57-経験則の科学-
「助ける? 俺を? 何からだ?」
「貴方自身を縛っている物からですよ」
「何だと?」
「王としての執着」
そう言って隼人は笑った。
「さっきまで僕が持っていて、そして捨てたものです」
「貴様、そんな意志で俺に勝てるというのか」
一条字は睨む。
「正直俺と貴様は同等だと思っていた。貴様は王としての存在に固執していたからだ。相手より上に立とうとする意志は何よりも強い。最強になろうとする意志だからな」
「……」
「それが無くなってしまった以上……貴様が俺に勝てる道理はない」
またも圧力が強くなる。
しかし隼人は動揺せず、
「そうですね。僕は貴方には勝てません。なぜなら、貴方には『ヒート・アップ』があるから」
「……」
「『ヒート・アップ』あなた方で言うなら、『経験則の科学』ですね」
「口を慎め。分かっているのならば説明する必要もない」
「ですね。だとすれば、分かっているでしょう? 僕が今からどうするか」
「ああ。俺に勝てる方法があるとすれば、それしかない。もっとも勝てたとしても『今回だけ』だがな」
「一度の勝利を振りかざして最強を名乗るつもりはありません」
隼人は構えた。
圧力はほとんどない。いつもの威圧感が0と言っても過言ではなかった。
「その程度で勝てるわけがないだろう」
一条字はもう一度そう言ってから体を低く構えた。
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王。
それが俺に与えられた使命だ。
絶対者。負けることは許されていない。俺の負けは俺の持つ全ての崩壊を意味する。
同じ王である以上こいつに負けるわけにはいかなかったが、王でなくなった以上、こいつに勝たなければならなくなった。
だからやるならば、一撃必殺。なぜなら向こうもそれを狙ってくるはずだから。
カウンター、或いは俺から突っ込むという方法もあるが、威圧感のなくなったアイツに勝てる手法なんてあるわけがない。
「行きます」
王城隼人は言う。
俺はカウンターとしての態勢で準備した。
王城隼人はまだこちらには来ない。仁王立ちで構えている。その姿に妙な感覚を覚える。
威圧感なんて何にもない。しかし『嫌な予感』がするのだ。
何かが来る。何かがおかしい。何もないところから何かが来るような気がする。
『無』
「!?」
気が付くと王城は目の前に居た。
先ほどまでとは比べ物にならない威圧感を持って。
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ドォン、と。
一条字は隼人の拳を腹部に喰らって、地面に倒れた。
微動だにすらせず、その攻撃を受け止めた。そして動かなくなった。
「な……何が起きたんだ」
隼人が何をしたのか分からない。
なぜなら隼人は、その場から走って一条字の目の前まで行き、殴っただけなのだから。
そんな俺に隼人はこちらを見て笑った。
そして、後ろに向かって倒れた。
「隼人!?」
隼人の方に走る。何だ、何かの能力でも使われたのか!?
そんなことを必死に思った俺とは対照に隼人は
「勝った……」
と喜んでいるのだった。