47-宮殿-
「で、どういう状況だ?」
俺は虎郷に問いかける。
「……貴方どうして上から、いや、それより……」
虎郷はどうも質問すべき内容を考えているようなので、俺は取り敢えずこの状況を確認することにした。
目の前にいるのは虎郷、そしてその少し右辺りに雅が居た。そしてそこから少し離れた位置に、一匹の猿……この間運動場に居た猿を見た。つまり、あれは華壱ってことだろう。
しかしだとするならばここには籠目さんが居て然るべき状況のような気がする。
「貴方、状況分かってる?」
と、なんと虎郷に確認されてしまった。
「いや、分からないから聞いたんだぜ?」
「でしょうね……」
彼女は一つ一つを確認するようにつぶやく。
「今、嘉島君が乗っているのはなんでしょうか」
と虎郷はまるでクイズの出題者のように言った。
俺は静かに下を見た。
網目の様な模様がついており、色は白と銀の中間、と言った感じだろうか。大きく開かれた窓の中に白い世界がありました、みたいなものがついており、咲き掛けのつぼみのように少し開かれていた。
「ってか」
俺はそれが何かを瞬時で理解して叫んだ。
「蛇ィ!?てことは籠目さんじゃん!!」
あの時、運動場で見かけたときはこんな大蛇じゃなかった。なんだこれ。伝説の化物じゃないか。
「んで……ああ、なるほど。さっきの揺れはこれが……そんで雄叫びは俺の左手が……」
見ると大蛇の頭部は少しやけどしたような跡がついていた。
「で、……なるほど」
状況は恐らく把握できた。だから俺は華壱に視線を変えた。
「1対3になっちまったぜ……どうするよ?」
「どうしてあなたが言うのかしら。少しむかつくわね」
短気な女性だ……全く。
「チッ……」
華壱は測定しているようだが、どうも測定不能という状況らしかった。眉間にしわを寄せて、何か可能性を探っているようだ。
「!!」
と、そこで華壱が希望を見出したように空を見上げた。
そして、遅れて、ドンドンドンと、3つの音がした。
どういう状況かは分からないが、嘉島の姿が見当たらなかった。
「落ちてしまいましたね」
「チッ……邪魔ばかりするな!」
と、なんと目の前では乱と楊瀬さんの攻防が行われていた。そして話から察するに何らかの形で嘉島は落下してしまったらしい。
大丈夫かよ、おい。そしてこいつらも。
「おい、お前ら何やってんだよ!」
「海馬様ではありませんか。なるほど、貴方もここに来ようとしていたのですね」
「邪魔者が増えたな……殺戮対象だぞ」
そう言って乱は拳銃を海馬に向けた。
「うぉわ!!」
海馬はしゃがみこんで、教卓の後ろに隠れた。
銃弾は先ほど海馬のいた位置の壁に突き刺さっている。
「てめぇ、何しやがる!」
そう言って乱を見る。
乱の目は暗くとも恍惚とした眼差しだった。人を殺すことを心の底から楽しんでいる。
「……コイツはヤバい……な!」
海馬はそう言って、すぐに教卓から飛び出して乱に突っ込んだ。
乱は銃を下して刀に切り替えてくる。しかし海馬は止まろうとしない。
乱が構えた刀を振ろうとして腕に力を込めた瞬間、その刀を楊瀬さんが足で抑え込んだ。
「残念でしたね」
「邪魔だ」
そう言って乱は左手の銃をその態勢から無理やり楊瀬さんに向けてから、引き金を引いた。
だが今度はその瞬間に海馬の右腕が首にラリアットのようにめり込んだ。
「ぐ……」
乱は窓際に倒れた。
「てめぇ、いい加減にしろよ!」
そう言って海馬が乱の体をもちげるようにしてつかんだ瞬間。
その勢いを逆利用して乱は背負い投げで海馬を飛ばした。
「って!」
窓枠に向かって自分が吹っ飛んでいくのが分かった。
海馬は必死に手を伸ばして、乱を掴んだ。
「え、ちょ」
乱も何も言えずにそのまま海馬に引っ張られてしまう。
「楊瀬!」
「え、あ」
楊瀬さんも何も考えずにその乱さんを掴むが、虚しくも意味をなさなかった。
俺たちは3人そろって落下の一途をたどった。