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丸く収まったこの世界  作者: 榊屋
第一章 決まりきったこの世界
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05-気まぐれ-


「気が変わった」

 隼人はそう言った。

 いや、それが誰かに言おうとしていたわけではないのだろう。その証拠に床に向かって言っている。

 単に呟いただけである。


「気が変わったよ」

 今度こそ、俺たちに向かってそう言った。

「そうだね・・・・・・新しい未来を見てもらって、それを解決しようか」

 隼人は俺達に向かって提案するように言う。

「………助けてくれるの?」

 虎郷は隼人を見て尋ねる。

 その言葉に隼人は1度固まる。それから、

「………君は勘違いしているよ」

 そう言って話を続けた。

「僕たちは、誰かを助けられると思ったらだめだよ。僕らは他の皆が努力しているというのに、アクターを利用する事で『逃げた』のだから。僕らは誰かを手伝うだけ。アクターである君を助けるのは普通の人々には出来ない。だから僕らが君に手を貸す。そして見届けるよ。君の『不運な世界』の創世を」

 ………おい。『僕ら』って…。

「もしかして、俺も手伝うのかよ」

「当たり前だろ」

 当たり前なのか。

 俺は危ない橋は渡りたくないんだけどな・・・・・・。

「じゃあ、君らは、今からその辺を歩いて来てくれる?歩いていたら、彼女が何か、見るかもしれない。それ待とうよ」

 そう言って、隼人は外へと颯爽さっそうと出て行った。


 回想終了




「ねぇ」

 虎郷が丁度話しかけてきた。

「何」

「彼も能力を持っているの?」

「あぁ。超能力さ」

「どんな能力なの?」

「あいつもあいつの能力は嫌ってるからなぁ………。本人から聞いてくれよ」

「そう」

 ふむ。この淡白さから考えて、単に話し掛けただけという事か。単純に静かなのが嫌いなのかもしれない。

 あ、いや、そもそも彼女の性格が淡白なのかもしれない。さっきもそうだったし。

「そう言えば、少し寄りたいところがあるのだけれど」

「いいよ。好きにどうぞ。君が好きなようにやってくれればいいんだから」

 隼人も歩いていればどこでも良いって言ってたし。

「では、好きにさせてもらうわ」

 と角を左に曲がった。

 俺もついで曲がる。






「着いたわよ」

 10分ほど歩いて、高級マンションに着いた。

「こ…こんなとこに家族で住んでんのかよ…」

「違うわ」

「え?1人暮らしなのかよ………」

「はずれ」

「はぁ?」



 最上27階に彼女は住んでいるらしい。

 ちなみに27階というのは、屋上である。よって、エレベーターは26階で止まった。そこからは、階段で上る。

 そこに、物置という雰囲気(部屋は1つであろう)の家が存在していた。

「大家さんが知り合いでね。良い場所はないかって聞いたら、ここを家賃なしで貸してくれたわ。まぁ、もちろん事情に感情移入してくれたというのも、あるのだろうけれど」

「事情?」

 俺の質問と同時にその家(部屋?)の扉が開いた。

「よ!……お?」

 青年がいた。とても明るくそこに座っていた。

「今日は遅くなんじゃなかったのか?」

「少し用事があったのよ」

 そう言って部屋をあさり始めた。

「ったく…。よぉ、少年。」

 青年が話し始めた。

「えーっと…俺は、木好 一也きよしかずや

 木好さんはそう言って右手を差し出した。

「俺は、嘉島奏明です」

 俺は、その右手に手を差し出した。

[誕生日2月1日血液型A型年齢17・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・]

 うぅ・・・。流れ込んできた・・・。さっさとこの手を離したい。

 しかし……なるほど。

 家族と住んではいない、1人暮らしでもない…か。

 部屋には、ベットが2つとソファーが1つ、テレビが1台(地デジ対応)、あまり整頓されていない方のベッド・・・木好さんのベッドに、駅前とかで配っているようなティッシュが積み重なっている。

 つまり、いわゆる「同棲」という奴か・・・。

 この青年・・・・・・木好さんは気さくなタイプだから心配ないか。

 いや・・・・・・・俺が心配するようなことではないのだが。

 そこまで考えた時にようやく手を離す。

[・・・・・・・危険・・・・・・]

 !?

 何だ?最後の鮮明な信号は・・・!

「宜しくな、嘉島」

「あ・・・・はい」

 ・・・・・・・・・深く考える必要は無いか・・・。

 人間は自然、不和と歪みがある。危険を持っているのは何も彼だけではない。

「行くわよ、ソウメイ君」

「奏明だっつってんだろうが!」

 無視して虎郷は出て行った。

「・・・・!!」

 言葉にならない怒り。

 その間に、虎郷はその部屋を出た。

「ったく・・・」

 俺が、ため息混じりに言うと、

「・・・ところで嘉島って、あいつと知り合いなのか?」

 と、木好さんが質問してきた。

 軽く語尾が強調されている。思うところでもあるのだろうか?

「・・・いえ、おととい見かけて、昨日知り合ったばかりですよ」

 日付変更に基づいた計算である。

「・・・へぇ。もしかして一目ぼれか?」

「まぁ、そんなところです」

 あながち嘘ではない。彼女の「存在」には興味がある。

「木好さんもそうなんですか?」

「いいや。俺はあいつのただの幼馴染だ。ガキのころからの付き合いだよ」

「でしょうね」、だって聞いたから。心に。と、言えるわけも無いけど。

 すると、もう一度扉が開いて、

「何をしているの?さっさとしなさい」

 と虎郷は俺を手招きする。

「おう。では、またいずれ」

「じゃーな!」

 そんな感じで別れを告げて、再会を約束した。







「何を話していたの?」

「最近のニュース。不景気だなぁって」

「彼は、テレビも新聞も読まないから、今が不景気というのも知らないはずよ」

「・・・・・・・・・」

 なるほど。どんな人にも欠点があるわけか。

 いや、反論だッ!

「でも外に出て仕事してりゃ、嫌でも知る事になるんじゃないか?」

「あなたのその言い分では、やっぱり、ニュースの話をしていたというわけでは無さそうね」

 しまった!

 こういうのは苦手なんだよな・・・。

「それに、彼はあの部屋で、携帯電話だけで仕事をしているわ」

「え?」

「電話で会社を経営しているの。彼は経営の手助けとして働いているのよ」

 ・・・・・・・・・凄い人のようだ。


 その辺で、26階のエレベーターの前に着いた。

 と、同時に1人の女性を乗せて、エレベーターが到着した。

 どうやら、26階の住人らしく、すぐ隣の部屋に入るのを確認してからエレベーターに乗り込んだ。

 虎郷は、エレベーターのボタンのすぐ目の前に、俺は鏡のすぐ目の前に立った。

 そこで俺は

「なぁ」

 と虎郷に話しかける。

「質問に答えるとは限らないわよ」

 まだ何も言っていないのに釘を刺されてしまった。

 その対応にちょっと、勢いを弱らせながらも

「・・・木好さんってお前の何?」

 と訊いた。

「幼馴染よ」

「ふむ。食い違いはなしっと」

「私からも質問いいかしら?」

「答えるとは限らないぜ?」

「彼・・・王城隼人って、何者なの?」

 何者・・・・・・か。

「あまり多くは語らないけど、これだけ言えば分かると信じるぜ」

「何かしら?」

「王城グループ・・・・・・知ってるだろ?」

「・・・・・・王城・・・・・・まさかとは思っていたのだけれど」

「そのまさかであってるよ」



 そう。あいつ、隼人は王城グループの末裔にして御曹司にして跡取り息子だ。

 あの髪型も髪質も、王だからこそ全く気にせず、先生も文句は言えないのである。

 しかし、彼は自分の存在を認めようとしない。

 それは彼が本来の家に住んでいないことからも証明できる。

 彼は、自分が王城グループを継ぐ事を認めていない。

 確かその理由は・・・・・・あ。


「そうか!」

 思わずそう叫んでいた。

「どうかしたの?」

「あ、いや・・・・・・」

「?」

 虎郷は何か言おうとして、口を開いたがすぐに開くのをやめて俺の隣に来た。肩がぶつかり合うくらいに。

 何だこれは!いつの間にか俺はフラグを立てていたのか!?

 などという嘘は放っておいて、驚いたのは事実だった。

 しかし、そんな疑問もすぐに払拭された。

 エレベーターが、『チーン』というベルのような音を立てて、⑤のマークで止まった。

 なるほど・・・・・・人が来るのが分かったから、こちらに寄ってきただけってことか。


 しばらくして、黒いパーカーを着て、サングラスをした男が乗ってきた。

 ・・・・・・不審者だなぁ

 そんな見かけだけの判断をした後、そのまま黙って1階に到着するのを待った。

 その時、虎郷が震えているのに気づいた。

 そこまで寒いわけでもないから、寒さに震えているというわけでもなさそうだ。

 それに、目も閉じているし顔色も悪い。

 つまりは多分・・・・・・。


『チーン』

 ①のマークに到着した。

 彼女が動こうとしないので、俺はその手をとって連れて行く。

 男は、そのままエレベーターで上がっていった。



 俺は、マンションの敷地内から出ると、

「お前、あいつ知ってるのか?」

 と尋ねた。

「・・・・・・・・・」

「おい!」

「!」

 ようやく目を開けて、俺を見る。

「な・・・何?」

 落ち着きは取り戻したようだが、顔色は悪いままだ。

「さっきの男・・・・・・知り合いなのか?」

「いいえ。全く知らないわ」

「本当か?」

「ええ。何なら、確かめれば?あなたなら出来るでしょう?」

 どうやら、俺の能力を分かってきたようだ。

「・・・そうさせてもらう」

 彼女の手を取った。

[火:ロックを確認しました。解除コードの確認後、もう一度お願い致します]

 バチィッ!!

 火花が散って、俺たちの手は強制的に離された。

「「!?」」

 もちろん2人同時に驚く。

 例の声が聞こえたのは俺だけだが。

「そうか・・・・・・」

「何があったの?」

「いや。お前が本当に知らないってことが分かったよ」

 強制的に心の奥底に封じ込まれているか、あるいは、完全に隠し切っているということか・・・。

 この場合は前者だろうな。


 考えるのは苦手だから、後で隼人に相談するか。

「・・・・・・・・・来た!」

 虎郷がそう叫んだ。

「何が?」

「見えてきた・・・・・・・」

「!!」

 俺は、その手をつかんだ。






 視界が吸い込まれていく。






 東先輩、俺、虎郷が、車でどこかに向かっている。

 俺は携帯電話を耳にして、何か叫んでいる。

 虎郷は、さっきのように震えている。

 東先輩は、険悪な表情でハンドルを握っていた。



 どこかに到着した。そこには、隼人が立っていて、何かを見上げている。

 それは俺には、蝋燭ろうそくに見える。周りから溶けた「ろう」のように、何かが少しずつ落ちてきている。

 それを見て、隼人は冷静に見上げて、俺は愕然として見たいた。

 そして、彼女・・・・・・・・・虎郷は泣き崩れた。





 視界が渦巻状になって、もとの視界に戻った。




「何だ・・・・・・これ」

「・・・・・・いつもこんな感じよ。こんな感じに不鮮明な状態から場所を割り出すの」

「・・・じゃあ、どこなんだ?」

「今回ばかりはね・・・。あなたが手を掴んだせいで、どうやら情報が半分くらいになったようだから」

「・・・そうか」

 俺は、手を離して、携帯電話を手に取った。


『何だい?』

「あいつが見たぞ」

『そうか、じゃあ迎えの者を呼ぶから』

 ガチャッ!

 一方的に電話を切ったがすぐに、1つのキャンピングカーが目前にきた。

「乗れ」

 ・・・東先輩だった。

「迎えのものねぇ・・・」

「おう」

 後ろの扉が開いた。



「さぁ。さっさと乗りなよ」

 隼人はそう言って笑った。

 


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