11-偽物の事件-
さて、バラバラに行動するということは俺には虎郷や海馬の状況を話せなくなってしまうので、伝聞から、さも今のように語ることになってしまう事を了承していただきたい。
「・・・なるほど・・・」
虎郷は立てこもった男の前に立っていた。男は、部屋の扉を開けたままで女性を1人捕まえた状態で立っていた。女の首筋にナイフを突きつけて、意味深な笑いを浮かべている。
「予想通り、誰かが引き起こした事件のようね・・・」
おそらく、その誰かとは、今ココに来ている、御堂で間違いないだろう。その御堂が言った。
「おい、そこの立てこもり犯。ぶっ飛ばしてやるから、さっさと構えとけよ」
御堂は挑発するように言った。男は苛立った表情で睨んできた。しかし、虎郷には分かる。これが演技だということが。
「おい、コイツがどうなってもいいのか!」
お決まりのセリフを彼は吐いた。
「どうにもできねぇよ、てめぇは」
彼は走った。と、思った瞬間には
「か・・・はっ」
男の懐に拳が入った。スピードには定評があると自慢していただけはある速さだった。
そして、男の腕から女性を引っぺがす
「くそッ!」
その間に男は部屋を出る。警備員は残念ながら手も足も出なかった。
「逃がすかよ!」
御堂は走り出した。そう思ったときには、彼の背中に馬乗りになっていた。
「ど・・・どういうことだ!」
「警備員の人、早く!」
「話が違うぞ!」
この話を聴いていて、俺達のように「演技」だと分かっている者がいたら、事情はすぐに飲め込めるだろうが、少なくとも現状では虎郷だけだった。
「お前は警察行きだよ」
彼は言った。
「・・・・・・フッ」
男は笑った。タイミングとしてはおかしいだろうに。
と虎郷が思ったときにはすでに第2ラウンドは始まっていた。
「なッ!」
もう1人男が出てきて、御堂を後ろから羽交い絞めにした。
「な・・・何だ・・・コイツは!」
「御堂さん・・・いや、貴様ならそういう手でくると思っていたよ!」
困った状態になった。
「私が頑張らないといけないのかしらね・・・」
虎郷はそう言って、俯いて。
笑った。
カジノではヤクザとジャンが睨み合っていた。コイツラは・・・仲間だろうか?と、海馬は考えていたが、どうやらそんな感じだ。睨み方にアイコンタクトが含まれている。
3人のヤクザの内1人が言った。
「んだ、てめぇ・・・」
「王」
「っざけんな!」
短気な性格だとお見受けする。
「何をしているんですか?」
「別に・・・。ちょっとムカついたから、ぶん殴ってただけだ」
「迷惑です。やめていただけませんか?」
「はッ!やめさせてみろ!」
ボスと見られる1人を除く2人が、ジャンに突っかかった。
「待ってください」
その言葉に威厳は感じられなかったが、2人の男は止まる。打ち合わせの成果だな。
「あ?」
「ココはカジノです。カジノらしく勝負しましょう」
そう言って、彼はテーブルに座った。競技は「ポーカー」だ。
その勝負は割りと速攻でついた。ボスの男が戦ったのだが、5回のうち全てに彼は勝った。
「迷惑かけた分の賠償はしてくださいね?」
と、彼はぴしゃりと言い放った。
周囲からは拍手喝采が浴びせられる。彼は満更でもない顔をしている。
さて、海馬はここで考えた。これが演技であることは間違いない。だとすれば、今のは何処かに不可解な点があったはず。ならば、ここで彼を止めなければならない。どうしようかと。
そして海馬は言った。
「今、イカサマだな?」
「・・・・・・はい?」
怒りと動揺と驚きに満ちた表情でジャンが反応した。
さて、ようやく話しやすい自分のターンだ。
俺が玄関ホールに行ったのは、西条というあの男が気になったからだ。正義感に溢れた、あの男が。
「これは・・・爆弾?」
西条は言った。
「絶対に捕まえてみせる・・・」
周りの人に見せようとしているのではなく、本当に正義感故に思っているような表情だった。だが、しかし、俺には分かる。聞こえる。彼の本心が。
『上手くいった』
彼がそう思っていることが・・・。