16-飛び降りる-
「ソウメイ君。ヒスイ君。思ったより早かったね。床を壊していたのは君達だったか」
階段を上って早々、彼は見透かしたようにそう言った。
10階には1つしか部屋の扉が無かった。
「ここが彼の部屋だ」
その扉のドアノブに手をかける。
「待て!」
俺は走ってその手を止める(虎郷の手を無意識に掴んで、つれてきてしまった。後で謝罪しよう)。
「中に警備員が待ち構えていたらどうするんだ?」
「・・・・・・あぁ。そうか」
コイツは本当に何も考えていないんだな・・・・・・。それをサポートするのが俺の役目と言うことか。まぁ、いいや。その役は俺が夏休みに買って出たんだから。
「・・・・・・」
俺はドアノブに手をかけた。というか、乗せただけである。最近入った人数は・・・・・・3人か・・・。
「内装分かるか?」
「僕らが食事したのと同じくらい長いテーブルがある。そして、そこの部屋の西側に部屋があって、それは、彼の寝室と学習室をかねている」
つまり、彼は家族と食事を共にせず、この長いテーブルで1人で食べている・・・いや、あの優しそうなおじいさん・・・虎兵衛さんだったか・・・と食べていると言う事なのだろう。
「で、結局のところどうなのかしら?」
「中には3人。つまり、3人の警備員がいるだろうことが分かる。最初の部屋に1人、海馬の部屋の扉の前に1人、海馬の寝室に1人だ。だから・・・・・・隼人任せた」
「了解」
隼人は、思案を始めた。それも、ほんの3秒程度だった。
「君の左手で、牽制を入れて、相手の注意をひきつける。その後、虎郷君のスピードで1人潰す。それを狙ってきたもう1人の警棒を僕がはじくから、その間に嘉島君が残り1人を排除してくれ。その後は全員で好きなようにやろう」
「了解した」
「了承したわ」
俺は、扉に手を触れた。イメージは槍のような物・・・扉ごと全て作り変えて、向こうに突き刺そう。イメージは完璧。後は、速攻でやること。
「5、4、3、2、1」
俺は扉全てを槍へと変形させながら飛ばした。
「!」
警備員が警棒を構えようとしたのが見えた。が、ほぼ同時に、虎郷が蹴り飛ばした。そして、隼人の予想通りもう1人が虎郷を狙う。が、その警棒は隼人の足によって蹴り上げられて、宙を舞う。その隼人の頭を飛び越して、嘉島パンチ!という感じで。
「完了か・・・」
が、隣の部屋からもう1人が出てくる。
「!!緊急連絡!至急応援頼む!」
トランシーバーで連絡した。
「何でこんなに警備が固いんだろうな?」
「庭を破壊した挙句に、海馬君に怪我を負わせたからだろう?」
「・・・あぁ・・・・・・そうか」
という間に、虎郷が警備員をトランシーバーごと粉砕した。
「大丈夫かい?救援が来るようだけれど・・・・・・」
「壁を作っておいた。バズーカー砲2発分くらいの耐久力はあるだろう」
と言いながら、俺は海馬の部屋の扉に手をかけた。
「・・・・・・よお。嘉島」
「率直だが海馬。一緒に来ないか?」
「・・・・・・全く話が読めないな」
まぁ、だろうと思った。というわけで、俺たちの関係性を話した。つまり、俺たちは利用しあっているという事を。
「・・・・・・なるほど。しかし、俺たちにはお前らを利用する目的がないぞ」
「だから、俺たちはお前が必要だから・・・・・・少なくとも俺には必要だからな」
「・・・・・・・・・」
ドォォォォォオン!!
「海馬、もしかしてバズーカとか家にあるのか?」
「あぁ。地下の武器庫にある」
武器庫って・・・・・・。
「逃げよう!」
「ああ」
「ええ」
隼人と虎郷が窓に手をかけて、飛び降りた。
「・・・・・・!!おい!」
海馬が叫んで下を見た。と同時に2人は上に上がってきた。
「ひ・・・・・・飛行機!?」
海馬が叫んだ。飛行機に縄がついていた。そこに、2人は捕まっている。
「・・・・・・早くしたまえ、嘉島君」
俺は窓に手をかけた。
「・・・・・・」
俺は、そのまま海馬に顔を向けた。
「一緒に来い。海馬」
と言ったと同時に、警備員数人と、虎兵衛さんがやってきた。
「爺や・・・」
「・・・・・・行くのですか?」
虎兵衛さんが訊いた。
「・・・・・・・・・」
「あなたの好きになさってください」
虎兵衛さんが続ける。
「海馬。来い」
「・・・・・・俺はどうやってココから出ればいいか分からないんだ」
海馬は呟いた。
「ココを出て行くと、何もかもが俺から消えていくような気がするんだ」
「・・・・・・・・・・・・」
母親・・・家庭か・・・。
「どうすれば、俺はココを出て行けるのだろうな?」
「簡単だ」
俺は手を差し伸べる。
「ほら、ここを飛び降りるだけ」
「・・・・・・・・・」
海馬は足をかけて、
「行ってらっしゃいませ」
「行ってきます。あの人たちにもよろしく言っといてくれ」
海馬は飛び降りて、縄に捕まった。
手滑ったら死ぬな。
いや、運良く下にトランポリンでもあるかな?まぁ、結局生きるだろう。