表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
丸く収まったこの世界  作者: 榊屋
第一章 決まりきったこの世界
5/324

04-つまらない世界-

 未来は変えられても、運命は変えられないらしい。


 それは、+の未来を-にしたとき、未来は「変わった」と言える。


 しかし、未来が変わったというその事実が「運命」である。ということらしい。


 だから未来を変えることに意味なんて無いのである。


 それでも変えようとしているのだった。

 

 彼女の言葉を、頭の中で反復する。


 変わらない 未来なんて つまらないから



 俺と虎郷はまた、夜道を歩き始めた。

 9月10日(土)の真夜中0:00頃である。

「歩いていたら、彼女が何か、見るかもしれない。それ待とうよ」

 そう、隼人は言って、俺たちより先に外に出た。一体何をしに行ったのか。


「早く行くわよ」

 虎郷にそう急かされて、俺も遅れて外に出た。

 結局、今は俺と虎郷の2人で歩いている。しかし、何故だろうか。

 俺自身が、この2人組みをもし見たとしても、この2人がカップルだとは思えないだろう。


 違和感。


 それは、俺は感情というものに渇いていて、それを潤す気もないから。


 そして、彼女にとって、俺という存在はただの道具に過ぎないからである。


 特に何を話すでもなく、歩いていた。



 ので。



 とりあえず先ほどの話を回想することにした。








「『フューチャー・ライン』」

 隼人は重々しく口を開いた。


「先ほど君が言ったとおり、君の能力は『未来予知』だ。そして、それは便宜上『フューチャー・ライン』と呼ばれている。こういう能力者は原型オリジナルだから、サイコキネシスが使えるね」

 隼人は続けてそう言った。

「フューチャー・ライン?」

 まぁ、当然の結果、虎郷は聞き返す。

 それを待っていたように、隼人は答えた。

「未来に向かっていく道を見ること。という意味で未来を見る能力をそう呼ぶことにしたんだそうだ」

 と隼人は言ってから、

「君は一体どんな未来を見てきたんだ?」

 と唐突に質問した。

「答える必要は無いわ」

「あぁ。それもそうか。ソウメイ君」

「おう」

 と。

 俺は、彼女の手を取った。

 流れ込む。


 脳の中に。


「………銀行強盗、落盤事故、電車の脱線………本当に、事件や事故だけだな」

「!」

 虎郷は俺の手を振りほどく。

「うぉ!」

 俺の腕を下に向かって振りほどいたことによる衝撃で、俺は縦に1回転した。そして滞空状態にあった俺を彼女の右腕が的確に狙う。

「痛ェ!!」

 俺は、隼人の横のソファーに激突した。

 昔読んだ少年バトル漫画を思い出す。滞空中に攻撃を受けるのは何だかんだ初めてなような気がする。

「どうやら怒らせると怖そうだね。何か格闘技でもやってんのかな」

 隼人は冷静に分析している。怖そうと言っている割に全然怖そうに思ってないようだ。

「その辺は後で聞いてみるよ」

 痛みを我慢しつつ体を起こすが、ソファーからは動きたくない。ダメージは案外でかいのだよ。

「あなた・・・・・・何?」

 何 というのは相変わらず変わっていない。

 そう、それでいい。俺たちは、何かなのだから。

「この力は嫌いだ。だから、言いたくはない」

「そ」

 ………淡白な女だった。


「で」

 隼人が口を開く。

「君は、その事件・事故に関わったわけだ」

「えぇ。それらに関わった人たちを助けようとした」

「……『ようと』ってことは、つまり」

「そうよ。一度も成功したことはないわ」

 隼人の言葉を遮るように、続きを虎郷が言った。

「んー・・・・・・そもそも、願ったらなるようなタイプの力じゃないんだけれど・・・・・・」

 そう言って隼人は考えるような素振りを見せる。

 演技のような白々しさも感じるが、本気で思っているようにも見える。

 それから、隼人は笑って

「ちなみに、君の名前の漢字は?」

 と、尋ねた。

「『虎』に故郷ふるさとの『郷』、火と水で『火水』で虎郷火水こさとひすいよ」

 彼女は、そう言った。

「そうか。わかった」

 どうも早々と分かっていたようで――つまり、先ほどのは演技に近かったようだ――そう呟いた。

 そして、重々しく隼人は口を開いた。


「『ファントム・ダーツ』」

 と。




「どうやら珍しいタイプのようだよ」

「どういうことだ?」

 隼人の発言に、彼女本人より先に質問する。

「彼女の能力は『フューチャー・ライン』の進化・・・・・・というよりは、派生形に当る、『ファントム・ダーツ』だ」

 隼人は笑った。

「君は『ネーム』だよ」

 そう言ってまた笑った。

「『ファントム・ダーツ』は、悪い事件・事故限定で見る能力さ。そして、この能力を持った人には、ある程度の『意志』が存在する」

「意志?」

 今度は虎郷だった。

「そもそも、『フューチャー・ライン』は、自分の得することに寄って行き、自分の不利益なところには、近づかないためにあるのさ。そういう自分勝手な能力なんだよ。でも君は、不利益なことに近づいていく。自分が危ないとわかっていながら、守ろうとする。だから、『フューチャーライン』は、『彼女は不利益なもの行く習性がある。なら、そちらに偏ればいい』という判断に変わって、『ファントム・ダーツ』に変わったのさ」

「待てよ、隼人」

 俺は隼人に疑問をぶつける。

「そういうのは、まぁわかったけど。じゃあどうして『ネーム』になるんだ?そういう存在、性格ってことで、『ミラー』になるんじゃないのか?」

 俺の質問に隼人は

「『こさと』だよ」

 と簡潔に答えた。

「どういう意味?」

 当の本人、虎郷が聞く。

「『こ【ざ】とへん』に火と水で『阦』と『阥』なんだけど、これは旧字体なのさ。これらは『陽』と『陰』という事。おそらく『陰陽師』だろう。『易者身の上知らず』ってことわざは有名だけど、実は、ほぼ同じ意味で『陰陽師身の上知らず』って諺もあるんだよ」

「あー悪ィ。その『易者身の上知らず』ってのを知らないんだけど………」

「『易者身の上知らず』というのは『占い師は他人のことは占う事が出来ても、案外自分の事は知らないものだ』という意味よ。話に水を差さないで、黙ってなさい」

 怖いなー。

 隼人と何処となく似ているような気がする。

 えーっと、つまり『虎郷』のというのは『こざとへん』のことを表していて、それに『火』と『水』が合わさる事で、『陰陽』の旧字体を現している。それが諺になっている。

 ってことで大体合っているな。よし。


「つまり『未来を見る私自身が、自分の事を良く分かっていない』ということ?」

「いやいや、まだまだ君の名前には、秘密が隠れているよ。ネームの中でも多いほうだね・・・・・・」


「『虎の尾を踏む』だよ。危険な事をわざわざ行う、危険を冒すということ。そして、『郷』という字。『三つの郷』の『六行』にもあるような性格が君には現れているようだ」


 当然、俺が不思議そうな顔をしていると

 隼人は

「後で自分で調べたまえ」

 とため息をした。

「つまり、君の能力である『ファントム・ダーツ』は、君の名前から起こったんだよ」

 隼人はそう言って締めくくった。

 かと思うと、「それにしても」と続けた。


「ここまで言いえて妙な、名前は珍しいよ。この能力を手に入れるために生まれたといっても過言ではない。さらに君は、悪い出来事に首を突っ込む習性がある」

「・・・・・・・・・・・・」

「さっきも言った通り、そもそも、『未来予知』は、自分の得することに寄って行き、自分の不利益なところには、近づかないためにあるんだよ。そのために、アクターの原型としての『サイコキネシス』も使うことが出来る。それなのに、君は首を突っ込んだ。結局のところ、君の責任なのさ。結局一人も助けられないのに、人を助けようと努力する。無意味な事をするもんだよ、全く・・・・・・」


 そして。


「自分の事も知らないで、勝手な事やるなよ」

 隼人は、冷たく言った。

 その発言にしばらく沈黙が流れたが、

「………つまらないから」

 虎郷はそう呟いた。

「何が?」

 ・・・・・・隼人は聞いた。

 


「変らない未来なんてつまらないから」



 彼女はもう一度。

 しかし強く。

 そう呟いた。

「こんな未来はあってはいけない。欲しくない。見たくない。だから私は何と言われようと、事件を止める。人を助ける。人が死ぬなんて………嫌だから」

 そう言って、身を翻して玄関に向かった。

「ありがとう。私の力もよく分かったし、私がどうするべきかも分かったわ」

 まぁ、あなたの言う通りにするつもりもないけど。

 虎郷はそう続けると、リビングの扉に手をかけた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ