表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
丸く収まったこの世界  作者: 榊屋
第一章 決まりきったこの世界
8/324

07-捜査-

人はいつ死ぬのでしょうか。

命が消失したときか。心臓が止まったときか。未来に絶望したときか。

死を覚悟したときか。人に忘れられたときか。


逆なのです。


人は生まれたときから死んでいて。


神様に命を返却したときに。


『生きた』が生まれるのです。


それが死ぬときです。いや。


『死んだ』が生まれるのです。

 役目を果たしたその建物に、救急車と警察。そして、もはや何の役にも立たない消防車がやってきてから1時間ほど経った。

 隼人が、東先輩の車から出てきた。

「・・・・・・虎郷は?」

「車の中で休ませてる。東先輩が看病してるから、心配は無いよ」

「そうか」

 そう言いながら、俺たちは小屋を見る。


 あの後、彼女は倒れてしまった。このままでは、救急車に乗せられてしまうので、東さんの車に乗せて休ませている。

 ちなみに僕たちは、マンションの近くにいたが、野次馬ということで、救急車には、乗せられなかったが、マンションの方々は全員、救急車と事情聴取のため警察へと運ばれてていった。

 木好さんも同様に。

 焼け焦げた死体が運ばれていった。



「ときに、ソウメイ君」

「何?」

「木好一也という人間の人格について知りたい」

「あぁ、そうか。会ったことは無いんだっけか」

 俺は、少し考えてから、

「まぁ、気さくな性格で虎郷から聞いた話だと、外には出ないらしいよ」

 と報告した。

「何か問題は無かったかい?」

「?いや、性格はよさそうだったし、それに顔立ちもよかったから、人とは問題を起こしそうでもないよ」

 あ、でも外には出ないのか。

 そんな事を考えていると

「そういうことじゃないよ」

 と、まるで「的外れだよ」というように言った。

「え?」

「彼の手も取ったのだろう?」

「あ・・・!」

 そういえば。

[・・・・・・危険・・・・・・]


「彼の手に触れた時、最後に[危険]って声が聞こえたんだ!」

「・・・もしかすると、彼は身の危険を感じてたのかもしれないね」

 そういうと、彼は小屋のほうに向かって歩き始めた。


 警察に向かって

「王城隼人です。早急にココを捜査させていただきたいのですが」

 と言うだけで、警察官たちは立ち退いていった。


 最後に残った、警部が話しかけてきた。

「よぉ、頭脳探偵」

「どうもです。龍兵衛さん」

 彼は各務原龍兵衛かかみがはらりゅうべえ警部。見た目は20才前後だが、年齢は43才だ。

 隼人と俺を1人前の探偵と見てくれているようで、何とも恐縮である。

「出火原因は、分かってるんですか?」

 まずは、隼人が質問した。

「いいや。まだだ」

「そうですか。では、解剖の結果が出たら教えてください」

「おう」

 そういって、ドアを閉めて去っていった。


「さて、捜査を始めようか」

 手袋をしてそう言った。

 俺も同じように手袋をはめたが、俺はそこに立っているだけだ。


「・・・・・・・・・何かが燃える時って、1番長く炎があった所が焦げ付くはずなんだよ。もちろん例外もあるけど」

「どういうことだ?」

「つまり、1番黒ずんでいる所が出火した所って事さ」

「・・・でも、そんなことで分かるなら、出火原因もわかっているはずだろ?

 龍兵衛さんは、出火原因は分からないって言ってたろう?だったら・・・」

「そうとも限らないぜ・・・。火元は分かったけど、原因は分からないってことだろう」

「そんなこと・・・」

 ないだろ。

 そういうつもりだった。


「ほら」

「ん?」

 出火元は分かった。でも、それは刑事ドラマでよく見る、白いテープで囲まれていた。

「・・・死体!?」

 黒いところは、死体を囲むテープの中にあった。

「そ。つまり死体から出火したんだよ」

「・・・・待てよ・・・。てことは!」

「冴えてるねぇ。その通り。これは何者かが木好さんを燃やしたんだ」

「つまり、この火事には犯人がいるってことだな」

 俺がそう確認を取ると、隼人は「ニッ」という効果音が付きそうな笑顔をした。

「あとさぁ」

 と続けて言った。

「君もヒスイ君も、彼は外に出て行ってないって言ってたよね?」

 ヒスイ?あぁ、虎郷火水か。

「あぁ。そうだけど?」

「それは、ヒスイ君の勘違いだね」

「え!?」

「これ」

 と指差した。近くには警察の方が置いたと思われる『6』の黄色い札があった。

 そこには、ティッシュの燃えカスと思われるものがあった。

 にしてもあれだけ燃えてよく残ってるもんだな。

「これがどうかしたのか?」

「近くにビニール袋みたいな者とその中に携帯の広告が入っているはずだ」

「はぁ?」

 確かに入ってるけど・・・・・・?

「これが何?」

「それは、昨日の真夜中に爆発した電車の駅前だけで、その日に配られていたティッシュだよ」

「え・・・?」

 あの事件か・・・。

「だとしたら虎郷が持って帰ったんじゃないのか?」

「彼女にそんな余裕があったと思うか」

 今度は厳しい口調で言った。

「だから、これは昨日、彼が駅前に居たこと・・・つまりは、彼が何者かが爆弾を仕掛けるのを見てた可能性があるってことだ」

「てことは、この事件と爆弾事件は同一犯・・・」

「である可能性が高いだろう」


「これからどうするんだ?」

「まずは、僕のネットワークで情報収集だね」

「そうか。じゃあ俺は、情報回収といこうか」

「情報回収か。いいネーミングだね」

 そういって隼人は立ち去ろうとした。

「あ、そうだった」

 俺は隼人を引き止める。

「あの、虎郷のキーの事だけどさ、完全に分かるまでは解除しないほうがいいかも知んないぜ?」

「?どうしてだい?」

 俺はパーカーの男の話と、彼女にはそれに関する何らかのトラウマがあることを話した。

「・・・なるほど。とても苦しい思い出なんだろうね」

「ああ。だからあんまり追究しないように」

「残念だけど、彼女の解除コードは、ほとんど分かっている」

 ・・・・・・マジすか。

「それにしても、おかしいな。住人の中に黒いパーカーの人なんて居なかったけど・・・」

「パーカーくらい脱ぐんじゃねぇか?」

「今は、ちょうど寒くなってきた時期だよ?部屋に居ても寒いけど、暖房器具を導入するほどでもない。そんな時期だから、部屋でも暖かい格好をしてると思うけど」

「・・・・・・確かに」

 だが。

 例えそうだとしても。

「だとしたら、どうだっていうんだよ」

「・・・・・・その人、エレベーター降りてドッチに言った?」

 と、道路を指をさした。

「いいや、あの人は降りずに上がっていったよ」

 俺はそう言って、上を指差す。建物自体は無いけれど。

 すると隼人は固まって、ロボットのように首を回して俺を見た。

「・・・・・・マジかよ・・・・・・じゃあ犯人そいつじゃん」

「え?」

「この家では、近所付き合いはほとんど存在しないんだそうだよ」

「だから?」

「・・・つまり!」

 察しの悪い俺に対して怒るように言った。

「近所付き合いがないってことはエレベーターは、下までの道順に過ぎない。なのに途中から乗り込んで、上に上がるって事は、そこに何らかの理由があるからだろう」

 ・・・・・・・・そうか。

 確かに近所付き合いが無いとしたら、エレベーターは帰ってきたときで無い限り、下まで降りるのにしか使わない。

 途中から乗り込んで上に向かうということは、そこより上の階に用事があったということになるのか。

「そういう・・・ことか・・・」



 さっき言ったとおりに、俺と隼人は別れて捜査を再開した。

「・・・さて」

 俺は右手の手袋を取り、壁に手を当てた。



[2人の男が居る。どちらかが叫ぶ。

 『あんたが例の爆弾しかけたんだろ?俺は見てた!!』

 すると、もう一人が言う。

 『・・・だから?』

 『俺には金が必要なんだ。一緒に住んでる女のために!』

 『・・・ゆすりか。フン』

 冷静な男が殴った。

 『悪いなぁ。お前はココで最後を迎えろ!』

 倒れ込んだ男に・・・・火が点いた。]



 !!

 なるほど。

 若干複雑なようだ。

「木好さんは、虎郷のためにゆすりを働いた・・・・・・ということなのか?」

 これ聞いたら、また虎郷は狂い始めるんだろうなぁ。

「はぁ・・・」



 次はティッシュに触れてみる事にした。

[木好さんがティッシュを受け取って、電車の方向を向いた]

 ・・・え?

「これだけかよ!」

 あんまり役には立たなかった。


 しかし・・・大丈夫。木好さんの恨みも、虎郷の敵も隼人が解決してくれると信じていた。


 信じていた。


 物語が狂った方向に進むとは思っていなかったのだが。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ