18-I renounce the right of the storyteller-
18話「俺は語り部の権利を放棄した」
語り部が権利かどうかは知りませんけど。
多分権利じゃないけど。
何の合図も無く同時に走り出した俺達に待ち受けていたのは、また、何の合図も無く同時に放たれた機関銃やライフルの弾丸たちだった。
「・・・・・・さっさと片付けるわよ。虎郷さんが居ない以上は、私たちの敵にはならないはず」
長柄川の指揮の元、2人は左右に散らばった。長柄川の足元に、海馬は放置されている。
「俺が右だな」
俺は花咲を追いかける。
「私が左だね」
音河は丹波を追いかけた。
「・・・・・・嘉島と言ったか?俺がお前の相手なんだな・・・・・・」
「はい。よろしく~」
俺はおどける様に言った。
「先に一度だけ質問しておく。海馬を助けたければ俺達のことは放っておくべきだ。どうする?」
「俺は海馬だけを助けるんじゃない。海馬が助けたい奴も助けるんだよ」
「そうか。貴様らがしたいことをやることに、俺はいちいち否定の目を向けるつもりは無い」
「あっそ。ならほっといてくれ」
で。
俺はあらかじめ作っておいた刀を投げた。
「――っと」
それを花咲はリンボーダンス(もっと分かりやすく言えば『マトリックス』)の要領で上半身のみを後方に折る。流石はダンスをしているだけはあり、平衡感覚はいいようだ。
が、その隙を俺が逃がすわけがない。
バランスの悪いはずのその足に、俺は右足を伸ばした。そこで俺の足と花咲の足が重なり、音を鳴らす。
ブォォゥン!
「ってアレ?」
俺の右足は空を切る。そして間抜けにも俺はバランスを崩して倒れてしまった。が、現状理解のために、取り敢えず身を起こす。
「・・・・・・!」
花咲はブリッジの要領で手を着いた後、両足を上へと持ち上げていた。そして俺は思い出した。
彼はただのダンスではない。ヒップホップである。ブレイクダンスを踊れるような人間は、それはもう、俺が比べられるレベルではないほどの運動神経を持ち合わせているはずだ。
「・・・・・・無様だな」
彼はそのままの態勢で、上半身を無理矢理回転させる。自然、体はバランスを崩して倒れる。が、それはもしも彼が1人であればの話。
彼が倒れる先には俺が居る。
「!」
突然の行動に俺は金縛りのように体を動かす事を体に拒否される。
彼の狙いはこれだったのだろう。花咲は空中で態勢を整える。それはもちろん着地する態勢ではない。
彼の右足のかかとは俺の左肩に落下した。
ゴキィィイイ!
肩が妙な音を立てて軋む。
「・・・・・・!!」
お・・・・・・折れたか・・・・・・!?
俺は、自分でも不思議なくらい冷静に肩を見る。
・・・・・・ぎりぎり大丈夫そうだ。
「浅かったか」
俺の考えの裏づけのように花咲が言いながら、手だけを地面について、逆立ちの要領で体を持ち上げてから、そして腕の腕力のみで空中に飛び上がって、今度は間違いなく2本足で地面に立った。
「コイツは・・・・・・マジでやばそうだ」
それが俺の総合しての感想だった。
「これが最後の忠告だ。諦めろ」
花咲は腕を組んで言った。
「お前が知らないところで俺は既に俺の力を使っている」
「・・・・・・能力かよ・・・・・・」
だがしかし、アイツの力は確か、所謂「モノマネ」だったはず。つまりは、戦うための物ではない上に、それをどう活用しようとも結局は単なるまねに過ぎない。だとすれば・・・・・・。
分からない・・・・・・。考えるのは苦手なのだ。
「・・・・・・返答無しか・・・・・・」
花咲はまたも動き始めた。俺は防御の態勢を取る。が、俺の防御をあらかじめ見越していたかのような動きで、俺の懐にスライディングのようにもぐりこみ、下から顎に向かって右足で攻撃してくる。
「くっそが!」
俺は花咲のように、上半身だけを後ろに反って避ける。
が、そのまま右足の膝部分を折り曲げて弱いながらも、俺の鳩尾にヒットした。
「!」
何なんだ・・・・・。アイツは俺の心でも読めるのか?
だが確かそんな能力ではないはずだ。一体何がどうなっているのだろう
「・・・・・・待てよ」
相手に変装するということは相手のあらゆるものを認識する・・・・・・。
「!」
つまり、相手の癖を見抜いているということ。それは攻撃、防御、回避それら全てに使用されるはずだ。俺みたいな性格の人間を花咲はそれだけ見てきたということだ。花咲は俺のようなタイプの人間の行動パターンや、俺の最初の攻撃からバランスを崩すところまでを見て、俺の体格などを見極めたと言う事か。
「くそ・・・・・・厄介だな」
「お前の行動パターンは見切った。貴様の武器がもう無い以上、俺の勝ちだろう」
そう言って花咲は笑った。
・・・・・・待てよ・・・・・・。だとすれば・・・・・・。
「・・・・・・こうなったら、思い切り行ってやる!」
「こい。次にやるお前の攻撃は見切っている」
そう言って、仁王立ちの姿勢から変わらずにこちらを睨んだ。
俺は地面を思い切り蹴って、走り出して突っ込んだ。
チャンスは1回。これを逃せば、勝つことはさらに困難になるだろう。
5メートルくらいの距離を一気に縮めて、目の前に立って俺は左手の拳を思い切り振った。
「くらえ!」
俺は叫ぶ。
「フン・・・・・・。そのくらい読めている」
花咲は余裕の表情で、俺の左手を受け流した。俺の体は勢いのまま、花咲の後方へと流れる。
が、そこまでは作戦通り。
「うぉぉぉおあああ!」
そのままの態勢で俺は右足を無理矢理、横薙ぎに振って背中を狙う。これが俺の思うように成功すれば――。
「分かっていたさ。お前がフェイントを仕掛けてくる事くらいな」
花咲は俺の右足をジャンプするという方法で避けた。見事に俺のフェイントまで見切っていたようだ。彼の予想通りの行動となってしまっていたようだ。
だから、俺がバランスを崩して、俺の体の後ろ側に左手をついて、格好悪く倒れるところまで予想通りだっただろう。
そう。
そこまでは。
念のためもう一度言っておこう。俺は、「左手」を自分の体の後ろ側についたのだ。
「・・・・・・喰らえ」
俺は今度は静かに言った。
「が・・・・・・!」
空気が漏れるような声を出して、花咲は動きが止まる。
床を変形させた。形は槍を2つ。狙うのは、花咲の両肩。
そして、それらを甘く突き刺す。
「あああああああああああああああああああああ!!」
花咲はみっともなく叫んだ。そりゃそうだ。甘く刺さったとは言え、貫通する直前までは刺さっているだろう。空中で固まっているようなものだ。
「喚くな。すぐ治まる」
俺は、その槍を突き刺したままの形で、花咲の体を拘束した。
彼の隙があるとすれば、俺の能力を知らなかった事。
俺の武器を、あの剣1つだと勘違いしていたところから、俺の能力を見ていなかったのだろう。あるいは、地面を変形させて出したものではないと思っていたのかもしれない。
が結局、フェイントまでしか予想していなかった彼の負けである事はゆるぎない事実ではあった。
「救急車は・・・・・・お前らがさっさと助けさせてくれれば助けてやる。それまではそこにいろ」
俺は言った。が。
「気絶したのか・・・・・・・」
花咲は白目を剥いて俺の話を聴いて(?)いる。
「さてと」
俺の担当は確か語り部なのだが・・・・・・。どうやら、他の2人も終了したようだ。
だが、人は権利だと思うものを全て権利にしてきたようない生き物だ。
それゆえ、俺はこれらを権利と信じ続けて生きていこう。
嘘だけど。