第二話 エロゲーのような恋をしろ!?
――ドテンッ!
「ぐはっ!」
後頭部に激しい痛みを感じながら、ゆっくりと目を開ける。
ここは……知らない部屋……。
あ、俺、ベッドから落ちたのか……。
「イテテテ……」と痛む後頭部を抑えながら起き上る。
「たく……どこだよ、ここ」
――タッタッタッタッ……「バタンッ!」
「おにぃ~朝だぞぉ!!おっきろ~!!……て、もう起きてる!?」
見知らぬ美少女が俺を兄と呼び、驚きの表情を浮かべる。
誰だ……!?
「どうしたの、おにぃ?バカみたいな顔してるよ??」
「え、えーと……君、誰だっけ?」
「………」
「………」
沈黙。
「お、おにぃが冗談を言うなんて……今日は雪でも」
「快晴だぞ」
「な、なんて鋭いツッコミ……!!おにぃ本当にどうしちゃったの!?」
少女は本当に驚いた様子で、俺をまじまじと見る。
そ、そんな見つめんなよ……。
少し照れながら横を向く。そして、そこにあった鏡を見て、俺は今の現状を理解した。
俺ではない男が、俺と同じ動きをする。……つまり。
――あっ俺、違う人間の体を乗っ取ったのか。
……て
「んなわけあるかぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺の絶叫は、ご近所などお構いなしに響き渡たったという……。
「朝から五月蝿いわよ~恭弥、由美。朝ごはん出来たから降りてらっしゃい」
「はーいお母さん、今行く~。ほら、おにぃも早く早く」
下から聞こえる母親と思われる女性の声に、由美が呼応する。
そして、俺の後ろに回り込むと、「早く早く~」と背中を押した。
妹に引っ張られる形で階段を降り、リビングのドアを開けて中に入ると、リビングテーブルの上に、暖かい食事が二人分置かれていた。俺と由美は、各々の席に座り、「いただきます」を言う。
「あれーお父さんまだ寝てるの?」
由美は自分の隣の空席を見て、母親に尋ねる。
「いいのよ、昨日残業で遅かったみたいだし、寝かせておいてあげましょ」
「ふーん、あっそうだおにぃ、おにぃが行く学校って、どんな学校なの?たしか、霧城学園高校だっけ?」
由美は、話題を変えて俺の方を向く。
あぁ俺転校生なのか~………て、ウチの学校じゃん!!
「え、えぇと……だな。いい学校……だと思うよ」
どう返答すれば良いか分からず、当たり障りの無いように答える。
「それじゃ分からないよ~」
「ぷー」と剥くれる妹を、「可愛い」と思ってしまった俺を、誰が責められるだろうか。
――「メールが届いたよ、メールが届いたよ」
聞き覚えのある着信音と共にバイブレーションでズボンのポケットが振動する。恐る恐るポケットに手を入れ、冷たい金属の物体を取り出す。それを見て、俺は悪寒を感じた。
――嫌な予感しかしない。
俺は携帯を開く。
ディスプレイには、あの夢と同じ待ちキャラがいて、「未読メールが1件あるよ」とコメントしている。
「……どうして」
「あれ?おにぃ携帯変えたの?見せて見せて~」
由美が手を伸ばして携帯を取ろうとする。
それを華麗にスルーしながら、俺は席を立つ。
「ごちそうさま。俺、ちょっと用が出来たから部屋戻る」
「ちょっ、おにぃ!?……もう、お母さん、今日のおにぃなんか変じゃない?」
慌てたようにリビングを出る兄を見ながら、由美は心配そうな声色で母に尋ねる。
「まぁあの子も年頃だしねぇ~いいんじゃない?」
「そんな適当な……」
「それよりあなたも早く食べちゃいなさい。初登校なのに、遅れちゃうわよ?」
「そんなのおにぃも同じじゃん……て、食べ終わってる!?」
綺麗に重ねられた兄の食器を見て驚く。
「食べ盛りねぇ~」
「やっぱ今日のおにぃ何か変……」
妹が兄に違和感を感じている時、兄の恭弥(啓太)は焦っていた。
――どうして……この携帯がここに。
もしかして、これがメールに書かれていた「ゲーム」なのか?
「……くそっ」
自室に入り、鍵を閉める。
そして、携帯の未読メールを選択し、決定キーを押した。
――新しい体には、もう慣れましたか?
――まぁそれはいいでしょう。
――これから、このゲームについての説明をします。
――説明は、ガイドインターフェイス1035「アリーナ」にさせます。ゲームについての疑問点なども御座いましたら、お気軽に、「アリーナ」にお申し付け下さい。
――では、ご検討をお祈りします。
文章はここで終わっていた。
……て
「アリーナって何だよ!!」
「私デーす」
どこからともなく声が聞こえる。
「……え?どこから聞こえて……」
「ここデーす」
手元から声が聞こえる……いや、まさか……。
「………」
「だからここデース!!」
やっぱり……ここから。
携帯を恐る恐る開くと、膨れっ面の待ちキャラが、俺を出迎えてくれた。
……はい?
「やっと気づいてくれまシタ」
「えっと……君が、「アリーナ」さん?」
「そうデーす。全く、私のマスターならもっと順応性と理解力を身につけて欲しいデーす。」
「す、すみません」
待ちキャラに怒られる俺って、いったい何なんだろう……。
「まぁいいでしょう。これから話すことを聞き漏らさないように、耳の穴かっポジってよく聞きやがって下サイ」
そう言って彼女は、画面の中で一回転すると背景を変える。
「では、ゲームのルールを説明しまース。あなたには、その体を使ってあることをしてもらいまース。それは……」
「それは……ゴクッ」
「…………」
「…………」
なんだろう、この間……凄く緊張する。
「指定の女の子とイチャイチャ、ラブラブして恋人になって貰うことデース!!」
「……は?」
「正確には、ラブラブイチャイチャしながら、行けるとこまで行って欲しいのでース」
「…………」
……ごめん、色々着いて行けないや。
「つか、何でわざわざ他人の彼女を作る手助けしないといけねぇんだよ」
「そんなの私は知りませーン」
……イラッ
なんだろう。一言一言イラつくな、こいつ。
「とにかく、マスターは女の子と甘~い時間を過ごせばいいのデす。文句は受け付けてません。それでも、嫌だと言うならゲーム放棄とみなし、退場してもらいまース」
「それって……」
「はい。死んでもらいます」
不意に真面目な顔をしたアリーナがそう言い放つ。
そうだった……俺はもう、死んでいるんだ……。
「わ、わかった。やればいいんだろ」
「わかって貰えて嬉しいでース」
「でも俺、女子と付き合ったこととかないし、どうすれば彼女が出来るとか分かんねぇよ?エロゲーなら完璧だけどな」
そう、俺は生まれてこの方、女性と付き合ったことがない。つまり、彼女いない歴年齢の淋しい奴なのだ。そんな俺に彼女を作れだって?はっ、無理無理。自慢じゃないが、俺はかなりのヘタレだ。女をエスコートし、尚且、キ、キスをするなんて芸当出来る訳がない。
自分で言って、自分で傷つく……。
ふ、ふん、いいよーだ!!2次元こそが俺のリアル、3次元なんて知るかっ!!
「ふふふ。そんなヘタレで、甲斐性なしで、優順不断で、おまけにヘタレなマスターでも大丈夫!!なんとこの携帯電話には、特殊機能が付いているのダー!!」
「ヘタレ二回言った!?」
つか、特殊機能???
「このケータイには、特殊な機能が4つ付いていまス。MENUボタンを押してみて下さいデス」
待ちキャラのアリーナはそう言うと、携帯右上のMENUボタンを指さす。
ボタンを押すと、画面に3つの選択ウィンドウが表示された。
なになに……。
――「myカノ・データ」
――「セーブ」
――「ロード」
なんだこれ?
「これはダメダメなマスターでも、女の子とラブラブになれる……かもしれない……画期的なシステムデーす!!では、一番上を選択して下さい」
こいつ、いちいち気に障る言い方するな……待ちキャラの設定切ってやろうか。
まぁいいや。
この「myカノ・データ」?これを選択すればいいんだなよな。
一番上を選択して、決定キーを押す。すると、見覚えのある少女の画像と、その少女に関する情報が画面に表示された。
「これって……」
「そうでース。これが今回、マスターが落とすターゲットでース。中々可愛い女子じゃないですか~」
アリーナは表示されている女子の画像を、ツンツン突きながらニシシと笑う。
でも、可愛い……か。
それはそうだろう。
「御崎 香奈」学園のアイドルで女子テニス部のエース。文武両道の完璧超人。
そんな彼女を、俺が口説き落とす?
――無理だ……。
そもそも話したこともないし、どんな人物なのかも詳しく知らない。
いきなりハードル高過ぎだろ……。
「無理無理って……ホントにヘタレで無能なマスターデ~す」
アリーナがやれやれといった様子で首を振る。
凄くイラッとした。
つか、人の心読むな!!
「はぁ~全く……本当に分かっていないようですね。マスターには、時間がないんですよ?」
「え……?」
いきなり真剣な顔をするアリーナに、拍子抜けする。
「携帯のボディーに付けられた時計。これは、空間時計。どんな空間の歪みがあっても、正確な時を刻む時計。そして、この時計の針が12時を示したとき、このゲームは終わります」
俺は携帯を裏返してボディに取り付けられたアンティークな感じの時計に目をやる。
しかし、時計の針が動く様子はない。
「おい、マチキャラ。この時計動いてねぇぞ」
「動いています。ただ、普通の時計とは違った速度で時を刻んでいるのデす。あと、マチキャラじゃないデす。ガイドインターフェース、アリーナ。名前で呼んで下さい」
「な……あぁ悪かったな……アリーナ……。それで、違う速度ってどういうことだ?」
「はぁ~、まぁいいでしょう……。この時計は通常の1/30の速度で時を刻みまス。その理由には諸説ありますが、今はいいでしょう。そして、この時計が12を示した時、マスターがまだゲームをクリア出来ていなければ、マスターの魂は完全にこの世から消滅してしまいます」
アリーナはそう告げると、真剣な眼差しを俺に向ける。
「そんな……嘘だろ」
「大丈夫、そうさせない為に、私がいるのです。では、次は選択肢とセーブ・ロードについての説明を――」
――ガチャガチャ
「……あれ?おにぃー、なんで鍵なんか掛けてるの?開けてよーねぇー」
妹の由美がドアを叩く。
「くそっ。まだ話の途中なのに……」
俺は舌打ちしながらドアノブに手を掛ける。
「まぁいいじゃないですか。それに、説明の手間が省けますし……」
「?」
アリーナの意味深な言葉に疑問符を浮かべながら、ドアを開ける。すると、ムスーと頬を膨らませた愛しのmyシスターが、俺を上目使いで出迎えてくれた。
いやぁー癒されるよね。妹サイコー!!
「おにぃ、今誰と話してたの?」
少し不機嫌そうな表情のまま由美は尋ねる。
「い、いや~独り言だよ」
頑張って言い訳をする。
「でも、キスがどうとか言ってた……」
ぐっなんてピンポイントな所を……侮れないな妹。
「マスター、今こそ、この携帯の出番でース!!」
アリーナの声が俺の鼓膜を刺激する。
「うっせーよ!!今それどころじゃ……!!」
「えっ……おにぃ?」
アリーナに向けて言い放ったつもりの言葉に、由美が反応し目を丸くする。
「い、いや、これはこの携帯に言ったのであってお前に言った訳では……」
手に持った携帯を指さしながら必死に説得する。
「おにぃ、やっぱり今日おかしいよ?頭でも打ったの?私なんか心配だよ……」
由美は本当に心配そうに俺を見る。
「くすくす……すみません。独り言……傍からみたら、キモ過ぎです、マスター……」
笑いを押し殺した震えた声で、アリーナが呟く。
俺はイラッとして舌打ちする。
しかし、由美はそんな俺を見て疑問符を浮かべていた。
――まさか……!!
「そうデすよ、私の声はマスターにしか届いてまっせーン」
イラッ
――こいつ……すべて終わったら絶対に折ってやる。
少しキツ目に携帯を握りながら決意する。
「い、痛いデすマスター!!それに、そんなことしたらマスターも御陀仏デーす!!あっそうだ……言い忘れてましたが、私はマスターの心にリンク出来るので、マスターは別にしゃべらなくていいんデすよ?」
――先に言えぇぇぇぇぇぇぇ……!!
「だって、「心を読むなー」とか言ってたじゃないですかぁー。だから分かってるのかとばかり思ってましたぁ~。テヘッ」
イライライラッ!!
「まぁまぁ怒らなでくださいよォ。それにマスター、この女性の好感度が1を振り切ってます。このままだと、関係崩壊の可能性がありますよ?」
「――誰の所為だ!!」
「まぁまぁそれはさておき、このままだと非常に困ったことになります。そこで、この携帯の機能でース!!MENUの、ロードボタンを押してくださーイ」
「――おい。他人事みたいに言ってるけど、元はと言えばお前の所為でこんなことになったんだぞ」
「じゃ、死にますか?」
俺の言葉などお構いなしに、あっさりとそう返す。
でも、それを言われると俺は一歩下がるしかない。
このクソみたいな状況で、こいつは俺の生き死にを握っているのだ。
逆らえる訳がない……。
――ぐっ……こんな奴に……。
俺は渋々携帯を開くと、マチキャラのアリーナが指さすMENUボタンを押す。
「おにぃ、私の話聞いてる!?何で携帯なんて見てるの!?」
まずい、由美の機嫌がさらに悪く……。
「マスター。早くロードボタンを押しやがれデす」
――あぁもう、どうにでもなれ!!
俺はMENUのロードを選択し、決定キーを押した。
――グワンッ
視界が暗転し、由美の声が遠くなっていく。そして、何もかもが無に染まる。
――ゲームデータをロードします。
――Now Loading…………。
――Now Loading……。
――ロードが完了しました。
――ドテンッ!
「ぐはっ!」
後頭部に激しい痛みを感じながら、ゆっくりと目を開ける。
これは……デジャヴ?
「て、えぇ!?」
「おはようございますマスター。どうやら成功のようですね」
アリーナの声が聞こえる。どうやらさっきまでのことは夢ではないようだ。
何が起こったんだ……いや、なんとなく予想はついている。
俺は携帯を開き、時間を確認する。
「7時15分……じゃぁホントに」
「そうでース。マスターはこのゲームをロードして、スタート地点に帰ってきたのでース」
もう、なんでもありだな……。
――いやまてよ。
このゲームは、時計の針が12時を示した時、終了する。そうアリーナはいっていた。つまり、時計の針が12時を示さなければ、俺は死なないということだ。
そして、この力を使えば時間を巻き戻せる。
つまり、時計の針が12を示すことは永遠にない!!
――俺、無敵ジャン!!
「なーに、都合のいいこと考えてるんデすか。このゲームが、そんなヌルゲーな訳がないじゃないデすか。それに、私は言いマした。その時計は、空間時計だと……。マスター、時計の針をよーく見て下さい」
「……ん?」
俺は携帯に取り付けられたアンティーク時計の針を凝視する。
「……嘘、だろ」
時計の、普通では秒を示す針が、数目盛進んでいる。
「この時計は空間時計。どんな空間の歪みがあっても、正確な時を刻む時計。だから、この携帯の力を使っても、この針は戻らず、変わらぬ時を刻み続ける。そして、マスターが力を使ったことで、このゲームのチュートリアルは終了しました。ここからが、本当の意味でのゲームスタートデす。もう、あと戻りは出来ません。覚悟してください」
「そんな、覚悟しろっていったて……」
「泣き言なんて言ってんじゃねぇデスよヘタレマスター。とっとと支度しやがってください、妹さんが来ますよ」
――こいつ。下手に回れば言いたい放題言いやがって……。
「私の方が立場は上デす。敬語使いやがれデす」
「心読むなよ!!」
「文句が多いデスね。仕方ないじゃないデスか、読めてしまうのですから」
アリーナはそう言うと、画面の中で不機嫌そうに頬を膨らませる。
あーもう、なんで俺だけがこんな目に……。
本当なら昨日、ゲーセン行って、コンボ決めて、家帰って、エロゲーやって、清々しい朝を迎える筈だったのに……。
なんでこんな、性悪マチキャラに罵られて訳わかんねぇ状況になってんだよ……。
俺の平穏な生活を返せ!!
「おにぃ~朝だぞー!!おっきろー!!……て、もう起きてる!?」
バタンと勢いよく扉が開き、愛しの由美ちゃんが現れる。
その瞬間、さっきまで考えていたことがどうでもよくなった。
俺は携帯をポケットにしまって、由美の方を向く。
前回は動揺して失敗してしまったからな……今度こそ良いお兄ちゃんを演出しなければ。
「おはよう。ベッドから落ちて目が覚めたんだ」
あれ……なんかカッコ悪くね?
「ははは、またぁー?おにぃ相変わらず寝相悪いんだね。気を付けなよー」
あれれ!?なんかいい感じだぞ。よし、このまま……。
「うん、今度から気をつけるよ」
「うむ。お兄ちゃん、母さんがごはん出来たから下きなさいって、ほら~起きて起きてー」
由美は、あははと笑うと、俺を引っ張り上げる。そして、俺の背中を押しながら、リビングへと向かった。
一度目の様な失敗もなく、この体の主に完全になりきった俺は、朝食を終え、学校に行くしたくを整えると、そそくさと家を出た。今は、高校へ向かい通学路を歩いている。以前の体より数センチ高いこの体で見る景色は、いつも見ているものと少しばかり違って見えた。
「なぁアリーナ、俺はこれからどうすればいいんだ?」
「うーん、わかんねぇデスね」
「おい!!」
「冗談デスよ~携帯のメニュー画面に、新しい項目が増えていると思います。それを確認してみて下さい」
俺はたくっと口ずさむと、アリーナに言われるまま携帯のメニュー画面を開く。そこには、具現化という項目が増えていた。
――具現化?
俺は、何となくそのボタンを押す。……すると。
――にょき
画面が盛り上がり、徐々に何かを形作っていく。
そしてそれは……画面に写っていた待ちキャラ「アリーナ」に姿を変えた。
「………」
――は?
「うーん……やっと狭苦しい空間から抜け出せました~あざース!マスター」
「お……おま、どうなってんだよ!?なんでお前が!?」
「これが本来の私の姿、さっきまでのが、仮の姿だったのデす!!」
呆気に囚われ言葉を失っていると、携帯がブルブルと振動しだした。
「今度は何だ!?」
携帯を開くと、ブオンッと文字が飛び出し、目の前にまるでギャルゲーの「あれ」みたいな物が表示されていた。
――1 学校に行く。
――2 商店街へ行く。
――3 家に引き返す。
「これって……選択肢……?」
そう、それはまさしくアドベンチャーゲームにおける唯一の行動手段、「選択肢」だった。
そして俺は確信した。このゲームの本当の姿を……。
「ゲームってまさか……エロゲーかよ!!」
「マスターの得意分野デすね!!」
「え、いや俺、まだ十五歳だし~、そ、そんな如何わしいゲームやったことねぇし~」
何故か、他人から言われると無性に恥ずかしくなって嘘を付くのは、俺がコミュ症のヲタク野郎だからなのだろうか……。
「マスターの得意分野ですね!!」
くそぉぉぉっ、そうだよ!!そうですよ!!認めるよ、俺はエロゲーが、二次元美少女が大好きな、腐れヲタクだぁぁ!!
「きもっ……死ねばいいのに……」
アリーナが舌打ちと共に、冷たい目線で吐き捨てる。
止めてっ!!そんな目で俺を見ないで!!
「……あっそうそう、選択肢も時間制限がありマ~す。画面右上の数字、その時間を過ぎると選択肢は消えてしまうので、早くして下サいね~」
アリーナはかったるそうにそう言うと、浮き出ている文字の上を指さす。
なん……だと?
俺は目の前に表示されている数字を凝視する。
あと……十秒
「だーーーーーーーどうすんだよ!!何にも考えてねぇぇぇぇぇ」
「ついでに、選択した行動と違う行動を取ったり、選択しなかったりすると、ゲームオーバーになりマすのでお気をつけ下さーい」
こいつ、他人事だと思って……。
俺は指で空に表示された選択肢のカーソルを、無意味に上下に動かす。
まずい、まずい、まずい、まずい、まずい!!
「あと三秒デーす」
あーーーーーーーーーーーーークソ!!
――ポチッ
誤って決定キーに触れる。
…………あ。
――3 家に引き返す
「3番?……マスター、家に何か忘れ物デすか?」
――くそったれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!