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丸く収まったこの世界  作者: 榊屋
第一章 決まりきったこの世界
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08-利用価値と死体-

 とりあえずは、あの人を紹介しよう。

 今まで、自然な流れで出てきた、今日元さんのことだ。


 今日元終。

 東諒――つまり東先輩と同級生にして、殺人犯として、死刑が確定していた高校生である。

 高校生にも死刑が執行されるような時代の出来事だと考えてくれればいい。

 ともかく、そんなこんなで俺は警察署に面会に来ていた。

 理由は主に2つ。

 1つは警察署に居れば100%隼人が現れるから。もう1つは、警察署で待っていれば解剖結果が受け取れるから。まあハッキリ言ってその間暇だからココに来ているわけだ。


「暇つぶし扱いでこの俺を頼るとは、偉くなったんだな」

「いえいえ。そんなわけないでしょう。暇つぶしなんかでココには来ませんよ」

 てか、別に頼ってきたわけじゃないけど。

「事のついでだろう?」

「ハイ」

「正直だな」


 ちなみに彼女の罪は冤罪である。夏休みにその犯人を見つけ出したが、その犯人が何者かによって殺害された。それによって、彼女の冤罪を証明できる者もいなくなったが多くの人間がその犯人の存在を認識しているため、彼女の免罪は分かっているが、上からの命令で彼女を解放しようとしない。

 だそうだ。


「んで?何のようだ?」

「お礼ですよ。図書館の件で」

「あぁ。いいよ。そんな感謝される事じゃない。助けたとも思ってないよ。なんて言うと隼人は『その通りです。僕らは誰かを助けたりできません。』とか言うんだろうな」

「ですね・・・。あ、それであなたも色々と警察内の情報には詳しいと思うので聞きにきました」

「・・・前々から、言ってるけど敬語はやめろよ・・・。東には2人ともため口のくせに」

「いえいえ。隼人がしている方針に俺は従うだけですから」

 そういう受け答えをした後、彼女は口を開いた。

「署内の電子機器とか監視カメラとかを利用して収集した情報だ。回収って言うのか?お前では」

「それは置いといて」

「死体だが、焼け方が不自然なようだ。まぁ、俺も詳しくは、知らないけど。死体を見た感じだと、1箇所だけ集中的に焼け焦げているような感じでは無く、まるで炎が分散されたように一気に燃えた感じだな」

「一気に?ガソリンでもぶちまけて燃やしたんですかね?」

「あるいは、粉塵爆発とかでもやってのけたか・・・」

「あ、でも」

 俺はそう言って、今日元さんの話を区切った。

「俺は見たし、聞きましたけど、何か道具を持っていた感じではありませんでした」

「てことは、能力者かもな」

「やっぱりですか」


 何か当たり前のように話しているのが不思議だが。

 やはり、ここで話を整理しておこう(理解できている方が多いと思うが)。

 俺たちはアクターだ。隼人、東先輩、今日元さん、俺(それぞれの能力の説明はいつかあるだろう)はそれぞれの目的がある。それを叶えるために俺たちはそれぞれを利用している。


「利用価値だろうな」

「?」

「俺たちには、お互いを利用する事に意義があることを知っている」

「そう・・・ですね」

「俺たちはれっきとした仲間だからな」

「・・・・・・・・・」

「いつも言ってるけど、俺たちは仲間でいいんだ。お前が受け止めてくれるのを、俺たちは待ってる」

「・・・・・・・・・今日、同じことを東先輩に言われましたよ」

「・・・そうか」

「やっぱり、息ぴったりですね」 

「そうだな。あいつは嫌ってるけど」

「俺と隼人みたいなもんですね」

「・・・そうだな」







 面会を終了し、早速、龍兵衛さんの元に向かった。

「お」

 予想通り、そこに隼人が居た。

「やはり、ここに居ればお前も来たか」

「ふむ。君にも学習能力はあったようだな」

「酷い物言いだ!」

 なければ、テストなんかボロボロだよ!!

 ちなみに隼人はトップ。俺は上の中ってところだ。

 ばらしてしまえば、隼人の能力はいわば「天才」だから、当然で。

 俺は自分の能力で解いている(にもかかわらず、満点でない)ので、あまり正攻法とは言えない。


「おらよ。仏さんの司法解剖結果だ」

 無造作に封筒を投げつけた。

「外部には出せねえから、ココで覚えてけよ。探偵ども」

「分かってますよ」



 隼人はその封筒から紙を取り出して、すぐに読み始めた。

 そして、30秒と立たないうちに読み終えて、龍兵衛さんに返した。

「死体を見せてください」

「いいだろう」

 そういって、安置室に入っていった。

 本来ならただの部外者だが。王城の名と俺たちの功績と、信頼関係が結果を生んだのだろう。


「不自然だ」

「死体か?」

「うん」

「もしかして、例の死体の燃え方のことか?」

「その通り。よく気づいたね・・・って、あぁ。もしかして、今日元さんに聞いたのかい?」

「まあな」

「ということは、アレが能力である事にも」

「当然気づいている」

「流石僕の師匠だね」

「勝手なことを言うな」

 まだキャラ設定が、皆様にご理解頂けていない以上は、それで定着するようなことは避けたいのである。

 実際にはそんな事実は無いのでご安心ください。



 俺は2度目の再会を果たすはずだった。

 「またいずれ」そう言った俺に「じゃーな!」と答えた。

 俺は、再会を約束したのだと思っていた。いや、今でもそう思っている。しかし、もしかしたらアレは、本来の意味は「じゃーな」というのは、本来の意味での「さよなら」だったのかもしれなかった。或いは、その両方。

 だって俺は今、その両方を経験しているのだから。

 彼とは事件での『人』として別れ。

 そして、今、木好さんかどうかも分からない『それ』と対面しているのだから。

「こいつが死体だよ」

 そう言って見せてくれた。

「ふむ」

「・・・はぁ」

 隼人は冷静に、俺はため息をついて、その原型をとどめないものを見た。

「・・・お前は、よく冷静に見えるな。ホント普通の中学生じゃねぇよ」

「当たり前だ。僕は王城の名を持つ、頂点に立つべき人間だからね」

 隼人は俺の皮肉をさらりと受け流す。


「まぁ、これを見て吐かない情報探偵も普通ではないが」

 龍兵衛さんは俺にそう皮肉を言って、その部屋の隅から話を続けた。

「仏さんの名前は、証言を元に木好一也と認定したが、前科はもちろん、そいつの個人情報はほとんど無かった。分かっているのは、虎郷火水という少女の幼馴染という事実だけだ」

 これについてはまだ、裏づけは済んでいないがな。と、龍兵衛さんは締めくくった。

「その情報に関してはまだ調べていませんね、後で確認しましょう」

「・・・で、他に何かありませんか?」

 自慢話のように言う隼人の言葉は全面的に無視して俺は尋ねた。

「1つ分かっているのは、例の建物から出た2つの指紋のうち、1つがその仏と一致した。焼け焦げていて、検出は難しいかと思っていたがな。そして、例の列車爆破の指紋とそのもう1つの指紋が一致した」

「やっぱりか」

 俺がそういうと、隼人が

「情報回収の成果かい?」

 と聞いてきた。俺は黙ってうなずく。

「・・・・・・いつも何をしているのかは知らんが、それで成果が上がるのはいいということにしておこう」

 と、龍兵衛さんは不満そうながらも言った。

「で、ここでわざわざ隠しても読者の皆さんも気づいているだろうから」

「お前は何目線だ」

「ある可能性を示唆しておくべきだろう。この死体が木好さんじゃない可能性だ」

 俺の発言を無視した挙句、とんでもないことをぶちまけた。

「まじかよ・・・」

「いや、それは無い」

 同時に、俺と龍兵衛さんが言った。

「・・・どうしてですか?」

「自分の推理を否定されて怒る気持ちは分からないでもないが、頭脳探偵。それはないんだよ」

「だから、どうしてですか?」

「死体の腕の時計はどうやら耐熱に強い新型だったようで、全く燃えていなかった。その腕時計に指紋が検出された」

 と言って、俺を見る。え?俺?

「その情報探偵だ」

「!?」

 隼人が驚く。

「まさか、お前がパーカーの男の腕時計に触るチャンスがあったとも思えん。ならば、可能性の高いのは木好という男のほうだろう。手首側に指紋があったことからも、大方握手でもしたんじゃないか?」

「・・・あぁ」

 ここでもし俺の指紋でなければ『彼がパーカーの男の腕時計に触っていないなんて言い切れない』とか言うかもしれない。

 しかし俺ならその男の真意――つまり、事件を起こそうとしていることに気づく事ができてしまうため、こんな事件すら起きていない。

 うむ。流石の隼人もここまでのようだ。食い下がる事はできない。

「・・・そうですね。なるほど」

 隼人は、悔しそうな表情を浮かべていた。

「では、そろそろ退散するとしようか」

「え・・・あぁ」

 俺はしどろもどろになりながらも、退散する事に同意した。

「では、僕はこれで」

「俺も失礼させていただきます」

「おう。また困った事でもあったら、いつでも言ってくれ」




「さて、これからしばらくは、大筋一緒に行動する事になる」

「そうか。合同捜査か」

「でも、割とすぐに解散して捜査する事になりそうだ」

「そうか。俺が所轄だな」

 冗談を交えてから、俺達は解散した。


 こうして、木好さんとは3度目のお別れを果たした。

 ちなみに2度目のお別れは世界とのお別れという意味合いである。


「では、解除コードの入力を果たそうか」

「え!?分かってたのか?」

「まあね。もうほとんど分かってるって言ったろうに」

「あぁ・・・そうだったな」


 俺たちは、東先輩の車に乗り込み、虎郷のキーを解除しようしていた。


 のだが。


 そこにあったのは――いや、何も無かったのだ。


 東先輩は車のそばで、彼の愛車に背中を預けて



 頭から・・・血を流して・・・・・倒れていた。








「「東先輩!!」」

 俺と隼人は同時に叫んだ。

「どうしたんだ!東先輩」

「大丈夫、呼吸はしているようだよ」

 そして、隼人は携帯を取り出して救急車を呼んだ。そして、龍兵衛さんも。

「一体なんで・・・!?」

 気絶しているその体に向かって俺は問いかけ――

「急げ」

 俺の思考の最中にその声は聞こえた。

「・・・急げ・・・。嘉島・・・・・・隼人」

 東先輩は、俺の方をつかんでそう言った。とても力強く。頭を殴られているとは思えないほど。

「東先輩!!」

 俺は叫んだ。

「虎郷を・・・追え・・・」

「誰が連れ去ったんだい?」

 隼人が近寄って質問した。

「わからん・・・。が、・・・虎郷が危ない・・・急げ・・・追え・・・」

「どういうことだよ!!」

「俺には・・・・何もわからない。が・・・嘉島・・・」

 そして、より一層力強く俺をつかんで

「絶対に・・・助けろ・・・」

「俺にも、わかんねーよ!!」

「・・・・・・隼人が・・・いるだろう」

 そして、

「仲間・・・なら・・・で・・・きるさ・・・」

「東先輩!!」

 力がだんだん弱くなる。弱くなって・・・消えていく。

「か・・・んがえ・・・ろ」

 そして、腕はぶらりと垂れ下がった。



「東ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」




「大丈夫。気絶しただけだよ」




 ・・・いやいや知ってるよ。寝息が聞こえるもん。

 でもさぁ!!叫んだ、俺の立場は!?

 とか、そんな事を思いつつも、冷静さを取り戻す。


「・・・虎郷を助ける」

「言われずとも。僕にとっては彼女ももう仲間だから」

「・・・そうか」

「君も、君さえ受け入れれば仲間なんだよ?」

「・・・一日で三回もその言葉を聞くとはな」

「・・・今日元さんと東先輩か・・・」

「・・・さて、悪いけど、俺はもう一度別行動を取る」

「同意見だ」


 こうして救急車と警察がきてから別れることにして、俺は龍兵衛さんと一緒に警察署へ行った。


 さぁ、物語終盤をむかえてもまだ、今は9月10日(土)14時なのであった。

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