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丸く収まったこの世界  作者: 榊屋
第七章 戦う未来とこの世界
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48-宮殿-


「何だ……??」

 俺は落下してきた対象物に目を向けた。

「あっぶね……」

「大丈夫でしょうか?咄嗟に『嘘』を吐きましたが」

「なるほど、落下しても死なないって嘘ついたのか」

「性格には、『男は落下してもダメージを受けない』です。乱さんはダメージを受けているでしょう」

「らしいな。俺の足元で動きすらしない。……息はしているようだけど」

「良かったです。一度に一気に嘘はつけないもので」

「知ってるさ」

 淡々と目の前で二人の男、海馬と楊瀬さんが会話を済ませた。

「……さて、どういう状況だろうな」

 海馬がそう言う。そして、楊瀬が後を追って状況を見る。

 視線を俺たち3人に向ける。それから後方に倒れている蛇を見る。

 静寂が3秒。

 そして3秒たった瞬間。

「うらぁ!!」

 海馬は左手を楊瀬さんに向かって振りかぶる。楊瀬さんも同時に海馬に足を振るっていた。

 攻撃同士が衝突し、2人はバランスを崩して、後ろに下がる。

「4対2だぜ!こっちに勝機ありだな!」

「態勢を立て直します。華壱様!」

 楊瀬さんは走って華壱の真横に立った。

 うむ、この2人は状況の理解が早い。

「逃げられるぞ!!」

「させっかよ!」

 そう言って、楊瀬さんに掴みかかろうとする。

「私の止め方が違います。残念でしたね」

 そう言って楊瀬さんは華壱の体をつかんで、そのまま消えていった。

「チッ……思わず忘れてたぜ。止め方」

 楊瀬さんを止めるには、『お前はそこにいる』と叫ぶことだ。そうすれば楊瀬さんは嘘を見破られたことになり、消えることはできなくなる。

「さっさと見つけ出して倒さないとな……」

「あの2人は脱落ってことでいいのでしょうか?」

 雅が中庭の蛇と乱を指した。

「多分な。ダメでも知るか。さっさとアイツらぶっ飛ばすぞ」

 海馬はそう言って走り出した。

「闇雲に探してもまた逃げられるだけじゃないのか?」

「任せろ、運に」

「……了解」

 海馬の後を俺たち3人は追うようにして走る。


 10分後。


「見ーつけた」

 と、海馬は悪役のようににやりと笑った。

「おやおや、案外早かったですね」

 そう言って楊瀬さんは笑う。華壱も落ち着きを取り戻したようだ。

 俺は到底落ち着いていられないが。

 体育館の前に立っている俺たちは、そこから体育館の緑色の屋根を見上げていた。

「俺たちはあそこに行かなきゃなんないのか?」

「じゃないと逃げられるからな」

「……」

 あんなのどうやって昇ればいいんだよ……。

「先に行くわよ」

 そう言って虎郷は飛び跳ねて、屋根に飛びついた。

「急ぎましょう」

 雅もスパイラルを使うようだ。

「雅、蹴り飛ばせ」

 そう言って海馬が前に立った。

「了解です」

 雅はスパイラルで海馬を上へ吹き飛ばした。

「着地は運が良ければ何とかなるでしょう。では」

 雅もスパイラルで飛び上がって言った。っておい。

 ……俺はどうしろと?

「左手で床変形でリフトでも作るか?」

 と、そこで考えを変える。

 こんな戦いをしてただで済むはずがない。校舎やいろんなものがボロボロになることは大前提として考えられているはずだ。

 ……うん。

 まあ、なんとかできるはず。



 すぐさま楊瀬さんと華壱は突っ込んできた。

「ッとぉ!」

 海馬は後方に飛んで距離を作ろうとするが、

「ッ!!」

 足場が悪く、危うく転びそうになる。

 そしてその隙を華壱は見逃さなかった。蹴りを海馬の顔面に向かって伸ばす。

「ダーメッ」

 まるで恋人にでも言うような言い方で虎郷は華壱の顔面を手のひらでつかんで、地面に叩きつける。

「チッ!!」

 ダメージは浅かったようで、華壱はすぐに体制を整え直す。しかし虎郷は追い打ちをかけようと、蹴りを構えていた。

「女性はお淑やかにしましょうか」

 楊瀬さんはその虎郷の足を静かに受け止めた。

「モテませんよ」

「余計なお世話よ」

「嘉島様に嫌われてしまいますよ」

「!!」

 虎郷はひどく反応して、狙いを楊瀬さんに切り替えた。

「おやおや、冗談のつもりでしたが……これは申し訳ないことをしました」

「……」

 強く楊瀬さんをにらむ。楊瀬さんは汗をにじませながら目を反らした。


「うぉぉぉおおおおおおおお!!」

 と叫び声が上がる。っていうか上げる、

 まあ、俺なんだけど。

 俺は左手で地面を盛り上げて、体育館より高い位置に立って、そこから飛び降りた。

「何やってんだ、嘉島?」

「おおおおおおおおお!!」

「……まずいわ!降りるわよ!」

 そう言って虎郷は海馬と雅をつかんで、体育館を飛び下りた。ナイス判断。

 楊瀬さんと華壱は不思議そうな顔をして見上げていた。

「名づけて、『ナックルブレイク』!!」

 どっかで聞いたことのありそうな必殺技を叫んで俺は左手を構えた。


 この選挙を行うには学校自体に支障が多すぎる。損壊箇所が増加する以外考えられないのだ。しかしそれでもこれを行うということは、それだけのものを――つまり新しく校舎などを作れるくらいの資金があるのだろう。

 どこからとかどうやってとかは考える必要はない。俺は一心不乱にこの戦いに注げばいい。


 まあつまり。


 『この体育館をぶっ壊す』ってことなんだけど。


 俺の左手が体育館に思い切りぶち当たる。

 そして遅れてそこを起点にひびが入った。

 最後に楊瀬さんと華壱の驚愕と諦めの表情を見て、勝利を確信しながら俺は気を失った。


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