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第十六話:発掘師研修その二

 おそらく、いや、まず間違いなく新幹線の車両だと思われる反応につきあたった直後、ともに研修に参加している他の者たちからも、なにかを見つけたという叫びが上がっていた。

 俺の右後方の壁を調べていた野郎の新人発掘師と、左後方を空べていた女子の新人発掘師だ。

 それぞれのインストラクターである山岸さんと遥も、声の上がった方へ駆け寄っている。


 このとき俺は、探し当てた巨大なお宝をどう報告しようか考えていた。

 巨大なお宝は壁の奥五十メートルという離れた距離にある。

 たどり着くまで掘り進めるには、かなりの時間と労力を要するだろう。

 一旦坑道を出て、地上側から回り込んでお宝を掘り出すことも考えたが、そのためには結局、運び出すために山を切り崩して道を作らねばならない。

 そう考えたら、ここから掘り進めた方が早そうな気がしてきた。


「一班は作業を中断して集まれ!」

「二班も集合よ!」


 あれこれ考えているうちに、山岸さんと遥が新人たちにそれぞれ集合をかけた。

 俺は一旦思考を中断し、山岸さんの方に向かう。

 本当は遥の呼ぶ女子班の方に行きたかったが、それは身勝手すぎる考えだろう。

 しかし、なぜ男女を分けた班組にしたのだろうか。

 なんてことも一瞬考えたが、今考えることじゃないなと、頭の奥にしまいこんだ。


「ようし、集まったな。この壁の奥に”気”だまりと、金属製の何かがある。探し当てた者以外の者もここから実際に探ってその感覚を確かめろ。まずはお前からだ」


 山岸さんはそう言って一人を指名し、さらに続ける。


「いいか、時間は一人づつ最長三分だからな。三分で分からなかった奴は後回しだ。感触をつかめた奴は次の者と交代しろ」


 一人づつ確かめるのは互いの”気”が相手の邪魔をしないようにするためだろう。

 山岸さんは、左腕の腕時計で時間を測っている。

 すると。


「二メートルくらい奥に金属の塊を感じます!」


 興奮した感じでそう叫んだ新人発掘師に、山岸さんがニヤリと笑みを浮かべる。


「それ以外は何か感じないか」

「………… いえ、俺には分かりません」

「よし、次はお前だ!」


 こうして、次々と交代して感触を確かめていったわけだが、残り後二人、つまり待っているのが俺一人となったところで、あることに気がついたようだ。


「たしかに二メートルくらい奥に金属があります。けど、もっと奥、五メートルくらいのところに…… !」


 驚いたように慌てて壁から手を放して”気”の放出を止めた新人発掘師に、山岸さんが嬉しそうに笑みを浮かべた。

 気になった俺は、まだ交代を告げられていなかったが、針のように細くした”気”をそれとなく壁の奥に送り込み、その正体を確かめる。

 そして、それが何なのかも、すぐに理解できた。


「気がついたか」

「はい。何かおぞましい感触が……」

「よく気がついたな。たしかに、この奥二メートルから四メートルのところに金属塊がある。しかし、壁のようなものを隔てたその奥に”妖気”だまりがある――」


 壁の奥二メートルから四メートルのところに、”気”だまりと自動車だろう金属塊があり、その奥に倒れ込むような形でコンクリートの厚い壁を感じた。

 そしてその奥はたしかに”妖気”だまりで、そこは複雑に入り組んだコンクリートだらけの空間だった。

 山岸さんは一班の新人発掘師を、”気”力が弱い者から順に確かめさせていたのだ。

 それが、俺の順番が最後になった理由であり、俺以外の新人発掘師の中で最も”気”力が高い彼だけが、”妖気”だまりに気づけた理由だった。


「空! そんなとこからコッソリ確かめてないで、やるならちゃんと前に出てやれ」

「スミマセン! ば、バレてましたか」


 探っていることをまわりに気づかれないようにしていたつもりだったが、山岸さんには見抜かれていた。

 さすがは特級発掘師である。

 今後、この人の前では迂闊なことはなるべくしないようにしなければなるまい。


「まあいい。で、どうだった」

「山岸さんが説明してくれた通りですよ。でも、”妖気”だまりがある空間はゴチャゴチャしてて入り組んでいて狭いですが、地上まで繋がっています。そして、動いている何かがいます。たぶん妖魔? だと思いますが」

「ほう! そこまで分かるか。”気”力五桁は伊達じゃねぇな。言っておくが俺でも地上までは確かめられん」


 ”気”力五桁とか山岸さんが余計なことを言ってくれたおかげで、野郎どもの視線が痛いことこの上ない。

 しかし、このときに感じた視線は、食堂や馬車の中で感じた妬みの視線とは違っていて、純粋に驚いているものと、悔しさに満ちたものとの二種類が混在していた。

 特に、”妖気”だまりを見抜いた新人発掘師が悔しそうな顔をしている。


 もし俺が彼の立場だったら、悔しいとは思わずにスゲーと驚くだけだろう。

 そして、他人は他人と割りきって考えるはずだ。

 天から授けられた能力の大小など、偶然の産物にしか過ぎないのだから。

 こう考えてしまうのは驕りなのだろうか、それとも、育った時代的背景の違いなのだろうか、今の俺では理解できない。

 しかし理由はどうであれ、気分がいいことではなかった。

 俺は他人の上に立って喜んだり、力の差を見せつけて悦に入ったりするような趣味は持ち合わせていないのだから。

 まぁ、褒められれば嬉しくなって調子に乗るタイプなのは否定しないが。


「俺は二班の遥嬢とこのあとの方針を打ち合わせてくる。”妖気”だまりに気づけなかった者は、その間にもう一回探ってみろ。妖気だまりの範囲は広い。間隔を三メートルほど開ければ互いの”気”が干渉することはないはずだ」


 山岸さんが遥の所に行ったあと、ほとんどの者は再度壁に向かって探りを入れはじめたわけだが。

 遥と女子たちの様子でも伺おうかと思っていたところに、一人の男、見た目は俺よりも若く、灰色のツナギの上から使い古された革製のベストを羽織った男が近づいてきた。

 一班の中では一番みすぼらしい恰好をしているが、”妖気”だまりの存在を見抜いた男だ。


「お前、空とか言ったな。ちょっと”気”力が高いからっていい気になってんじゃねぇぞ」


 完全な言いがかりである。

 しかも、名のりもしないとは、はなはだ失礼な奴だ。

 それがこのときこの男に抱いた第一印象だった。


「べつに、いい気になっているわけじゃないぞ、それに、お前のセリフこそ完全な言いがかりじゃねぇか。しかもなんだぁ、ちょいと出のやられ役みたいなセリフ吐きやがって。名のりもしねぇし、ふざけた野郎だ」


 好き放題言われて、はいそうですか気をつけます、などと下手に出るような性格を俺は持ち合わせていなかった。

 もともと俺は好戦的ではないが、一方的に口撃されて、それに反撃しないことなどありえない。

 そう考えると、俺も案外狭量なのかもしれないが。


「なっ! 名のってやろうじゃねぇか、阿古川哲也だ。しかしお前、やられ役とは言ってくれるな。なんなら、ここで試してやってもいいんだぞ」


 顔を赤くして激高してきた阿古川哲也は、いつ殴りかかってきてもおかしくない様子だ。

 しかし。


「バカかお前は、今は研修中だ。研修が終わったあとならいつでも相手になってやるさ」

「バカとは言ってくれるな。ほえ面かかせてやるから覚えとけよ」


 そう言って、鼻息荒く阿古川哲也は俺から離れた。

 つい勢いで相手になると口を滑らせてしまった俺は、まんまと挑発に乗せられたかたちになってしまったわけだ。

 が、奴の”気”力は、多くても遥の半分程度だ。

 俺が負けることなどあり得ないだろうし、というか、本気で相手をするのはマズイだろうと、このとき俺は思った。


 ちょっとしたハプニング、というか、もめ事というか、気分がいいとは言えない一幕だったが、そのおかげで、遥と女子たちの様子見過ごしてしまった。

 そう思っていると、話し合いがまとまったのだろう、山岸さんと遥、それに二班の女子たちがこっちに歩いてきた。


「ようし、みんな注目しろ。今からここを掘ってもらう。二班の方にもお宝の反応はあったが、向こうには近くに”妖気”だまりがなかった――」


 山岸さん曰く、発掘師として避けては通れない妖魔との戦い、まずはそれに慣れることが重要らしい。

 ”妖気”だまりを避けて戦わないという選択肢もあるが、ぎりぎりで発掘師になった者たちならともかく、俺たち”気”力が強い発掘師は、できるだけ妖魔と戦って、その後を通る”気”力が弱い発掘師や、土木業者の脅威を取り除いておく必要があるとのことだった。


 この考え方は、たしかに理にかなっており、納得もできる。

 さておき、壁の奥に埋まっている車。

 そのすぐ奥にいる妖魔。

 となればどんな妖魔が顔を出すのか? と、興味を抱いた俺だったが。


「空とそこのお前、”妖気”だまりに気づいたお前だ」

「はい。阿古川哲也といます」

「阿古川と空、お前たち二人は見学だ。遥嬢、そっちの班からも”気”力が高い者を除いてくれ」

「ふん、お前に言われなくても」


 遥の指名により、女子班からは四人が見学を言い渡されていた。

 その女子たちは喜んでいるようだったが、阿古川哲也は見学を言い渡されたことに納得がいかない様子だった。

 当然俺も納得できない。

 理由を聞こうと口を開きかけた俺を押しのけるように、阿古川哲也がその理由を質問していた。


「あの、何で俺たちは見学なんですか?」

「分からんのか? お前が見つけた”妖気”だまりにいる妖魔はどれも小物ばかりだ。お前たちが戦いに参加したら他の者たちの訓練にならん」


 理由を聞いた阿古川哲也は、”気”力が高いと認められたにもかかわらず、まだ不満そうな顔をしている。

 もしかしたらコイツは戦闘狂なのかもしれない。


「では堀りはじめるぞ。お前とお前だ。他の者は掘り出した土や石を均せ」


 こうして、ようやく発掘作業がはじまったわけだが、探し当てた目標が浅いところにあり、サイズもそれほど大きくないため、二人で掘って残りは掘った土や石を均すことになった。

 もっと深くまで掘り進めたり、大物を掘り起こす場合は、掘り出した土や石を外まで運び出すらしい。

 そんなこと遥に聞きながら、俺は均し作業をしていたわけだが、掘り起こす量が少ないため、手持ちぶたさが募る結果になった。

 他の者たちも、積極的に作業に参加しているが、わりとヒマそうにしている。


 しかし、そのヒマな時間もすぐに終わることになった。

 発掘をはじめてから、目的の金属塊が出土するまで、時間にして十分かからなかったのだ。

 二人で掘っているとはいえ、高さ二メートル五十センチ、幅四メートル、奥行き二メートル強をこの時間で掘ってしまうのは、”気”による強化があってこそだろう。

 そして、密度の高い”気”があふれ出し、同時に出てきた金属塊は、俺の予想通り自動車だった。

 大きく取り囲むように発掘の様子を見ていた新人たちから小さな歓声が上がる。


「ここからは慎重に行け。いいか、上にかぶさっている壁と車を避けて周りを掘るんだ。他の者はいつ妖魔が飛び出してきても対処できるようにしておけ」


 潜んでいるのはおそらく野ネズミが妖魔化したものだ。

 野ネズミは動きが素早く、数も多いので刀剣やツルハシで戦うには向かない相手だと資料には書いてあった。

 ならばどうやって戦うか?

 簡単なことだ。

 ”気”をぶつけて妖魔のもつ”妖気”を対消滅させればいい。

 小型で動きが素早い妖魔の場合、武器を使わずに”気”だけで対処した方が戦いやすいのだ。

 大きく取り囲むように待ち構える新人発掘師たちもそれが分かっているようで、ツルハシを構えている者は一人もいなかった。


「よし、車を引きずりだせ。いいか、来るぞ」


 露わになった自動車は、壁に半分押し潰されたようにひしゃげており、タイヤは朽ちたのだろう、無くなっていた。

 その車体に二人が手を掛け、慎重に穴から引きずり出してゆく。

 そしてそれとともに、ゆっくりと壁が倒れ落ちた。

 同時に、壁の向こうから何とも言えないおぞましさを含んだ空気が漂いはじめる。

 これが”妖気”なのだろう。

 そして。


「来るぞ!」


 山岸さんの叫びと共に、倒れた壁の向こうから勢いよく小さな物体が何体も飛び出してきた。

 ”気”によって強化された動体視力で捉えたそれは、体長二十センチほどの、紫がかった黒い大ネズミだった。

 俗な言いかたをすれば、大型のドブネズミだ。

 ただしネズミといっても、俺が見慣れていた、いや、見慣れるほど頻繁には遭遇していないが、とにかく俺の記憶にあるネズミとは、動きもその体つきも、異なものだった。


 ネズミのような小動物は、通常人間やイヌネコのような大型の動物に対し、怯えるように逃げ回るものだ。

 しかし、妖魔化したネズミは、人間に対して怯えの一切を見せず、大きく広げた口から、三センチはあろうかという尖った前歯を突き出して、首筋めがけて飛び掛かっていった。


 そんな凶暴化したネズミの妖魔に対して、相対する新人発掘師たちは二通りの反応を見せていた。

 野郎どもは総じて冷静に、飛び掛かってくるネズミに圧縮して高めた”気”をぶつけて戦っている。

 しかし、女子の一部が、ネズミを認識した途端に腰を抜かし、キャーッ、と悲鳴を上げてしまった。

 これはあれだろうか? 時代背景は違えど、ネズミやゴキブリみたいな気持ち悪い生き物は、生理的に受けつけないのが女子の定めなのだろうか。


 ともかく、腰を抜かして座り込んでしまえば、勢いよく飛び掛かったネズミはその上を素通りするわけで、後ろで見学していた俺たちの方にそのまま向かってきた。


「コラッ! ネズミごときを恐れるな。それでも発掘師か!」


 とは、遥の叫びであるが、生理的に受けつけないものを克服するのは、この短時間では難しいことだろう。

 そして、それは見学に回っていた女子たちにも言えることで。


「キャーッ!」


 という叫びとともに腰を抜かし、再度目標を失うことになったネズミは、そのままの勢いで俺に向かってきたが、とっさにかざした手から”気”を放出して事なきを得た。

 そして、目の前にいた腰を抜かした小柄の女の子が、俺の腰にすがりつくように抱きついてきたのだった。

 しかも、それを見ていた他の女子までが、全員に俺のところにすがりついてきたのには参った。

 というか嬉しかった。

 最後の一人は、なにかわざとらしい感じがしたが、それでも、女子たちにこうやってまとわりつかれるのは悪い気がしないわけで。

 とくに、両膝と腰にあたる柔らかくて弾力のある感触が、俺の平常心を奪い去るのに、さして時間がかからなかったのは言うまでもない。

 しかも、最初にすがりついてきた女の子が、強烈に俺の両足に抱きつき、プルプルと体を震わせるものだから、両膝に押し付けられた膨らみの感触が、否応なしに俺の血流を一点に集めはじめた。


 これはマズい。

 と、焦りはじめた俺だったが、さいわい、すがりつく女の子の頭に隠れて、恥ずかしい小山を見られるまえに対処できた。

 もし遥に見られでもしたら、言いわけが思いつかない。

 これは、山小屋で遥に対してそうなったときの教訓で、訓練しておいた成果でもある。

 が、実のところを白状すると、将来のDT卒業の際に、自由自在に股間の血流を操れるようになろうと訓練した成果だったりする。


 それはそうと、新人たちが討ち漏らしたネズミをあらかた片付けた遥が、鬼のような形相で俺の方に歩いてくるではないか。

 これはアレだろうか?

 女子たちにすがりつかれて喜んでいる俺への怒りだろうか。

 でなければ不甲斐ない女子たちへの怒りか。

 などなど考えていたら、答えはその両方だった。

 ドキドキしながらも頬の肉が弛緩することを止められなかった俺に向かって、怖い顔でまず一言。


「空! 鼻の下伸ばしてだらしない顔しない」


 そして、俺にすがりついている女子たちの奥襟をつかみ、力ずくで一人一人引きはがすと。


「そして貴女たち、ネズミごときになんて情けない」


 女子たちは、ご立腹の遥に一人を除いてシュンとうなだれていた。

 残る一人はといえば、いまだに情けない顔で涙を浮かべ、ガチガチと震えている。

 しかし、これはなんなんだろう。

 一言でいえば、そそるっ! なのだが。

 保護欲を駆り立てられると言ったらいいのか、恐怖におののき、生まれたての小鹿のように震える小柄な女の子が、可愛いのなんのって、思わず抱きすくめたくなるほどだった。

 このときほど、この研修に参加してよかったと思えたことはない。


 エロさとは全く無縁でありながら、俺の心を激しく揺さぶるこの感情。

 どこかで聞いたことがある。

 そうだ、これはいわゆる一つの”萌え”というものじゃないだろうか。

 みたいなことを考えていたら、よほどだらしない顔をしていたのだろう。


「空ぁ~! まったくあんたって男は、節操がないというかなんというか。ほんっと、女に目がないのね」


 そう言ってプイっと横を向いた遥もまた、なにげに可愛い。

 と、エロ嬉しいやら萌え狂いそうになるやら、なにげに俺得な気分に浸れた時間は終了し、研修が再開されることになった。


「ようし、戦闘のほうはいろいろと問題があったが、これだけは慣れていくしかないからな。戦えなかった者は次の機会にがんばれ。今のように”妖気”だまりには妖魔が潜んでいる場合が多い――」


 山岸さん曰く、”妖気”だまりが小さい場合や潜んでいる妖魔が小物の場合は、さっきのようにわざわざ誘い出すことなどせずに、壁越しに”気”を送り込んで倒してしまえばいいそうだ。

 ネズミなどを生理的に受けつけない者であっても、そういう戦い方ならば嫌な思いをすることもないだろう。

 この話を聞いた女子たちが、山岸さんに盛大なブーイングを浴びせたのは言うまでもないことだが。


 さておき、妖魔は倒したことだし、お宝の検分というか分解というか、金になる部品を取り出すのかと思っていたら、それより先に”妖気”だまりを浄化することになった。

 見つけた”妖気”だまりは、”気”で浄化しておくことが発掘師のマナーらしい。


「お前ら、全力で”気”を放って”妖気”だまりを浄化するぞ。それから空、お前の”気”は強すぎるからほかの者たちに強さを合わせておけ。いいな」

「了解っす」


 要するにこの程度の”妖気”だまりなら俺一人でも余裕で浄化できるから、ほかの者の訓練にならないということだろう。

 さておき、俺を含めた新人発掘師から放たれた”気”と”妖気”がぶつかり合い、対消滅する様は、花火の火花のような音と閃光を伴った、意外と綺麗な光景だった。

 そして、発掘した車の部品選別より先に、女子たちが見つけたお宝を掘り出し、あとでまとめて全員で分解と選別をすることになった。


 気になったので、女子が見つけた反応をコッソリ探ってみれば、それは野郎どもが見つけた車よりは小さい金属反応だった。

 こんどは女子二人で掘り出すことになり、そして出てきたものは、二百五十ccの単車であり、コンクリートのがれきの中にあったおかげで、ほとんど錆もなく原型をとどめていた。

 ただし、原形をとどめていたと言っても、タイヤは折れ曲がっているし、燃料タンクは破れているしで、修理して再稼働させることは不可能に思えた。


 こうして、二つのお宝を発掘したわけだが、分解して部品選別を終えた結果、お宝と呼べるものは、まだ生きていた単車のエンジンとチェーンやギア類、自動車から取り出せた百個近いベアリングやギア類シャフト関係、僅かなアルミや銅線、そして残っていたエンジンオイルなどのオイル類であり、残った部品の中から、錆びていない鉄くずを分別していった。


 車のエンジンはそのままでは使えないが、分解すれば中の部品は使い道があるそうだ。

 そして単車のエンジンは、今でも使いまわせるということらしい。

 ちなみに、車の分解に特別な工具は必要なく、タガネとハンマー、ねじ類などは全て手力で行っていた。

 ”気”力あってこその荒業だ。


「これでいくら位になるんですか?」


 分別を終えたところで、男の新人発掘師が質問を投げかけた。


「そうだな…… 状態のいいものと悪いものが混在してるからはっきりとした金額は出せんが、ま、七、八万ってところだろう。この単車のエンジンが四万くらいで一番のお宝だ――」


 仮に八万として一人あたり四千円、俺たちの時代で四万円だ。

 なるほど発掘師とはボロい商売だ。

 なんてことを考えていたら。


「今回は運が良かったほうだ。これでも状態が良いほうだからな。一日掘って百円にもならない時もあるから覚悟しておけ。そのかわり、一日で一千万を超えるようなお宝を掘り出した発掘師もいる。俺たちはそういう商売をしていることを忘れるな」


 こうして、最初の発掘を終えた俺たちは、お宝を馬車まで運んで一日目の研修を終えたわけだが、俺にはまだやることが残っていた。

 それは、阿古川哲也との決着などというどうでもいいことではない。

 そう、俺が探し当てた新幹線の車両。

 みんなには黙っておいて、研修が終わったあとでこっそり堀に来ようなどという邪な考えは、微塵も抱かなかったと言ったら嘘になる。

 しかし、これを報告しないというのはあり得ない選択肢だった。

 馬車から離れたところで、珍しく普通に話していた二人に近づき声をかける。


「遥、山岸さん、ちょっといいですか?」

「なんだ?」

「お二人に報告することがありまして」

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