03-俺たちというもの-
電車が爆発して、警察が直ぐにやってきた。
しかし俺達は、周りの人々が事件に驚いている間にさっさと逃げていた。
そして、中心街から離れて、三叉路に差し掛かったところで、
「ねぇ」
と、虎郷がようやく話しかけてきた。
「あなた、こういう力のこと知ってるんでしょ?」
「あぁー……。やっぱその話だよな…」
俺は頭をかいて、
「こういうのは、名前や存在意義、過去とかにかかわる、人間意識と自然摂理の共鳴が引き起こす、連鎖 反応による能力で、いくつかに分かれる…って」
そこで虎郷を見ると、不思議そうに首をかしげていた。
「あぁ……そうだよな。しゃぁねーや。ついてきてくれ」
「?」
「いいから」
「………」
俺が歩きはじめると、黙ってついてきた。
「15分くらいかかるんだけど、大丈夫か?」
「別に構わないわ」
とか何とか言いつつ、物凄く不快な顔している。
「しゃーねぇ」
俺は、電話を手にして、番号を入力する。
3コール程して、つながった。
「うぃーっす。なんだー」
「東先輩。早急に来てくれ」
3秒。
一台の黒塗りの車がやってきた。
「来たぜ」
「……!」
虎郷は驚いている。
まぁ、連絡して数秒で来るような人間が居たら驚くよな。
「この人も、俺達と同じような奴さ」
「さっさと乗れよ。隼人んとこだろ?」
「あぁ。さ、乗れよ」
「え……えぇ」
何と言うか、あなたには驚かされてばっかりね、と虎郷は続けて車に乗った。
「あんたも化物か?」
「………」
「ははっ。アンタは認めたくねぇ口かよ」
「その辺にしといてくれよ。デリケートな問題だろ」
俺は、東先輩をとめる。
「あいよ」
「そういや、昨日はWRにいなかったな」
「お前が来る前まではいたんだよ。っとついたぜ」
「………相変わらず早いな」
そう溜め息をついてから、
「降りてくれ」
と虎郷に言った。
「……あなた、さっきからなれなれしいわよ」
ジト目でそう言いながら降りる。俺も次いで降りる。
「助かったよ。東先輩」
「おう、これからもご贔屓に」
そういうと、爆走して去って行った。
俺の家は全体は白色になっていて、入口は1個だけ。しかし、これは過去に王城グループが作った、何人かが共同で住める家である。
まぁ、つまり家族で住むための家として想定されていたのだろう。
玄関のドアを開けて入り、リビングの扉を開けると
「やぁ、来たのか・・・・・・」
正面のソファーに、隼人は座っていた。首だけ後ろに向けてこちらを見ている。
「ああ、来客なのかい?」
そう言っている割に、机の上には俺と隼人と虎郷の3人分のカップが置かれていた。
「君が、例の彼女かい?」
「あぁ。虎郷 火水って名前だ」
「どうして、私の名前を……!!」
虎郷が目を丸くして、尋ねてきた。
「あ、いや。実は昨日、俺とお前ぶつかってんだよ。その時に聞いた」
「聞いた・・・・・・?」
虎郷がそう反応すると、
「彼の力さ」
と隼人が答えた。
「嘉島 奏明の能力さ。で、君はそういう「能力」を知りたいんだよな?」
見透かしたように、隼人は言った。
「……ええ」
「僕は王城 隼人。じゃ、こういう力について話そうか」
「僕らは、こういう力の事を、『アクター』と呼んでいる」
隼人は俺のときと同じように話を始めた。
「『アクター』ってのは、例えば、物体浮遊とか空間移動とかの超能力って呼ばれている物のことさ。元々は、もう一人の自分って意味で、『アバター』って言ってたんだけど、近代に異常が起こってね」
俺も聞いた事の無い話を隼人は思い出すような素振りも見せずに、つらつらと述べる。
「僕らの力に『電気使い』や『水使い』とかの現象っていう名の能力。そして、『レーザ』や『無限銃』とかの兵器っていう能力が生まれた。これらは、もう一人の自分には程遠い。だから僕らはこれを、『アクター』自分を演じているもう一人、という事にしたのさ」
「……」
「あぁ、もちろん便宜上だし・・・・・それに、これらの能力が生まれたのはごく最近1945年以降・・・・・・つまり戦争後だね。」
言った後、ペンと紙を取り出して続ける。
「組織図でいうと、
/スーパーナチュラル(超能力)
アクター ―― フェノメノン(現象)
\ウェポン(兵器)
こんな感じなんだけど、こいつらの能力が起きる理由もあるんだよ」
「起きる理由?」
「お、いい反応だね。こちらとしても話しやすいよ」
隼人はそこで、一旦話を切るようにした。
隼人の交渉術に近い、話術のようなもの。
それの1つだ。
「これらが起きる理由として、現在分かっていることは、名前から生じる『ネーム』、存在・過去から生じる『ミラー』、突発的に生じる『アウトブレイク』って言うのが主流かな」
そう言って隼人は持っていたペンをゴミ箱に投げ捨てた。ゴミ箱のふちに当って、悲しい音を立てるが、気にせず隼人は続ける。
「名前から生じるってのは、もしも『天変地異』なんて名前の人がいたらそいつの能力は『自然災害』になるだろう。存在や過去ってのは、まあ生まれてきた時に持っていたり、生きていた過程によってきまったりするのさ。まぁ、ソウメイ君みたいなパターンだよ。突発的ってのは、本当に、そういう能力を心の底から願ったら、出てくる能力さ。今すぐ消えたいって思ったら『透明人間』とかね」
「ちょっと待って」
虎郷は話の流れに、首を突っ込んできた。
「そんな事が起きたら、この世の中のほとんどの人が能力者…『アクター』ってことになるわよ」
虎郷がようやく質問らしい質問をする。それに、隼人は
「うん。そうだよ」
と答える。そして
「普通ならね」
と続けた。
「この世の中はそう簡単には廻らない。能力者は、この地球において、そんなに多くはないんだよ。能力ってのは、できるだけ強い願いを持ったものしか居ないからね。でも、マンガから看過された日本人にはかなり多いのさ。だから、こうやって、この現場に既に3人もいるんだよ。結局、見えないところに何でもあって、見えなきゃそれはそれで解決する。嘘つきだったり、マジシャンだったり・・・・・・。そういう職業の中にだって隠れているかもしれない。」
と笑いながら答えた。
「そんな風にこの世界は丸く収まってんのさ」
隼人はそう締めくくった。
俺は虎郷の顔を見る。
納得しているように・・・・・・は、見えない。
「・・・・・・確かに、この能力とかのことも分かったし、自分の存在も理解した。でも」
虎郷は顔を上げて、
「では、あなたたちは『何』?」
と、睨んで聞いてきた。
『何』
そんな風に彼女の言ったことを心で反復した。
「僕らは何でもないよ」
隼人は虎郷の質問にそう答えると、そのまま続ける。
「能力の意味も意義も摂理も知らないくせに、その能力を自慢する奴らや、知っても暴れている馬鹿共でもないし、自殺してしまうような人々でもない」
実際そういう奴らも見てきたのだろう、言葉に力がこもっている。
「単純に、生まれたり願ったりした事で人生を直してもらった・・・・・・その代償として、アクターとして演じ続けている。それ以外の点では普通の人間と一緒だと思うよ?」
そう続けた。そして今度は、
「で、君は一体何なのかな?」
と、虎郷に質問した。
虎郷は、特に動揺する様子もなく
「私には『未来予知』がある」
と答えた。
「人や物が壊れるような事件・事故が起こる場所に近づくと、そこで起こる事件・事故を予測できる。………というよりは、見えるって感じかしらね。最近は遠くの事件も予測でき始めたけれど」
それだけ。
と、虎郷は続けて隼人を見た。
その隼人は、上の電灯を見ている。いつもの癖だ。このときは、考えているということ。
そして5分程して
「『フューチャー・ライン』」
重々しく、隼人は言った。