07-捜査-
人はいつ死ぬのでしょうか。
命が消失したときか。心臓が止まったときか。未来に絶望したときか。
死を覚悟したときか。人に忘れられたときか。
逆なのです。
人は生まれたときから死んでいて。
神様に命を返却したときに。
『生きた』が生まれるのです。
それが死ぬときです。いや。
『死んだ』が生まれるのです。
役目を果たしたその建物に、救急車と警察。そして、もはや何の役にも立たない消防車がやってきてから1時間ほど経った。
隼人が、東先輩の車から出てきた。
「・・・・・・虎郷は?」
「車の中で休ませてる。東先輩が看病してるから、心配は無いよ」
「そうか」
そう言いながら、俺たちは小屋を見る。
あの後、彼女は倒れてしまった。このままでは、救急車に乗せられてしまうので、東さんの車に乗せて休ませている。
ちなみに僕たちは、マンションの近くにいたが、野次馬ということで、救急車には、乗せられなかったが、マンションの方々は全員、救急車と事情聴取のため警察へと運ばれてていった。
木好さんも同様に。
焼け焦げた死体が運ばれていった。
「ときに、ソウメイ君」
「何?」
「木好一也という人間の人格について知りたい」
「あぁ、そうか。会ったことは無いんだっけか」
俺は、少し考えてから、
「まぁ、気さくな性格で虎郷から聞いた話だと、外には出ないらしいよ」
と報告した。
「何か問題は無かったかい?」
「?いや、性格はよさそうだったし、それに顔立ちもよかったから、人とは問題を起こしそうでもないよ」
あ、でも外には出ないのか。
そんな事を考えていると
「そういうことじゃないよ」
と、まるで「的外れだよ」というように言った。
「え?」
「彼の手も取ったのだろう?」
「あ・・・!」
そういえば。
[・・・・・・危険・・・・・・]
「彼の手に触れた時、最後に[危険]って声が聞こえたんだ!」
「・・・もしかすると、彼は身の危険を感じてたのかもしれないね」
そういうと、彼は小屋のほうに向かって歩き始めた。
警察に向かって
「王城隼人です。早急にココを捜査させていただきたいのですが」
と言うだけで、警察官たちは立ち退いていった。
最後に残った、警部が話しかけてきた。
「よぉ、頭脳探偵」
「どうもです。龍兵衛さん」
彼は各務原龍兵衛警部。見た目は20才前後だが、年齢は43才だ。
隼人と俺を1人前の探偵と見てくれているようで、何とも恐縮である。
「出火原因は、分かってるんですか?」
まずは、隼人が質問した。
「いいや。まだだ」
「そうですか。では、解剖の結果が出たら教えてください」
「おう」
そういって、ドアを閉めて去っていった。
「さて、捜査を始めようか」
手袋をしてそう言った。
俺も同じように手袋をはめたが、俺はそこに立っているだけだ。
「・・・・・・・・・何かが燃える時って、1番長く炎があった所が焦げ付くはずなんだよ。もちろん例外もあるけど」
「どういうことだ?」
「つまり、1番黒ずんでいる所が出火した所って事さ」
「・・・でも、そんなことで分かるなら、出火原因もわかっているはずだろ?
龍兵衛さんは、出火原因は分からないって言ってたろう?だったら・・・」
「そうとも限らないぜ・・・。火元は分かったけど、原因は分からないってことだろう」
「そんなこと・・・」
ないだろ。
そういうつもりだった。
「ほら」
「ん?」
出火元は分かった。でも、それは刑事ドラマでよく見る、白いテープで囲まれていた。
「・・・死体!?」
黒いところは、死体を囲むテープの中にあった。
「そ。つまり死体から出火したんだよ」
「・・・・待てよ・・・。てことは!」
「冴えてるねぇ。その通り。これは何者かが木好さんを燃やしたんだ」
「つまり、この火事には犯人がいるってことだな」
俺がそう確認を取ると、隼人は「ニッ」という効果音が付きそうな笑顔をした。
「あとさぁ」
と続けて言った。
「君もヒスイ君も、彼は外に出て行ってないって言ってたよね?」
ヒスイ?あぁ、虎郷火水か。
「あぁ。そうだけど?」
「それは、ヒスイ君の勘違いだね」
「え!?」
「これ」
と指差した。近くには警察の方が置いたと思われる『6』の黄色い札があった。
そこには、ティッシュの燃えカスと思われるものがあった。
にしてもあれだけ燃えてよく残ってるもんだな。
「これがどうかしたのか?」
「近くにビニール袋みたいな者とその中に携帯の広告が入っているはずだ」
「はぁ?」
確かに入ってるけど・・・・・・?
「これが何?」
「それは、昨日の真夜中に爆発した電車の駅前だけで、その日に配られていたティッシュだよ」
「え・・・?」
あの事件か・・・。
「だとしたら虎郷が持って帰ったんじゃないのか?」
「彼女にそんな余裕があったと思うか」
今度は厳しい口調で言った。
「だから、これは昨日、彼が駅前に居たこと・・・つまりは、彼が何者かが爆弾を仕掛けるのを見てた可能性があるってことだ」
「てことは、この事件と爆弾事件は同一犯・・・」
「である可能性が高いだろう」
「これからどうするんだ?」
「まずは、僕のネットワークで情報収集だね」
「そうか。じゃあ俺は、情報回収といこうか」
「情報回収か。いいネーミングだね」
そういって隼人は立ち去ろうとした。
「あ、そうだった」
俺は隼人を引き止める。
「あの、虎郷のキーの事だけどさ、完全に分かるまでは解除しないほうがいいかも知んないぜ?」
「?どうしてだい?」
俺はパーカーの男の話と、彼女にはそれに関する何らかのトラウマがあることを話した。
「・・・なるほど。とても苦しい思い出なんだろうね」
「ああ。だからあんまり追究しないように」
「残念だけど、彼女の解除コードは、ほとんど分かっている」
・・・・・・マジすか。
「それにしても、おかしいな。住人の中に黒いパーカーの人なんて居なかったけど・・・」
「パーカーくらい脱ぐんじゃねぇか?」
「今は、ちょうど寒くなってきた時期だよ?部屋に居ても寒いけど、暖房器具を導入するほどでもない。そんな時期だから、部屋でも暖かい格好をしてると思うけど」
「・・・・・・確かに」
だが。
例えそうだとしても。
「だとしたら、どうだっていうんだよ」
「・・・・・・その人、エレベーター降りてドッチに言った?」
と、道路を指をさした。
「いいや、あの人は降りずに上がっていったよ」
俺はそう言って、上を指差す。建物自体は無いけれど。
すると隼人は固まって、ロボットのように首を回して俺を見た。
「・・・・・・マジかよ・・・・・・じゃあ犯人そいつじゃん」
「え?」
「この家では、近所付き合いはほとんど存在しないんだそうだよ」
「だから?」
「・・・つまり!」
察しの悪い俺に対して怒るように言った。
「近所付き合いがないってことはエレベーターは、下までの道順に過ぎない。なのに途中から乗り込んで、上に上がるって事は、そこに何らかの理由があるからだろう」
・・・・・・・・そうか。
確かに近所付き合いが無いとしたら、エレベーターは帰ってきたときで無い限り、下まで降りるのにしか使わない。
途中から乗り込んで上に向かうということは、そこより上の階に用事があったということになるのか。
「そういう・・・ことか・・・」
さっき言ったとおりに、俺と隼人は別れて捜査を再開した。
「・・・さて」
俺は右手の手袋を取り、壁に手を当てた。
[2人の男が居る。どちらかが叫ぶ。
『あんたが例の爆弾しかけたんだろ?俺は見てた!!』
すると、もう一人が言う。
『・・・だから?』
『俺には金が必要なんだ。一緒に住んでる女のために!』
『・・・ゆすりか。フン』
冷静な男が殴った。
『悪いなぁ。お前はココで最後を迎えろ!』
倒れ込んだ男に・・・・火が点いた。]
!!
なるほど。
若干複雑なようだ。
「木好さんは、虎郷のためにゆすりを働いた・・・・・・ということなのか?」
これ聞いたら、また虎郷は狂い始めるんだろうなぁ。
「はぁ・・・」
次はティッシュに触れてみる事にした。
[木好さんがティッシュを受け取って、電車の方向を向いた]
・・・え?
「これだけかよ!」
あんまり役には立たなかった。
しかし・・・大丈夫。木好さんの恨みも、虎郷の敵も隼人が解決してくれると信じていた。
信じていた。
物語が狂った方向に進むとは思っていなかったのだが。