが、たとえ夢だろうがあいつを残して死ぬわけにはいかない!神だってんなら早く俺の目を覚ましてくれ!」

「ええ!?いや、それは・・・そ、そうだ!君がいなければそもそも妹ちゃんも生まれないじゃないか?あ、いや、でも妹ちゃんはちゃんと生まれる予定だったし・・・君のことは忘れて生きていくんじゃないかなぁ・・・」

元治は女の言葉の尻に口に出さなかった”一人で”という文言を感じた。

「だったら、あいつがこれから幸せに生きていけるようにしてください。俺がいなくなっても。そうでなければ転生なんてできません」

もしこれが夢なんかではなく、目の前にいるのが、本当に神様なら、それにたてつく自分はどうなるのか想像もつかない。

それでも、これだけは譲る訳にはいかない。

「ぐぅ・・・・わかったよ・・・。君がそれで転生に承諾してくれるというなら、頑張ってみる。むろん、こちらにも下界に直接干渉するのには限界はあるが・・・そのかわり、こちらの条件も増やさせてもらうよ」

「・・・いいでしょう。なんですか?」

「君の魂を向こうに送るのには大きなコストをかけなければならない。だから我々としてもちゃんと成果がほしい。だから君には向こうの世界でなにか大きなことを成してほしいんだ」

「大きなことですか?それって・・・」

「うむ。自分で考えたまえ。臨機応変に、だ。観測上なにが起こるのか、わからない部分は大きいからね」

そうは言っても、いままで生きてくるのに必死だった元治にそんなことができる自信はこれっぽっちも無い。

第一、漠然とし過ぎて何をすればいいか想像もつかない。

それでも、今の元治はうなずくしかない。

「わかりました。その話お受けします」

そもそも元治がこのまま事故で死んでしまったら、どのみち元香は一人ぼっちだ。

断る理由はない。

生来我欲のない元治だが、妹ためならいくらでも欲深くなれる。

世界にあと1人だけの家族なのだから。

「ふぅ、そうと決まれば話は早いよ・・・生まれ変わってしまえば、我々は全くと言っていいほどに干渉できない。だから今のうちに君にすこしばかりプレゼントをやろう。せいぜい我々との約束を果たすために役立ててくれたまえ。いや、あまり期待はしないでくれよ?君がこちらにいた形跡をこっそりとおしつけるだけなんだし」

最後に早口でなにやらいいながら思わず見惚れる様なウインクをして、元治の頭に指を乗せ、もう一度力むように目を閉じると、女は闇の中を去っていく。

「・・・ではな。本来生きるはずだった人生を謳歌してくれたまえ」

そう言い残して女の姿は闇に消えてしまった。

彼女の最後の言葉を聞いてすぐに元治の意識も眠るように暗闇の中に散らばっていった。



              こうして佐々木元治は、その生を受けた世界から消滅した。














ぼちぼち頑張りますのでよろしくお願いします。

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