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丸く収まったこの世界  作者: 榊屋
第三章 響き渡るこの世界
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19-王が王であるが故:女王が女王であるが故-

「エイム・ノート」


 状況が一段落着いてから、隼人が言った。

 一段落とは言ったが、この場合のそれは、糸が切れたように泣き始めた彼女が、またも糸が切れたように突然気絶して、それを地面に置いてから、自分たちの応急処置を始めた――までが一段落である。

ちなみに一番危ういと思われたのは虎郷だが、何ら問題なく、ピンピンしていた。ので、一番酷かったのは海馬だろう。


 とりあえず、いつも通りに質問する。

「また突然だけど……そいつは彼女の能力でいいんだよな?」

「うん。元は『エモーション・エイム』というものなんだけど、派生して色々作られてるよ」

「エモーション……感情か。それで、エイムってことは狙う……か」

 隼人が言うには、エモーション・エイムの特徴としては、アクターの所有者の感情を反映する。

 そもそもアクターは、所有者の意思(或いは意志)や感情が反映されている(そもそもアクターは願望や欲望から生まれてくる物だから、当然といえば当然だろう)のだが、エモーション・エイムはそれの比ではない。

 まず、所有者の脳がシンクロしている。

 所有者の目が見て、それを危険だと判断したとき、アクター自体に指令を出すのが通例(俺の左手がその例だ)だが、エモーション・エイムは、指令を出す必要がない。それは、彼女の怒りや叫びで弦の速さが速くなったことが証明している。

次に、アクターの能力が変わる。

 それはつまり、属性変化である。最初はただの衝撃波だった物が、麻痺……一種の電撃のような作用を果たし、麻痺させた。また、弦をミサイルのように飛ばすという攻撃もできた。隼人は進化だと最初は言っていたが、どうやら感情による変化だったらしい。

 俺を邪魔だと思えば、麻痺の属性になったし、強い攻撃の意志から弦がミサイルなった、ということだ。

 そして、アクターそのものが意識を持つ。

 これは彼女のような例が典型的で、「存在」や「自分」という願望を持つ事により、アクターそのものにも「存在」が生まれる。というより、エモーション・エイムの類のアクターを持つ者は、それに近い願いをするらしい。それは、自分という存在が否定されたからこそ、それ以外を否定せずに生きようという決意の表れであろう。

 語尾が曖昧なのは、そのアクターになった者にしか分からないからだそうだ。隼人が言っていた。


 アクター自身の意識は、所有者の意志を邪魔するものではない。むしろ尊重するものだ。だが、所有者の身の危険を感じれば、何よりも早く動く。また、アクター自身が見える視界の情報も、シンクロしている脳を通じて所有者に入る。所謂、もう1人の自分がいると言うことだ。

「それが今回は『音楽』だっただけの話なんだよ」

 話を終えて、隼人に声をかけた。

「でも、どうして音河はそんな風に服装が変わったんだ?」

 ロックテイストの格好になってしまっている彼女。

 隼人はその音河を背負って、会場の方に向かった。俺と海馬と虎郷も、その背中を追いかける。

「彼女のアクターは、Weaponだ。これは、CyborgとArmsに分かれるんだけど、これらの特徴は所有者の姿が変わることだ。まぁ1回目くらいだよ、ここまでになるのは。2回目以降は感情の整理がついているはずだからね。まぁ、暴走でもしない限り大丈夫だろう」

「いくらなんでも変わりすぎじゃないか?」

 俺の代わりに海馬が続けて質問した。

「いや。実は東先輩もWeaponでね。Cyborgの方だったんだけど、彼は暴走族になってたよ。今は抑えているけど、たまに感情が爆発したら、リーゼントになってそれなりの格好になる」

「へぇ・・・。初めて聞いたな」

「まぁ、僕らは自分の能力――アクターを他人に話したがらないから」

 そう言って、話しているうちに会場に着いた。

「・・・・・・王城君。まさか、彼女を置いていくの?」

「・・・いいや。彼女の件は今日元さんに相談するよ。何とか説得してみる」

「なら、何をしに来たの?」

「・・・決意表明・・・かな」

 そして音河を背負ったままの隼人は、倒れたままの音河社長の元に向かう。俺達は状況を察して、それ以上は近づかなかった。


「・・・音河社長」

 社長を見下ろす角度で、隼人は言った。

「・・・」

「起きてると思うので勝手に言います」

 そのまま腰を曲げる事もなく見下ろす。

「僕は響花を守り抜きます。ですから、貴方から彼女を解き放ちます。許可は取りません。ただの決意表明です」

「・・・・・・何も持っていない貴方に何ができる・・・・・・」

 社長はそのままでも、王に対して屈することなく言った。勢いだけでも威厳がある。倒れたままの市井は直ることはないが。


「お前はそのを幸せにはできない。何も持っていない貴様に何ができる」

 厳しい口調で社長は続ける。


「・・・・・・僕は王城を捨てました。なぜなら僕には目標があるからです」

 そして。

 隼人は遅ればせながらの自己紹介を始めた。

「目標・・・・・・?お前はそのまま王城に居れば、最高級の幸せを手に入れられたはずなんだ。どうせくだらない目標のために貴様は――」

「僕は!」

 

 社長の嘲笑するような物言いを無理やり遮って止める。



「王城を越える組織を作る。僕は王を越える。頂点を目指す。成りえない者・・・神に近づいてみせる」

 そう。


 それが俺達とつるむ彼の目的。

「王城を越える」

 それが彼の最大の目的だった。


 隼人はこちらに向かってきた。帰路に立ったということだ。社長も何も言えずに口をつぐんでいる。



「それに僕は持っている。最高の仲間を。それだけで最高級の幸せだ」

 隼人はそれだけ言って、俺達の前を通り、俺達の前を歩き始めた。


 時刻は6時。11月にもなり、日が沈むのが早くなった。

 

 だが、その光でさえ、王と王女を祝福するように――いや。

 

 未来の神と女神への賛美のように、

 

 後光をさしていた。



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