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丸く収まったこの世界  作者: 榊屋
第三章 響き渡るこの世界
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13-参加者尋問-

 


 生きたくて生きる人と死にたくて死ぬ人の違いはたった一つしかないのです。


 この世界を楽観視したのか悲観視したのか。



 3人の男を捕まえた俺達3人は、周囲の人々が唖然としている中隼人の前に立った。


「隼人様。命令通り、犯人を捕まえておきました」

 俺が悪ノリで言うと、

「少し体力を使いましたが、着物が少し乱れる程度で済みましたわ」

「稼がせてもらえて、光栄ですよ。王」

 と、2人も乗ってきた。挙句の果てに

「くるしゅうない」

 と隼人は続けて笑った。

「彼らは一体何者ですか?」

と司会の人がマイクを通さず質問してきた。隼人は答えようと口を開いた。

「僕の仲「部下です」

彼の発言を強制終了させるように、3人同時に言った。

「彼の命令で彼らを捕まえさせて頂きました。」

と顎で彼らを指した。

俺達は3人を縄で縛って、このホールに連れてきた。見せしめにしたかった訳ではない。そもそもココに連れてこさせたのは俺達ではなく警備員の方々だ。隼人を含めた俺達はその3人の前にたった。


「何であんな真似をした」

「……ポイントを上げるためだよ」

御堂は言った。

「私からすればアナタが何もしない方が不思議ですよ、王城隼人。それが幼なじみの余裕ですかねぇ?」

続けてジャンがそう言った。さらに御堂が

「だからこそ、俺は努力しなくてはならなかったんだよ。お前がいる限り、彼女はお前を選ぶ。だったら他の人に求められるしかない。決定しちまえば彼女は俺を振らないだろう。そうなれば俺が死ぬことになるからなぁ……。彼女はそんな真似ができるはず無い。あの娘は優しすぎる」

と、自らの作戦を暴露した。ジャンも笑っているから、恐らくは同意しているのだろう。


「西条。お前もそうなのか?」

俺は興味本位――ではなく、確信があっての質問だった。

「どういう―――」

「お前もそんな浅はかな考えなのかって意味だよ」

彼の言葉に被せて俺は続けた。

「……誰しも思っているはずだ。正義感があるから何なんだって…。それだけじゃ何の役にも立たない」

司会者がマイクを向ける。面白いと思ったのだろうか。

「金も知恵も運動神経もない。だったら唯一の取り柄の正義感しかないだろう?まぁそれでさえも、危険が低い、爆発事件にしかいかないような小さな取り柄だよ。もちろん、事件を作り上げたからっていう理由もあったけどさ」

と自らを嘲るように笑って言った。

「……西条」

俺は西条に目線が合うようにしゃがみ込んだ。

「何で俺がお前について行ったか分かるか?」

「…え?」

「お前ほどの正義感を持った男が不正を犯してまで戦おうとするはずがないと、信じていたからだ」

「逆だろ……」

西条はそう言ってまたも笑った。

「戦おうとするはずだと思っていただろう」

「違う。だって、お前の正義感は間違いなく本物だったからだ」

「そんなの分からないだろ」

「そう、分からない。けど俺には『聞こえる』んだよ」

「?」

俺達以外の人間が不思議そうな顔をしていた。そりゃそうだろうな。でも説明するつもりはない。

「お前はこう思ったんだよ。『誰か怪我をしてしまっていないだろうか』って。お前が、爆発事件を選んだのも、最も大きい事件でありながら、誰も居ない場所で起こせる爆発事件だった。玄関ホールを選んだも建物本体に影響を与えにくいからだ」

「・・・見透かした事を言うな」

 西条は静かな怒りをもって、こちらを睨んだ。

「お前に何が分かる」

「何も分からないさ。俺には。もちろん誰一人分かるはずがない。人の気持ちなんて」

 捨てるように俺は言葉を吐いた。

「・・・・・・」

「でも」

 俺はそこで司会者が差し出していたマイクを握りつぶした。奇怪で迷惑な音が鳴り響く。


「聞こえるよ。お前の『優しさ』が」

 俺は、真っ直ぐに彼の目を見て言った。何がその相手に伝わったかどうかは分からない。だが、これが俺の精一杯だ。



 そこで、舞台袖から音河財閥の社長が出てきて、


「結果が出ました」


 といった。


 俺と海馬と虎郷はその場から退散しようとして、身を翻した。これで決まったと安心したからだ。この場に居た誰もが結果を聞かずとも理解していた。

 

 はずだった。



「この中から、婚約者は選びません」

 

 予想外の発言で、会場内の空気が騒然とする。

 社長はそれだけ言うと、俺達と同じように身を翻して、また舞台袖の闇へと消えていった。

 

 俺達と言えば、翻したはずの歩は動きをやめ、疑問を頭に残す結果となった。


 そのとき俺達は忘れていたのだ。まだ事件は3つしか終わってなかった事に。




 生きたいのに死ぬ人と死にたいのに生きる人の違いは数多くあるのです。


 でも共通点は一つです。


 この世界に嫌われているのです。


 

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