表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

第二話 エロゲーのような恋をしろ!?

 ――ドテンッ!

「ぐはっ!」

 後頭部に激しい痛みを感じながら、ゆっくりと目を開ける。

ここは……知らない部屋……。

あ、俺、ベッドから落ちたのか……。

「イテテテ……」と痛む後頭部を抑えながら起き上る。

「たく……どこだよ、ここ」

 ――タッタッタッタッ……「バタンッ!」

「おにぃ~朝だぞぉ!!おっきろ~!!……て、もう起きてる!?」

 見知らぬ美少女が俺を兄と呼び、驚きの表情を浮かべる。

 誰だ……!?

「どうしたの、おにぃ?バカみたいな顔してるよ??」

「え、えーと……君、誰だっけ?」

「………」

「………」

 沈黙。

「お、おにぃが冗談を言うなんて……今日は雪でも」

「快晴だぞ」

「な、なんて鋭いツッコミ……!!おにぃ本当にどうしちゃったの!?」

 少女は本当に驚いた様子で、俺をまじまじと見る。

 そ、そんな見つめんなよ……。

 少し照れながら横を向く。そして、そこにあった鏡を見て、俺は今の現状を理解した。

 俺ではない男が、俺と同じ動きをする。……つまり。

 ――あっ俺、違う人間の体を乗っ取ったのか。

 ……て

「んなわけあるかぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 俺の絶叫は、ご近所などお構いなしに響き渡たったという……。

「朝から五月蝿いわよ~恭弥、由美。朝ごはん出来たから降りてらっしゃい」

「はーいお母さん、今行く~。ほら、おにぃも早く早く」

 下から聞こえる母親と思われる女性の声に、由美が呼応する。

 そして、俺の後ろに回り込むと、「早く早く~」と背中を押した。

 妹に引っ張られる形で階段を降り、リビングのドアを開けて中に入ると、リビングテーブルの上に、暖かい食事が二人分置かれていた。俺と由美は、各々の席に座り、「いただきます」を言う。

「あれーお父さんまだ寝てるの?」

 由美は自分の隣の空席を見て、母親に尋ねる。

「いいのよ、昨日残業で遅かったみたいだし、寝かせておいてあげましょ」

「ふーん、あっそうだおにぃ、おにぃが行く学校って、どんな学校なの?たしか、霧城学園高校だっけ?」

 由美は、話題を変えて俺の方を向く。

 あぁ俺転校生なのか~………て、ウチの学校じゃん!!

「え、えぇと……だな。いい学校……だと思うよ」

 どう返答すれば良いか分からず、当たり障りの無いように答える。

「それじゃ分からないよ~」

「ぷー」と剥くれる妹を、「可愛い」と思ってしまった俺を、誰が責められるだろうか。

 ――「メールが届いたよ、メールが届いたよ」

 聞き覚えのある着信音と共にバイブレーションでズボンのポケットが振動する。恐る恐るポケットに手を入れ、冷たい金属の物体を取り出す。それを見て、俺は悪寒を感じた。

 ――嫌な予感しかしない。

 俺は携帯を開く。

 ディスプレイには、あの夢と同じ待ちキャラがいて、「未読メールが1件あるよ」とコメントしている。

「……どうして」

「あれ?おにぃ携帯変えたの?見せて見せて~」

 由美が手を伸ばして携帯を取ろうとする。

 それを華麗にスルーしながら、俺は席を立つ。

「ごちそうさま。俺、ちょっと用が出来たから部屋戻る」

「ちょっ、おにぃ!?……もう、お母さん、今日のおにぃなんか変じゃない?」

 慌てたようにリビングを出る兄を見ながら、由美は心配そうな声色で母に尋ねる。

「まぁあの子も年頃だしねぇ~いいんじゃない?」

「そんな適当な……」

「それよりあなたも早く食べちゃいなさい。初登校なのに、遅れちゃうわよ?」

「そんなのおにぃも同じじゃん……て、食べ終わってる!?」

 綺麗に重ねられた兄の食器を見て驚く。

「食べ盛りねぇ~」

「やっぱ今日のおにぃ何か変……」


 妹が兄に違和感を感じている時、兄の恭弥(啓太)は焦っていた。

 ――どうして……この携帯がここに。

 もしかして、これがメールに書かれていた「ゲーム」なのか?

「……くそっ」

 自室に入り、鍵を閉める。

 そして、携帯の未読メールを選択し、決定キーを押した。

 ――新しい体には、もう慣れましたか?

 ――まぁそれはいいでしょう。

 ――これから、このゲームについての説明をします。

 ――説明は、ガイドインターフェイス1035「アリーナ」にさせます。ゲームについての疑問点なども御座いましたら、お気軽に、「アリーナ」にお申し付け下さい。

 ――では、ご検討をお祈りします。

 文章はここで終わっていた。

 ……て

「アリーナって何だよ!!」

「私デーす」

 どこからともなく声が聞こえる。

「……え?どこから聞こえて……」

「ここデーす」

 手元から声が聞こえる……いや、まさか……。

「………」

「だからここデース!!」

 やっぱり……ここから。

 携帯を恐る恐る開くと、膨れっ面の待ちキャラが、俺を出迎えてくれた。

 ……はい?

「やっと気づいてくれまシタ」

「えっと……君が、「アリーナ」さん?」

「そうデーす。全く、私のマスターならもっと順応性と理解力を身につけて欲しいデーす。」

「す、すみません」

 待ちキャラに怒られる俺って、いったい何なんだろう……。

「まぁいいでしょう。これから話すことを聞き漏らさないように、耳の穴かっポジってよく聞きやがって下サイ」

 そう言って彼女は、画面の中で一回転すると背景を変える。

「では、ゲームのルールを説明しまース。あなたには、その体を使ってあることをしてもらいまース。それは……」

「それは……ゴクッ」

「…………」

「…………」

 なんだろう、この間……凄く緊張する。

「指定の女の子とイチャイチャ、ラブラブして恋人になって貰うことデース!!」

「……は?」

「正確には、ラブラブイチャイチャしながら、行けるとこまで行って欲しいのでース」

「…………」

 ……ごめん、色々着いて行けないや。

「つか、何でわざわざ他人の彼女を作る手助けしないといけねぇんだよ」

「そんなの私は知りませーン」

 ……イラッ

 なんだろう。一言一言イラつくな、こいつ。

「とにかく、マスターは女の子と甘~い時間を過ごせばいいのデす。文句は受け付けてません。それでも、嫌だと言うならゲーム放棄とみなし、退場してもらいまース」

「それって……」

「はい。死んでもらいます」

 不意に真面目な顔をしたアリーナがそう言い放つ。

そうだった……俺はもう、死んでいるんだ……。

「わ、わかった。やればいいんだろ」

「わかって貰えて嬉しいでース」

「でも俺、女子と付き合ったこととかないし、どうすれば彼女が出来るとか分かんねぇよ?エロゲーなら完璧だけどな」

 そう、俺は生まれてこの方、女性と付き合ったことがない。つまり、彼女いない歴年齢の淋しい奴なのだ。そんな俺に彼女を作れだって?はっ、無理無理。自慢じゃないが、俺はかなりのヘタレだ。女をエスコートし、尚且、キ、キスをするなんて芸当出来る訳がない。

 自分で言って、自分で傷つく……。

 ふ、ふん、いいよーだ!!2次元こそが俺のリアル、3次元なんて知るかっ!!

「ふふふ。そんなヘタレで、甲斐性なしで、優順不断で、おまけにヘタレなマスターでも大丈夫!!なんとこの携帯電話には、特殊機能が付いているのダー!!」

「ヘタレ二回言った!?」

 つか、特殊機能???

「このケータイには、特殊な機能が4つ付いていまス。MENUボタンを押してみて下さいデス」

 待ちキャラのアリーナはそう言うと、携帯右上のMENUボタンを指さす。

 ボタンを押すと、画面に3つの選択ウィンドウが表示された。

 なになに……。

 ――「myカノ・データ」

 ――「セーブ」

 ――「ロード」

 なんだこれ?

「これはダメダメなマスターでも、女の子とラブラブになれる……かもしれない……画期的なシステムデーす!!では、一番上を選択して下さい」

 こいつ、いちいち気に障る言い方するな……待ちキャラの設定切ってやろうか。

 まぁいいや。

 この「myカノ・データ」?これを選択すればいいんだなよな。

 一番上を選択して、決定キーを押す。すると、見覚えのある少女の画像と、その少女に関する情報が画面に表示された。

「これって……」

「そうでース。これが今回、マスターが落とすターゲットでース。中々可愛い女子じゃないですか~」

 アリーナは表示されている女子の画像を、ツンツン突きながらニシシと笑う。

 でも、可愛い……か。

 それはそうだろう。

御崎(みさき) 香奈(かな)」学園のアイドルで女子テニス部のエース。文武両道の完璧超人。

 そんな彼女を、俺が口説き落とす?

 ――無理だ……。

 そもそも話したこともないし、どんな人物なのかも詳しく知らない。

 いきなりハードル高過ぎだろ……。

「無理無理って……ホントにヘタレで無能なマスターデ~す」

 アリーナがやれやれといった様子で首を振る。

 凄くイラッとした。

 つか、人の心読むな!!

「はぁ~全く……本当に分かっていないようですね。マスターには、時間がないんですよ?」

「え……?」

 いきなり真剣な顔をするアリーナに、拍子抜けする。

「携帯のボディーに付けられた時計。これは、空間時計。どんな空間の歪みがあっても、正確な時を刻む時計。そして、この時計の針が12時を示したとき、このゲームは終わります」

 俺は携帯を裏返してボディに取り付けられたアンティークな感じの時計に目をやる。

 しかし、時計の針が動く様子はない。

「おい、マチキャラ。この時計動いてねぇぞ」

「動いています。ただ、普通の時計とは違った速度で時を刻んでいるのデす。あと、マチキャラじゃないデす。ガイドインターフェース、アリーナ。名前で呼んで下さい」

「な……あぁ悪かったな……アリーナ……。それで、違う速度ってどういうことだ?」

「はぁ~、まぁいいでしょう……。この時計は通常の1/30の速度で時を刻みまス。その理由には諸説ありますが、今はいいでしょう。そして、この時計が12を示した時、マスターがまだゲームをクリア出来ていなければ、マスターの魂は完全にこの世から消滅してしまいます」

 アリーナはそう告げると、真剣な眼差しを俺に向ける。

「そんな……嘘だろ」

「大丈夫、そうさせない為に、私がいるのです。では、次は選択肢とセーブ・ロードについての説明を――」


 ――ガチャガチャ


「……あれ?おにぃー、なんで鍵なんか掛けてるの?開けてよーねぇー」

 妹の由美がドアを叩く。

「くそっ。まだ話の途中なのに……」

 俺は舌打ちしながらドアノブに手を掛ける。

「まぁいいじゃないですか。それに、説明の手間が省けますし……」

「?」

 アリーナの意味深な言葉に疑問符を浮かべながら、ドアを開ける。すると、ムスーと頬を膨らませた愛しのmyシスターが、俺を上目使いで出迎えてくれた。

 いやぁー癒されるよね。妹サイコー!!

「おにぃ、今誰と話してたの?」

 少し不機嫌そうな表情のまま由美は尋ねる。

「い、いや~独り言だよ」

 頑張って言い訳をする。

「でも、キスがどうとか言ってた……」

 ぐっなんてピンポイントな所を……侮れないな妹。

「マスター、今こそ、この携帯の出番でース!!」

 アリーナの声が俺の鼓膜を刺激する。

「うっせーよ!!今それどころじゃ……!!」

「えっ……おにぃ?」

 アリーナに向けて言い放ったつもりの言葉に、由美が反応し目を丸くする。

「い、いや、これはこの携帯に言ったのであってお前に言った訳では……」

 手に持った携帯を指さしながら必死に説得する。

「おにぃ、やっぱり今日おかしいよ?頭でも打ったの?私なんか心配だよ……」

 由美は本当に心配そうに俺を見る。

「くすくす……すみません。独り言……傍からみたら、キモ過ぎです、マスター……」

 笑いを押し殺した震えた声で、アリーナが呟く。

 俺はイラッとして舌打ちする。

 しかし、由美はそんな俺を見て疑問符を浮かべていた。

 ――まさか……!!

「そうデすよ、私の声はマスターにしか届いてまっせーン」

 イラッ

 ――こいつ……すべて終わったら絶対に折ってやる。

 少しキツ目に携帯を握りながら決意する。

「い、痛いデすマスター!!それに、そんなことしたらマスターも御陀仏デーす!!あっそうだ……言い忘れてましたが、私はマスターの心にリンク出来るので、マスターは別にしゃべらなくていいんデすよ?」

 ――先に言えぇぇぇぇぇぇぇ……!!

「だって、「心を読むなー」とか言ってたじゃないですかぁー。だから分かってるのかとばかり思ってましたぁ~。テヘッ」

 イライライラッ!!

「まぁまぁ怒らなでくださいよォ。それにマスター、この女性の好感度が1を振り切ってます。このままだと、関係崩壊の可能性がありますよ?」

「――誰の所為だ!!」

「まぁまぁそれはさておき、このままだと非常に困ったことになります。そこで、この携帯の機能でース!!MENUの、ロードボタンを押してくださーイ」

「――おい。他人事みたいに言ってるけど、元はと言えばお前の所為でこんなことになったんだぞ」

「じゃ、死にますか?」

 俺の言葉などお構いなしに、あっさりとそう返す。

 でも、それを言われると俺は一歩下がるしかない。

 このクソみたいな状況で、こいつは俺の生き死にを握っているのだ。

 逆らえる訳がない……。

 ――ぐっ……こんな奴に……。

 俺は渋々携帯を開くと、マチキャラのアリーナが指さすMENUボタンを押す。

「おにぃ、私の話聞いてる!?何で携帯なんて見てるの!?」

 まずい、由美の機嫌がさらに悪く……。

「マスター。早くロードボタンを押しやがれデす」

 ――あぁもう、どうにでもなれ!!

 俺はMENUのロードを選択し、決定キーを押した。

 ――グワンッ

 視界が暗転し、由美の声が遠くなっていく。そして、何もかもが無に染まる。


 ――ゲームデータをロードします。

 ――Now Loading…………。

 ――Now Loading……。

 ――ロードが完了しました。


 ――ドテンッ!

「ぐはっ!」

 後頭部に激しい痛みを感じながら、ゆっくりと目を開ける。

 これは……デジャヴ?

「て、えぇ!?」

「おはようございますマスター。どうやら成功のようですね」

 アリーナの声が聞こえる。どうやらさっきまでのことは夢ではないようだ。

 何が起こったんだ……いや、なんとなく予想はついている。

 俺は携帯を開き、時間を確認する。

「7時15分……じゃぁホントに」

「そうでース。マスターはこのゲームをロードして、スタート地点に帰ってきたのでース」

 もう、なんでもありだな……。

 ――いやまてよ。

 このゲームは、時計の針が12時を示した時、終了する。そうアリーナはいっていた。つまり、時計の針が12時を示さなければ、俺は死なないということだ。

 そして、この力を使えば時間を巻き戻せる。

 つまり、時計の針が12を示すことは永遠にない!!

 ――俺、無敵ジャン!!

「なーに、都合のいいこと考えてるんデすか。このゲームが、そんなヌルゲーな訳がないじゃないデすか。それに、私は言いマした。その時計は、空間時計だと……。マスター、時計の針をよーく見て下さい」

「……ん?」

 俺は携帯に取り付けられたアンティーク時計の針を凝視する。

「……嘘、だろ」

 時計の、普通では秒を示す針が、数目盛進んでいる。

「この時計は空間時計。どんな空間の歪みがあっても、正確な時を刻む時計。だから、この携帯の力を使っても、この針は戻らず、変わらぬ時を刻み続ける。そして、マスターが力を使ったことで、このゲームのチュートリアルは終了しました。ここからが、本当の意味でのゲームスタートデす。もう、あと戻りは出来ません。覚悟してください」

「そんな、覚悟しろっていったて……」

「泣き言なんて言ってんじゃねぇデスよヘタレマスター。とっとと支度しやがってください、妹さんが来ますよ」

 ――こいつ。下手に回れば言いたい放題言いやがって……。

「私の方が立場は上デす。敬語使いやがれデす」

「心読むなよ!!」

「文句が多いデスね。仕方ないじゃないデスか、読めてしまうのですから」

 アリーナはそう言うと、画面の中で不機嫌そうに頬を膨らませる。

 あーもう、なんで俺だけがこんな目に……。

 本当なら昨日、ゲーセン行って、コンボ決めて、家帰って、エロゲーやって、清々しい朝を迎える筈だったのに……。

 なんでこんな、性悪マチキャラに罵られて訳わかんねぇ状況になってんだよ……。

 俺の平穏な生活を返せ!!

「おにぃ~朝だぞー!!おっきろー!!……て、もう起きてる!?」

 バタンと勢いよく扉が開き、愛しの由美ちゃんが現れる。

 その瞬間、さっきまで考えていたことがどうでもよくなった。

 俺は携帯をポケットにしまって、由美の方を向く。

 前回は動揺して失敗してしまったからな……今度こそ良いお兄ちゃんを演出しなければ。

「おはよう。ベッドから落ちて目が覚めたんだ」

 あれ……なんかカッコ悪くね?

「ははは、またぁー?おにぃ相変わらず寝相悪いんだね。気を付けなよー」

 あれれ!?なんかいい感じだぞ。よし、このまま……。

「うん、今度から気をつけるよ」

「うむ。お兄ちゃん、母さんがごはん出来たから下きなさいって、ほら~起きて起きてー」

 由美は、あははと笑うと、俺を引っ張り上げる。そして、俺の背中を押しながら、リビングへと向かった。


 一度目の様な失敗もなく、この体の主に完全になりきった俺は、朝食を終え、学校に行くしたくを整えると、そそくさと家を出た。今は、高校へ向かい通学路を歩いている。以前の体より数センチ高いこの体で見る景色は、いつも見ているものと少しばかり違って見えた。

「なぁアリーナ、俺はこれからどうすればいいんだ?」

「うーん、わかんねぇデスね」

「おい!!」

「冗談デスよ~携帯のメニュー画面に、新しい項目が増えていると思います。それを確認してみて下さい」



 俺はたくっと口ずさむと、アリーナに言われるまま携帯のメニュー画面を開く。そこには、具現化という項目が増えていた。

 ――具現化?

 俺は、何となくそのボタンを押す。……すると。

 ――にょき


挿絵(By みてみん)



 画面が盛り上がり、徐々に何かを形作っていく。

そしてそれは……画面に写っていた待ちキャラ「アリーナ」に姿を変えた。

「………」

 ――は?

「うーん……やっと狭苦しい空間から抜け出せました~あざース!マスター」

「お……おま、どうなってんだよ!?なんでお前が!?」

「これが本来の私の姿、さっきまでのが、仮の姿だったのデす!!」

 呆気に囚われ言葉を失っていると、携帯がブルブルと振動しだした。

「今度は何だ!?」

 携帯を開くと、ブオンッと文字が飛び出し、目の前にまるでギャルゲーの「あれ」みたいな物が表示されていた。


 ――1 学校に行く。

 ――2 商店街へ行く。

 ――3 家に引き返す。


「これって……選択肢……?」

 そう、それはまさしくアドベンチャーゲームにおける唯一の行動手段、「選択肢」だった。

 そして俺は確信した。このゲームの本当の姿を……。

「ゲームってまさか……エロゲーかよ!!」

「マスターの得意分野デすね!!」

「え、いや俺、まだ十五歳だし~、そ、そんな如何わしいゲームやったことねぇし~」

 何故か、他人から言われると無性に恥ずかしくなって嘘を付くのは、俺がコミュ症のヲタク野郎だからなのだろうか……。

「マスターの得意分野ですね!!」

 くそぉぉぉっ、そうだよ!!そうですよ!!認めるよ、俺はエロゲーが、二次元美少女が大好きな、腐れヲタクだぁぁ!!

「きもっ……死ねばいいのに……」

 アリーナが舌打ちと共に、冷たい目線で吐き捨てる。

 止めてっ!!そんな目で俺を見ないで!!

「……あっそうそう、選択肢も時間制限がありマ~す。画面右上の数字、その時間を過ぎると選択肢は消えてしまうので、早くして下サいね~」

 アリーナはかったるそうにそう言うと、浮き出ている文字の上を指さす。

 なん……だと?

 俺は目の前に表示されている数字を凝視する。

 あと……十秒

「だーーーーーーーどうすんだよ!!何にも考えてねぇぇぇぇぇ」

「ついでに、選択した行動と違う行動を取ったり、選択しなかったりすると、ゲームオーバーになりマすのでお気をつけ下さーい」

 こいつ、他人事だと思って……。

 俺は指で空に表示された選択肢のカーソルを、無意味に上下に動かす。

 まずい、まずい、まずい、まずい、まずい!!

「あと三秒デーす」

 あーーーーーーーーーーーーークソ!!

 ――ポチッ

 誤って決定キーに触れる。

 …………あ。


 ――3 家に引き返す


「3番?……マスター、家に何か忘れ物デすか?」



 ――くそったれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ