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聖夜の出会い  作者: 幸守舞
07/12/24〜25:クリスマスの奇跡【深山一樹】
2/8

番外:最期の魔法【初瀬美輝】

 唐突に微睡んでいた意識がゆっくりと浮かび上がる気配に、最期にかけた魔法の条件が揃ったのだろうと当たりを付ける。

 この魔法が、キミにどんな影響を与えるかはわからい。それでも、あの時、使わずにはいられなかった。願わずにはいられなかった。

(……うん、でも、きっと何度だって、あたしはキミにこの魔法きせきをかけるよ)

 やがて、刺すような光りを感じて目蓋を持ち上げたあたしを迎えたのは、あの時と同じイルミネーションの洪水と、何かの物語の主人公のように白いライトを全身に浴びているキミ。

 そんな、記憶より少し大人びたキミに向かって、あたしは声を上げる。それは、あの日、伝えたくて、伝える事ができなかった言葉を告げる為に――。



******



 あたしは、あたしと同じ人とは違う世界を見聞きしているらしい。なぜ、“らしい”が付くかと言えば、その世界を知っているのはあたししかいないからである。

 そんな、自分にとっては当たり前の世界が実はそうではないと言われた時、幼い頃のあたしは困惑するばかりだった。

 目の前にいて、話ができて、触れ合えるのに、なぜ周りの人達は知らん振りをするのだろうか、と。

 年を経て、ようやく自分が見聞きしている世界が他の人と異なっていると言う事を理解した時には、不気味な子供として遠巻きにされていた。……とは言っても、あたしからすれば、極一部の人達の反応なんて気にもならなかったが。それでも、ただ一つ、両親に理解してもらえなかった事だけは悲しいと思った。

(……なーんて。あの時は、子供だったからなぁ……)

 気の良い“かれら”を否定される事が耐えられず、意地になっていた。“かれら”はそんな事など全く気にしていなかったと言うのに。

(むしろ、見えてると知ると残念がってた気もする……)

 髪の毛を結ぼうとしていた“かれら”を指で弾けば、驚いたように見上げてくる。

(“いたずらができないっ!”て)

 追い払うように手を振れば、残念そうにして新たなターゲットを求め飛んで行く。そうして“かれら”を見送った後、良いように結ばれてしまった事にも気付かず、あたしの膝の上で瞳を閉じたままのキミを見る。

 遠巻きにされていたあたしに臆する事なく近付いてきて、“かれら”と会話をしても奇異な目を向けるどころか、羨ましそうにしていたキミ。


――自分が見て、聞こえている世界が、絶対とは限らない。


 そう言ったキミは、いつも楽しそうにあたしの世界はなしを聞いてくれた。そしてその言葉は、意地を張っていた心に強い波紋となって広がった。

 “かれら”を否定されて悔しかったのは事実。――けれど、自分だって“見えない世界”を否定していたではないか。それに気付いた時の衝撃は今でも忘れられない。

(――理解されないからと言って、あたしが理解を放棄する理由にはならないもんね)

 気持ちが変われば、世界も変わるのか。一番、否定的だった両親が、“かれら”の存在を信じる事はなくても、否定する事を止めたのだ。それがあたしにとって、どれだけ嬉しかった事か。

(それもこれも、ぜーんぶ、キミの……一樹かずきのおかげだよ)

 そうしていとわず、うとまず、ずっと傍にいてくれた一樹に、あたしが恋をするのは当然の帰結と言えた。けれど、全てを受け入れてくれる一樹に多くの人が集まるのは必然であり、あたしだけを見続けてくれる保障はどこにもなく――。

(だから、あたしが一樹の彼女になれるなんて思ってなくて…………だけど――)

 気持ちを確かに通じ合わせられた時間はあまりに少な過ぎた。

 あの日、これから過ごす色んな初めてに心躍らせていたあたしを襲った一瞬の出来事。それはあまりに突然過ぎて、気付いた時には世界が暗転していた。

 悲鳴と怒号とサイレンが響き渡る中、ぼやけていた視界に茫然と立ち尽くす一樹の姿を見付けた時、湧き上ってきたのは後悔の文字。

(もし、“かれら”に助けを請えていたら――)

 運命を、未来を、変える事ができただろうか――その答えは、出るはずもない。

「……あの時のあたしにできたのは、“かれら”の世界で一度だけの目覚めを待つ事だったから……」

 それがあたしが仕掛けた最期の魔法で、発動する為の条件が“初瀬美輝はつせみきに囚われたまま、命の危機に瀕する事”だった。……一樹がそんな事をする人ではないのは重々承知していたけれど、それを越えるほどに強い絆で結ばれていたのも自惚れではなく、事実だったから。

「まさか、こんな形になるとは思わなかったけど……一樹を助けられたから結果オーライかな……」

 目覚めてしまった所為か、刻一刻と自分の存在が“かれら”の世界から消えて行くのがわかる。後少しで、あたしは完全に消えてしまうだろう。だからその前に、あたしは引き込んだ一樹の意識を起こすべく、その頬をペチペチと叩いた。

「かーずーきー」

 そうして声を大きめに声を掛ければ、うっすらと開かれる瞳。自分をその瞳に再び映す事ができた喜びを隠すように、あたしは唇を尖らした。



******



 一度も振り返る事なく進んで行った一樹。その後ろ姿が溶けるように“かれら”の世界から消えるまで、あたしはずっと見ていた。


「…………だよ」


 胸の奥から込み上げてくる強い想いに蓋をして、徐々にほどけて行く意識にあたしは身をゆだねた。

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