レンゲソウ
多くは望まない、から。
(幸せそうに笑っている、君を愛している)
彼は強がりで意地っ張りで、ついでかっこつけたがりだ。人に弱いところを見せるのが大嫌いな君だから、随分苦労しているのではと考えている。というか、絶対にそうなんだ。私がよく変化球でほのめかせてみても、たまに直球で尋ねてみせても、笑ってすぐにはぐらかしてしまう。バレバレだ。でもどうしても耐えられなくなった時だけ、彼は必ず私のところへやってくる。嬉しい、嬉しいよ。……でもね。
「スピカ、茶ぁ淹れてくれ」
「いいとも。今お茶請けはクッキーしかないから、紅茶でいいかい?」
「ああ」
彼が私のお茶を飲みに来る頃合は、ちゃんと決まっている。疲れて、弱って、落ち込んで、本当にどうしようもない時。私も彼もそれが解りきっているから、余計なことは何も言わない。ただ、適度にとりとめなく世間話をしたり、ゆっくりとお茶を飲んでお菓子摘んで、のんびり時間を消費していくだけ。
「あー……やっぱお前の淹れた茶が一番美味いな」
「ふふ、誰かさんのおかげで鍛えられたからね」
「ん。俺はお前のそんなところが好きだ」
私が欲しい『好き』と、君が持っている『好き』は全然違うものなんでしょう……? そんなこと、私がイチバンよく知っている。君の傍で近くで、ずっとずっと前から見てきたから。だけど、
「あまり無理をするんじゃないよ」
「解ってる」
「次に君が無理していると判断したら、もう二度と御馳走されることはないと思いたまえ」
「うげ、解ったよ、お前のとこにちゃんと来るって」
言わない君も悪いんだよ……? もう少し、もう少しだけ、君の隣を私が独占していていいですか?
(君が、イチバンタイセツナヒトを決める、その時まで)