17-家臣の説教:王の決断:家臣の助け:女王の瞳-
久しぶりに長いです。約3500文字です。よく準備してからお読みください。
「響花……?何言ってるんだ……」
隼人は彼女の発言に驚いてようやく口にした言葉がコレだった。
「そうやって何も気づかないから私は傷つくんだよ。だから私の心は痛むんだ」
音河は言いながら動いた。隼人は茫然として動けない。
「だから私は怒っているんだ!!」
1歩で踏み出して、ハンマーのように振り落とした。
「!」
隼人はそれでも動かない。否、動けないんだろう。脳内容量がキャリーオーバーしたのかもしれない。故に、攻撃はそのまま隼人に振り落とされた。
「隼人!!」
「!」
俺の叫び声でようやく少し動くが、時すでに遅しで、肩にヒットした。 メキィッ!
「ぐぁあああ!!」
何かが砕けるような、折れるような音がした。その対象は間違いなく「骨」だ。
女子の腕力だったことで、力が入っていなかったことと狙いが定まっていなかったことと、少しだけ動いたことが不幸中の幸いで、頭に当たることはなかったが、棘が合ったためダメージはそこまで軽減されないだろう。
「……もっかい」
宣言通り、ギターを引っ張り(自然、棘が肉をえぐり取るような動きをする)、もう1度ギターを隼人にぶつけた。今度は横殴りに脇腹にヒットさせた。
「がっ……」
少し斜め下からの攻撃だったようで、隼人は10メートル先の空に向かって飛んでいく。
「ストリング」
ヘッドから弦が飛び出る。1メートル、2メートルと伸びていき、10メートル先の隼人を掴んだ。
俺のときと同じ事をしようとしているのかと思ったが
「アァァァァァァ!!」
と叫んでそのままギターを振り回した。力業だった。
1周回ったところで、隼人を地面にたたきつけようと、ギターを縦に振った。
が。
地面に向かって落ちては行ったが、ぶつかることはなかった。
「……王城君」
「ヒスイ……君」
虎郷が王城をキャッチしたのだ。3人の男子がボロボロで、女子に助けられるという、とてつもなく恥ずかしい状況になってしまった。
距離は遠いが、周りに人がいないから俺の耳と能力なら聴こえる。
「……」
虎郷は黙って、伸びていた弦をねじ曲げて壊した。
「ありがとう。ヒスイく――――」
「だから言ったでしょう?本当に良かったのかって」
「……!?」
「彼女の最後の一手になったのは、あなたの『これで良いんだ』という言葉のせいよ。アレで彼女は詰んだのよ。王が王女を詰むというのも、皮肉な話だけど。その証拠に今あなたはこうやって窮地に立たされている」
虎郷も音河と同じように睨む。
「今回の事件はあなたの責任。不用意な余計な1言で――――それが最後のトリガーとなって、彼女は能力を完成させた」
「僕の……責任……」
隼人は言い聞かせるように繰り返した。
「もちろん、根拠のない推論よ。女心って奴かもしれないわ」
自分に相応しくないと思ったのか、笑いながらそう言った。
「もう一度だけ聞くわ。これで良いのかしら?」
「…………」
隼人は黙って立ち上がった。
「行ってくる」
そして走り始めた。
「弦乱射」
ヘッドから弦が、拡散するように飛び出す。そして途中で方向を変え、隼人を狙う。合計10発だ。大きさはギターのそれとは違い、直径10センチくらいだ。
「アァァァァァァ!!」
音河は叫ぶ。弦は速さを増す。
「……同じ轍は2度と踏まない…。踏むわけにはいかない!!」
隼人は飛び上がる。3メートルは越えただろう。1発目はそれで避ける。鉄の刃のように、コンクリートに突き刺さる。
しかし、2発目が隼人を襲う。追尾弾のようだ。
「……うぉぉぉあああ!」
空中で身動きがとれない隼人は、雄叫びを上げながら体を捻って左向きに回転する。体が少し左に動きながら落下する。危ういが、2発目を避けて地面に着地する。
が。
「!」
無理な動きと、ダメージを脳を騙すことで軽減していた反動のためか、動きが突如として止まった。一秒程度とは言え、それが命取りとなる。3発目と4発目が、左右から来る。
「ヤバい……」
「怪我しないように気をつけて」
万事休すで弱音を吐いた隼人を投げ飛ばす。
後ろから走ってきた虎郷が、だ。
「ヒスイ君!」
隼人が叫ぶと同時に、虎郷の体に2発の弦がぶつかり、煙を起こす。虎郷に突き刺さったのかもしれないし、コンクリートの方に刺さったかもしれない。あるいは2発の弦に挟まれたかもしれない。
「……すまない……」
言いながら隼人は、音河の方に向かった。それでいい。じゃないと虎郷が身代わり(死んだかどうかは分からないけど)になった意味がない。
5発目は正面から来た。隼人はまたも飛び上がって避ける。そして、6発目が同じように隼人を狙う。
「……大丈夫だ」
しかし、今度はその5発目の上に乗ることで現状回復した。そして、6発目を飛び上がって避けて、前に進む。直径10センチしかない上に、丸い形で、バランスも悪いだろうが、お構い無しに走る。
残り5メートルまで近づいた。
「……良いはず無い」
隼人は走りながら呟いた。
「ウァァァァアアアア!!」
音河が叫ぶ。7発目と8発目と9発目――――計3発が隼人に一斉に襲いかかる。速さはさらに速くなった。それでも隼人は走るのをやめない。そして
「良いはずが無いんだ!!」
叫びながら隼人は跳んだ。
身動きがとれなくなるのも構わずに。
ザシュッ!
1発が隼人の右肩に突き刺さる。続いて、2発ともが、隼人の左腕と左肩を突き刺した。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
それでも隼人の勢いは収まることなく、前へ突き進む。同時に地面へと体は向かう。
「……!!」
音河は一瞬狼狽える。
「ぉぉおおお!!」
隼人がそのまま跳んでいる間に、突然、弦が切れる。
「……私を理解なんて出きるはずない!!」
怯んだはずの音河は、先程以上の勢いで叫んだ。
それは悲痛の叫びだったのだと思う。
「!」
すると、最後の1発――――10発目の大きさが、急に膨れ上がるように大きくなった。直径は20センチぐらい。隼人と俺達との距離は2メートル。
先程以上のスピードとなった弦は、1秒もなく、隼人に到達した。
グサァッ!!
それは間違いなく突き刺さった。2メートル先の
コンクリートの壁に。
「……!!」
驚く音河。
その彼女にようやく呂律が回るようになった俺は言った。
左手を地面につけて。
「2メートルくらいなら俺の力も届くさ」
音河はこちらを睨んでギターを構えた。
ちょっとは役に立ったかな…隼人。
そんなことを思った俺に隼人は
「流石だよ。相棒」
と。
1メートルの距離で言った。
「!!」
だが、それはつまり、音河との距離に等しい。
「衝撃音!!」
音河は振り向きながら、ギターに手をかけた。
ギィィィィィン!!
豪快な音を立てたギターから出たその音符は。
「!」
空を切った。理由は間違いなく、ギターの向きがズレたから。そしてその理由は、ギターに瓦礫がぶつかり、標準がズレたからだ。
「ナイスだ。タダシ君」
「お褒めに与り光栄の至りだっつーの。最後ぐらい活躍させろ」
見ると、10メートル先の会場から、海馬が瓦礫を蹴ったままの態勢で立っていた。最高の運とブランクがあるが、元サッカー経験者という履歴が良いように作用したらしい。
そして隼人はギターを右足で地面に向かって叩きつけた。ギターを肩に掛けていたスリング(で良いのかどうかはしらない)が切れて、ギターごと地面に落ちる。
「響花……」
隼人は彼女の正面に立って、いつも通り彼女の名前を呼んだ。
「……どうして?」
音河は目に涙を溜めながら、隼人を睨む。
「どうして邪魔するんだよ!!私を理解できる人なんていない!!隼人は自分の人生のために、王城との縁を切ったけど私にそんな勇気ない!!隼人にだって私を理解できないんだよ!!」
「あぁ。理解できない」
「だったら邪魔しないで!早く消えてよ!!私は――――」
と。
そこで彼女の叫びは止まった。或いは止められたと言うべきかも知れない。
俺も、目を丸くして見るしかなかった。
なぜなら、彼女の発言が止まったのは、隼人が音河を抱きしめたからだ。隼人より少し小さいその体躯を。
「理解はできなくても、受け入れることは出きる」
隼人は言った。
「君が何をしようと僕が受け入れる。僕は――僕らは、君の味方だ」
隼人がそう言うと、
「う――――うわぁぁぁぁぁぁぁ、あ、う、うああああ―――――」
彼女は糸が切れたように泣き叫んだ。
心を吐き出すように。
思い悩んできたことを。
想い悩んできたことを。
悲痛の叫びというなら、こちらが本当なのかもしれない。
俺達も味方に含めるのかよ
なんて、野暮な突っ込みも入れない。
彼女のギターも、飛んでいった弦も全て消えていく。
彼女の悩みと同じように。
彼女の願いが叶うように。
地面や壁に爪あとを残しつつも、1つ残らず全て消えた。
一応解説。
「思い」は考えていた事で、
「想い」は募る恋心だと、僕は判断しています。
それにしても、「泣く」を表現するのって難しいね。