14-最後の一手-
最後っていつ? 幕引きってどれ?
究極ってどこ? 破滅ってなに?
結果発表が終わり、納得のいかない人達はそのまま会場で待機していた。俺と海馬と虎郷は自分の席へ。隼人達参加者は(縄を解いて)ステージの席に座っていた。
そして予想通り、音河社長の説明が始まった。
「……今回は先程言ったとおり、残念な結果となってしまいました。不正を犯してまで勝ち取ろうとするものが3人も出てきてしまったのですから。彼らを選ぶわけにはいきません」
その通りだ。彼らを選ぶわけにはいかない。だったら誰もが思うはずだ。
どうして王城隼人が駄目なのか。
「しかし、それも1つの愛の形です。何もしようとしない者を選ぶことも同じく相応しくないのではないかという判断をさせて頂きました。まして、何も持っていない者を選ぶことも相応しくない」
思わず身を乗り出すように立ち上がりそうになったが、両肩を海馬と虎郷に抑えられる。
「何で止める!!」
声を抑えながら叫ぶ。偉業だ。
「どうせ『何も持っていない』ってセリフに怒ったんだろ?でも、そりゃあ的を射ちまってる」
「何言ってんだ!!アイツは王城―――!!」
言いかけて気づいた。アイツは自己紹介の時に言ったんだった。唯一、一言だけ。
「『王城を継がない』という彼の言葉は、自らの価値を捨てたようなものよ」
「でも、アイツは――」
「あなたが彼の何を知っていてもそれは皆は知らないのよ。私達の知っている彼では意味はない。周りの人々の目は、彼の価値は『王城の御曹司』だ、という点に集中しているの」
虎郷に言われてようやく理解できた。
そうか。俺達以外の人間には、王城の王たる所以を理解されることはないのか。
「しかし、今回の事件のおかげで良い教訓を得ました。この昔ながらの手法では、よい結果は得られないようですね。ですので、彼女の相手は私達が捜して決めるとしましょう」
社長さんはそれだけ言うと、後を司会者に任せるように舞台袖に消えていった。
「……えー…。では、後味の悪い結果となってしまいましたが、これで終わりとさせていただきます」
これで終わり……か。
会場にいた人々もどんどんと外に出て行こうとホールの出口に向かう。俺達は隼人の横にたった。
不正を行った3人も帰ろうとしている。と、そこで疑問
「お前らは警察行きだろ?」
「私の犯罪をもみ消すために警察に金を回したところ、残念なことに私の不正を隠すためには他の皆さんの不正も隠さなければなりませんでした。という訳でおいとまさせていただきますよ」
俺の質問に流ちょうな日本語でジャンが答えた。そして3人とも出口に向かった。
「……隼人」
「良かったんだよ」
俺が名前を呼んだだけで、隼人は全てを見透かした。
「これで良いんだ。彼女の相手は決まらなかったけど、少なくとも犯罪者と結ばれることは無いのだから」
と、安心したように言った。
その顔から読み取れたのは本心からの声だった。
『本当に良かった』
つまり、彼は彼女を本心から昔からの親友として、親身に思っていたということだ。それが彼女にとって、嬉しい事なのかといえば、甚だ疑問――――いや、こんなところでわざわざ難しい言葉を使う必要性はない。
間違いなく、彼女にとっては悲しみを増幅させる一手に過ぎないだろう。
「本当に良かったのかしら」
小さな声で虎郷が言った。
「私たちが関わるようなことではないのでしょうけれど・・・。少なくとも、それで良かったとは私達は思わないわ」
「・・・ヒスイ君。それはどういう――」
「おい!」
彼の発言を邪魔するように、野太い声が上がった。見れば、司会者に突っかかっている。
「どういうことだ!こいつは!」
「え、はい?」
司会者はうろたえながら、男の言葉に対応している。
「出口が開かないんだよ!」
「!」
確かに、あの3人も含めた、全員が出口付近に固まっている・・・。しかし・・・。
出口が開かない・・・!?
「どういうことなんだ?隼人?」
「この会場の全部屋の入り口と出口は、電気によって制御されている。それはこのホールにも適用されている。つまり、電気に異常があるか、プログラムそのものに異常が出てるということだ」
隼人の声が聞こえたのか、司会者は
「今、確認を取ります」
と、トランシーバーを取った。
ゴトッ
ほぼ同時に、舞台袖から何かが飛んできた。
「・・・!」
それは音河社長の姿だった。
「しゃ・・・社長!」
司会者が音河社長を抱きかかえる。そして、舞台袖を睨む。
「お前・・・何者だ!?」
ギィイイイイイイイイイイイイン!
その言葉をかき消すように、ギターの音が鳴り響く。
「ぐあああああ!」
司会者の人が何かが当ったように、吹っ飛ぶ。そして、動きを止めた。恐らく気絶しただけだろうが、危ない状態ではある。
「な・・・何だ・・・?」
先ほどまで威勢が良かった男が後ずさる。
そして、その舞台袖からギターを持った女が現れた。服装は、ファッションに疎い俺としては、ロックテイストとしか言いようがない。特徴は、目の下にある謎の模様。ロックを歌っている歌手が良くしている、悪魔の羽のような形をかたどったマークだった。
「・・・・・・何よ・・・あれ・・・」
「何なんだ・・・アイツは・・・」
周りの人々が言う。完全に空気に飲まれている。と、そこで参加者の3人の男が寄ってくる。目立つポイントとでも思ったのだろうか・・・。
「何なのかは、分からないが目立って見せるぜ」
「誰でしょうかね・・・あの女は・・・」
「・・・・・・」
3人とも不思議そうな顔をしている。俺も虎郷も海馬も分からない。何なんだ、これは。
「・・・やっぱり、誰も分からないんだね。そりゃそうだよ。だって貴方達はそういう奴らなんだもんね。貴方達が興味を持っているのは、音河なんだよ。私はどうでもいいんだよね?」
その声を聴いて、ようやく俺は分かった。でも、それよりもずっと前から分かっている奴が居たようだ。
「・・・・・・響花・・・!」
隼人が目を丸く開いていった。
俺達の前に居た、隼人以外の全てから見た「ソレ」は、今回の主役でありながら、端々へと追いやられていた、音河響花だった。
とうとう彼女のステージがようやく始まった――ようやくステージに立ったのだ。
何もまだ始まっていない。始まらないものは終わらない。