52-宮殿-
「貴様らが来たということは、俺の駒は全て倒されたようだな。残っているのはキングのみということか……」
一条字先輩は言ってから自嘲するように笑った。
いや――だから、何でアンタは俺たちが見えてるんだ。
「この空間もそろそろ疲れたところだ。そもそも意味をなしていないことぐらい分かっているのだろう、王城隼人……」
「くっ……」
「この白い空間の外では恐らく建物も破損しているだろうし、お前のダメージを食らわないだとか言うのも、意味はなかったということになる」
「……」
「そろそろ宴会はお開きにしろ」
「……この空間にいる限り、貴方はまだまだ支配されたままだ。だから、他の皆の居場所も分からないはずだ」
「確かにそうだ」
「ならば開かない」
「……じゃあ貴様を食らうしかないようだな」
2人は淡々と会話を済ませる。
そして、同時に動き始めた。
隼人が右足を振るって一条字先輩の頭部を狙う。
一条字先輩はしゃがんで避けると、両足で跳躍して隼人の顔面に頭突きをかます。
「ぐ……」
さらに一条字先輩はその跳躍した状態から一回転して、両足を隼人の肩にひっかけた。隼人は腕を固定されて動けなくなる。
一条字先輩はそのまま、前に向かって重心を傾けると、隼人諸共前に向かって(隼人からすると後ろに向かって)、倒れる。しかし、一条字先輩は着地の瞬間に両手をついて跳ぶことで衝撃を避ける。隼人はそのまま背部を強打する。
「がは……」
隼人はダメージを回避できていない。
「野生の動きだ……」
「どうする、嘉島。参入するか?」
「やめた方がいいでしょうね。こっちの攻撃は何の意味もなさないし、2人の間に割って入っても、私たちの体をすり抜けるという気持ちの悪い状況になるわよ」
「だな……」
しかし、だとすれば……。
「勝てないでしょう。恐らく」
と、後ろから男の声がした。
「……何で……!?」
「何でって……あんなプラカードで本当に私が止まるとお思いだったのですか?」
楊瀬さんはそう言って笑った。
「く……」
海馬は構えた。
「ああ、別に戦うわけではありません――というか戦ってはいけないそうです。『一度気絶したことは死を意味している。敗者は戦ってはならなりません。ルールです』と、乱様にそう言われてしまいました。最後にはちゃんと元のキャラを取り戻していらっしゃいましたね」
楊瀬さんは笑った。
そして、
「それと、籠目様と華壱様は目覚めず仕舞いです。私だけで皆さまを相手するのは少々骨が折れますから」
と続けた。
勝てる気でいるらしい。
「で、無理ってのっはどういう意味だ」
海馬は言った。
「一条字様の能力はライオン以外にもう1つあります。その能力は――」
「おいおい、楊瀬。王が見ていないとでも思ったのか」
と、一条字先輩は笑う。
「勝手に俺のことを話すな。貴様、負けたのだから何もしないのが普通ではないのか」
「……申し訳ありませんでした」
「貴様のことだから謝罪しているのだろうとは思うが、直感でしか貴様が何をしているのかは分からない。やはり不便だ」
そう言って一条字先輩は一度髪の毛を撫でてから――
「Woooooo!!」
2足歩行のライオンに変わった。
動物に代わると皆、2足歩行らしい。
「WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
さらに一条字先輩は咆哮した。
聞こえた。
ピシ、ピシ、と何かがきしむような音が。
「oooooooooooooooooooooooooaaaaaaaaaaaaaaaaaAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
叫ぶ。
叫び続ける。
そして最後には、パリン!という音で、まるでガラス細工が崩れていくような音がしていた。
「……思ったより簡単に破壊できたぞ、この宮殿は」