09-王の戦い-
僕らは知らない間に、地獄に向かって歩を進めている。
それも「常に」である。どんな地獄を過ぎても目の前には常に地獄があるのだ。
本当は事件を解決するために尽力するべきなのだろうけど、俺達は現状理解に勤しまざるを得ないのだった。なぜなら、彼女の見た事件を訊こうとした時、ホールでは演奏が始まっていたからだ。そして俺達はそれに完全に引き込まれてしまい、自分の座っていた席(VIP席)から微動だに出来なくなってしまったのだった。
ピアノか・・・。懐かしい・・・。
そんな事を思いながら天(井)を仰ぎながら音を聴いていた。
「何か・・・夢に入ったような気分だな・・・」
「そうね・・・引き込まれていく感じ・・・」
「・・・俺は音楽には疎いと思ってたんだけど、撤回しねぇとな・・・」
誰がどれを言ったのかは考える必要はない。語り部という役を放棄したいくらいだ。
音がフェードアウトしていく。夢に入った気分もどんどん抜けていく・・・。なんだろう・・・。たったの10分くらいで中毒になってしまったようだ・・・。
「終わったな・・・」
「いや、これから始まんだよ」
「その通りよ。私達の目的は『Angel』なのだから」
そういえばそうだった。本当に語り部放棄状態だった。
会場から、数人の人間が消えていく。残った人にとっては今までのは余興だったという印象を受ける。周りの人間はさっきより目が爛々としている。
彼女のピアノのすばらしさが分からないのだろうか・・・。自らの目的なんざ忘れてしまってもおかしくはないのに・・・。あ、そうか。この周りの連中は、「参加者」の関係者か何かなのか・・・。
「さて、では『選挙』を始めます」
司会のような立場の人が言った。
「この選挙は、我等、音河財閥の後継者、音河響花の婚約者を選ぶ物です。決定権は現在の音河財閥社長の音河未来様です」
「なッ」
当の本人が決定するのではないのか・・・!?
「そんなことなら、私達が来なくても王城君が選ばれるでしょう?何のために私達が来たと思っているの?」
「そこまで俺に話してくれてなかっただろ!」
「まさか分かってねぇとは思わねぇだろうがよ」
・・・そうか・・・。俺は基準にはならないのだ。なることはないし、なれもしない。だが、虎郷が知っているのはどういうことだろう・・・。もしかしたら彼女も「そういう人間」なのだろうか。
「違うわよ」
「人の心を読むな」
「私はそういう物に詳しいだけ」
「そう・・・なのか」
そんな事を考えた後、俺は司会の方を見た。参加者の説明が始まっていた。司会の人は媚を売って異常に遠回りをしていたし、話が脱線していたような気がするし、何が言いたいのか分からなかったので、俺なりに要約してみた。
1人目:御堂 遥 17歳
彼は、最上級の人間というべきだろう。彼は運動の天才である。運動のプロの選手でも、彼に勝つのは至難の技であるそうだ。反射神経、動体視力、腕力、脚力。それらは最大ではない。だが、それらは全て最上級である。何かに特化しているのではなく、それらが一番ではないがそれにかなり近いものである。例え強くても、遅ければ意味がない。見えても対応できなければ意味がない。その欠点を、最上級の力でカバーしているのだ。悪い言い方になってしまうが、中途半端なおかげで最上級になれるのだ。
2人目:ジャン・リオン 21歳
どこかの国の貴族・・・王家の血を引いた男である。王子ということらしい。彼には、膨大、絶大、最強、最大の「財力」と「兵力」がある。その気になればこの国も簡単に破壊できると言っていたがそんなはずはない。いや、割とマジで。アメリカ黙ってないって。どこからどう見ても、自分を御曹司としてしか見ていない、愚かなお坊っちゃんと言う感じだ。
3人目:西条 翔15歳
さて、「運動」「財力と兵力」ときて、次は「正義感」だそうだ。いやいや待ってくださいよ正義感が何だっていうんですか力が無ければ意味はないでしょう、と思うけどその辺りはもう気にしない方向にしてみた。彼は、「西条」という自動車会社を経営している。年下なのにすごいなぁと思うが、反面、生意気だなと思ってしまう。
4人目:王城 隼人
彼に関しては説明は要らないだろうが、周りの皆から見て彼は「知能」の最強だけとしかみられてないようだが、彼の正義感は何だかんだでかなり高い。さらに、彼の脳ならば「御堂 遥」の運動神経にも勝る。また、王城の財力は半端じゃないし、人間1人が、戦車1台分の力を持っている・・・そうだ。実際、隼人の兵力は1人で自衛隊の5人を相手に出来るそうだ。
この4人が戦うそうだ。女と権力を手に入れるために。
テストって嫌だよね~。共感する人は全員友達!