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丸く収まったこの世界  作者: 榊屋
第三章 響き渡るこの世界
55/324

17-家臣の説教:王の決断:家臣の助け:女王の瞳-


 久しぶりに長いです。約3500文字です。よく準備してからお読みください。



「響花……?何言ってるんだ……」



隼人は彼女の発言に驚いてようやく口にした言葉がコレだった。


「そうやって何も気づかないから私は傷つくんだよ。だから私の心は痛むんだ」

音河は言いながら動いた。隼人は茫然として動けない。

「だから私は怒っているんだ!!」

1歩で踏み出して、ハンマーのように振り落とした。

「!」

隼人はそれでも動かない。否、動けないんだろう。脳内容量がキャリーオーバーしたのかもしれない。故に、攻撃はそのまま隼人に振り落とされた。


「隼人!!」

「!」

俺の叫び声でようやく少し動くが、時すでに遅しで、肩にヒットした。 メキィッ!

「ぐぁあああ!!」

 何かが砕けるような、折れるような音がした。その対象は間違いなく「骨」だ。

 女子の腕力だったことで、力が入っていなかったことと狙いが定まっていなかったことと、少しだけ動いたことが不幸中の幸いで、頭に当たることはなかったが、棘が合ったためダメージはそこまで軽減されないだろう。

「……もっかい」

宣言通り、ギターを引っ張り(自然、棘が肉をえぐり取るような動きをする)、もう1度ギターを隼人にぶつけた。今度は横殴りに脇腹にヒットさせた。


「がっ……」

 少し斜め下からの攻撃だったようで、隼人は10メートル先の空に向かって飛んでいく。

「ストリング」

ヘッドから弦が飛び出る。1メートル、2メートルと伸びていき、10メートル先の隼人を掴んだ。

俺のときと同じ事をしようとしているのかと思ったが

「アァァァァァァ!!」

と叫んでそのままギターを振り回した。力業だった。

1周回ったところで、隼人を地面にたたきつけようと、ギターを縦に振った。


 が。


地面に向かって落ちては行ったが、ぶつかることはなかった。

「……王城君」

「ヒスイ……君」

虎郷が王城をキャッチしたのだ。3人の男子がボロボロで、女子に助けられるという、とてつもなく恥ずかしい状況になってしまった。


 距離は遠いが、周りに人がいないから俺の耳と能力なら聴こえる。

「……」

虎郷は黙って、伸びていた弦をねじ曲げて壊した。

「ありがとう。ヒスイく――――」

「だから言ったでしょう?本当に良かったのかって」

「……!?」

「彼女の最後の一手になったのは、あなたの『これで良いんだ』という言葉のせいよ。アレで彼女は詰んだのよ。王が王女を詰むというのも、皮肉な話だけど。その証拠に今あなたはこうやって窮地に立たされている」

虎郷も音河と同じように睨む。

「今回の事件はあなたの責任。不用意な余計な1言で――――それが最後のトリガーとなって、彼女は能力を完成させた」

「僕の……責任……」

隼人は言い聞かせるように繰り返した。

「もちろん、根拠のない推論よ。女心って奴かもしれないわ」

自分に相応しくないと思ったのか、笑いながらそう言った。

「もう一度だけ聞くわ。これで良いのかしら?」

「…………」

隼人は黙って立ち上がった。

「行ってくる」

そして走り始めた。

弦乱射ストリング・ガトリング

ヘッドから弦が、拡散するように飛び出す。そして途中で方向を変え、隼人を狙う。合計10発だ。大きさはギターのそれとは違い、直径10センチくらいだ。

「アァァァァァァ!!」

音河は叫ぶ。弦は速さを増す。

「……同じ轍は2度と踏まない…。踏むわけにはいかない!!」

隼人は飛び上がる。3メートルは越えただろう。1発目はそれで避ける。鉄の刃のように、コンクリートに突き刺さる。

 しかし、2発目が隼人を襲う。追尾弾のようだ。

「……うぉぉぉあああ!」

空中で身動きがとれない隼人は、雄叫びを上げながら体を捻って左向きに回転する。体が少し左に動きながら落下する。危ういが、2発目を避けて地面に着地する。


が。

「!」

無理な動きと、ダメージを脳を騙すことで軽減していた反動のためか、動きが突如として止まった。一秒程度とは言え、それが命取りとなる。3発目と4発目が、左右から来る。

「ヤバい……」

「怪我しないように気をつけて」

万事休すで弱音を吐いた隼人を投げ飛ばす。


 後ろから走ってきた虎郷が、だ。

「ヒスイ君!」

隼人が叫ぶと同時に、虎郷の体に2発の弦がぶつかり、煙を起こす。虎郷に突き刺さったのかもしれないし、コンクリートの方に刺さったかもしれない。あるいは2発の弦に挟まれたかもしれない。

「……すまない……」

言いながら隼人は、音河の方に向かった。それでいい。じゃないと虎郷が身代わり(死んだかどうかは分からないけど)になった意味がない。

5発目は正面から来た。隼人はまたも飛び上がって避ける。そして、6発目が同じように隼人を狙う。

「……大丈夫だ」

 しかし、今度はその5発目の上に乗ることで現状回復した。そして、6発目を飛び上がって避けて、前に進む。直径10センチしかない上に、丸い形で、バランスも悪いだろうが、お構い無しに走る。

残り5メートルまで近づいた。

「……良いはず無い」

隼人は走りながら呟いた。

「ウァァァァアアアア!!」

音河が叫ぶ。7発目と8発目と9発目――――計3発が隼人に一斉に襲いかかる。速さはさらに速くなった。それでも隼人は走るのをやめない。そして

「良いはずが無いんだ!!」

叫びながら隼人は跳んだ。

身動きがとれなくなるのも構わずに。

ザシュッ!

1発が隼人の右肩に突き刺さる。続いて、2発ともが、隼人の左腕と左肩を突き刺した。

「うぉぉぉぉぉぉ!!!」

それでも隼人の勢いは収まることなく、前へ突き進む。同時に地面へと体は向かう。

「……!!」

音河は一瞬狼狽える。

「ぉぉおおお!!」

隼人がそのまま跳んでいる間に、突然、弦が切れる。

「……私を理解なんて出きるはずない!!」

怯んだはずの音河は、先程以上の勢いで叫んだ。

それは悲痛の叫びだったのだと思う。

「!」

すると、最後の1発――――10発目の大きさが、急に膨れ上がるように大きくなった。直径は20センチぐらい。隼人と俺達との距離は2メートル。

先程以上のスピードとなった弦は、1秒もなく、隼人に到達した。

グサァッ!!

それは間違いなく突き刺さった。2メートル先の




 コンクリートの壁に。


「……!!」

驚く音河。

 その彼女にようやく呂律が回るようになった俺は言った。

 左手を地面につけて。

「2メートルくらいなら俺の力も届くさ」

 音河はこちらを睨んでギターを構えた。

ちょっとは役に立ったかな…隼人。

そんなことを思った俺に隼人は



「流石だよ。相棒」



と。

1メートルの距離で言った。

「!!」

だが、それはつまり、音河との距離に等しい。

衝撃音(ソニック・ノート)!!」

音河は振り向きながら、ギターに手をかけた。

ギィィィィィン!!

豪快な音を立てたギターから出たその音符は。


「!」

空を切った。理由は間違いなく、ギターの向きがズレたから。そしてその理由は、ギターに瓦礫がぶつかり、標準がズレたからだ。


「ナイスだ。タダシ君」

「お褒めに与り光栄の至りだっつーの。最後ぐらい活躍させろ」


見ると、10メートル先の会場から、海馬が瓦礫を蹴ったままの態勢で立っていた。最高の運とブランクがあるが、元サッカー経験者という履歴が良いように作用したらしい。


そして隼人はギターを右足で地面に向かって叩きつけた。ギターを肩に掛けていたスリング(で良いのかどうかはしらない)が切れて、ギターごと地面に落ちる。


「響花……」


 隼人は彼女の正面に立って、いつも通り彼女の名前を呼んだ。

「……どうして?」

音河は目に涙を溜めながら、隼人を睨む。



「どうして邪魔するんだよ!!私を理解できる人なんていない!!隼人は自分の人生のために、王城との縁を切ったけど私にそんな勇気ない!!隼人にだって私を理解できないんだよ!!」

「あぁ。理解できない」

「だったら邪魔しないで!早く消えてよ!!私は――――」

と。

そこで彼女の叫びは止まった。或いは止められたと言うべきかも知れない。

俺も、目を丸くして見るしかなかった。


なぜなら、彼女の発言が止まったのは、隼人が音河を抱きしめたからだ。隼人より少し小さいその体躯を。


「理解はできなくても、受け入れることは出きる」

隼人は言った。


「君が何をしようと僕が受け入れる。僕は――僕らは、君の味方だ」

 隼人がそう言うと、



「う――――うわぁぁぁぁぁぁぁ、あ、う、うああああ―――――」

 


 彼女は糸が切れたように泣き叫んだ。


 心を吐き出すように。


 思い悩んできたことを。


 想い悩んできたことを。


 悲痛の叫びというなら、こちらが本当なのかもしれない。


 俺達も味方に含めるのかよ

 なんて、野暮な突っ込みも入れない。


 彼女のギターも、飛んでいった弦も全て消えていく。


 彼女の悩みと同じように。


 彼女の願いが叶うように。


 地面や壁に爪あとを残しつつも、1つ残らず全て消えた。



 一応解説。


 「思い」は考えていた事で、


 「想い」は募る恋心だと、僕は判断しています。


 それにしても、「泣く」を表現するのって難しいね。

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