04-最悪-
最も悪いと書いて最悪。
でも、最悪はきっと無いんだと思う。
音河響花は命に別状は無かったが、今のところ絶対安静らしい。ので、取り敢えずは病室で、何があったのかを訊く事にした。海馬は音河のことは俺に任せるようで、ロビーの電話ボックス前に突っ立っている。今日は本来休みの日なので、入院患者以外の人間は居ない。よって、海馬は1人でそこに居る。虎郷は隼人に連絡するとのことで現在ここには居ない。
「何があったんだ?音河」
「分からない・・・・・・。でも突き飛ばされたのは覚えてる」
「つ・・・突き飛ばされた?」
それは・・・・・・事故ではなくて
「殺人事件・・・・・・・」
「待ってよ、私死んでないから」
「あ、あぁゴメン」
それにしても・・・・・・だとすれば何が起こってるんだ?
こういうのは考える専門であるはずの隼人の仕事なんだけどな。あ、隼人といえば。
「そういえば、隼人に呼ばれたらしいが、一体何のようだったんだ?」
「さぁ・・・・・・私にも分からない。でも朝から居なかったから、気になってるんだよね」
「そうか。じゃあ本人に聞くしか方法は無いわけだ――」
ガラッ!
扉が開いた。
「響花・・・・・・」
そこにいたのは隼人だった。
「ど、どうして・・・・・・」
「隼人。お前が音河を呼んで、それでお前のところに行こうとしていたらしいぜ?」
「そりゃそうだろう。僕が呼んだんだから」
隼人は暗い顔で言った。
「・・・・・・私は大丈夫だよ。それより、私をこんな風にした犯人、絶対に見つけてね」
「ああ。分かってるよ。ゴメン、ちょっとヒスイ君が話したいことがあるらしいんだ」
「うん。分かった」
隼人は部屋を出た。
「悪い、俺も一緒に行ってくる」
「うん。じゃ、私は寝ることにする」
そう言ってベッドに横になって、すぐさま寝息を立て始めた。
「・・・・・・隼人。朝からどこに行ってたんだ?」
「昨日探していた工具をね。まぁ結局見つからなかったんだけど」
・・・・・・心に変化なし。やっぱり嘘はついていなさそうだ。
「ヒスイ君。話って何?」
「あなた・・・・・・何か隠しているわね?」
「隠す?・・・・・・って、何を?」
「とぼけないで」
虎郷は強く言った。
「・・・とぼけるも何も、そんなことしてたらソウメイ君が気付くよ」
「貴方がジャンケンで嘉島君に勝てることは知っているわ。ということは貴方は彼に心を読ませない方法も知っているの」
「・・・・・・」
「あなた、昨日からおかしいわよ。あの空き巣犯に心当たりがあるんじゃないの?」
「・・・・・・無いよ」
「嘘つかないで。正直に答えて」
「・・・・・・突っ込んでくるなよ」
虎郷の発言にそう言って隼人はその場を離れて、逃げようとする。
「響花と話をしないの?」
「・・・・・・」
「ほら、既におかしいじゃない。普通は話くらいしていくでしょう。貴方にはそれ以上に大事な事があるということでしょう?」
「・・・・・・」
「ちゃんと話して。私達は――」
「同じことを二度言わせるな」
そう言って隼人は虎郷の首を掴む。
殺意に満ちた目で。
憎悪を帯びた目で。
それが、仲間に対する――少なくとも仲間と認めている相手に対する目なのだろうか。
「突っ込んでくるな」
そう言って、隼人はまたその場を離れようとした。
が、そこで1度止まり、
「・・・心配するな。誰もこれ以上傷つかない。余計な事さえしなければ・・・・・・だ」
とこちらを向いた。
「これは僕の問題だ。君らが関わるべきことじゃない。嘉島、君なら分かるだろう?」
珍しく俺を普通に呼んでそう言って、ようやくそこを離れ――。
『緊急連絡!緊急連絡!ロビーの前の電話ボックスに横たわった学生と思わしき男性を発見。ナイフによる出血が見られます。速やかに緊急手術を始めなければならない状態です。即刻集合してください。繰り返します、ロビーの前の――』
「・・・・・・」
え?は?ロビーの前?電話ボックス?
「は?」
最悪と気付いた時には、それはもう考えられてないから。
つまり、最悪と気付く前に最悪は終わっている。