42-宮殿-
今回は全員の場面を行ったり来たりするので、
時系列等々にお気を付け下さい。
走り出した。
しかもそれぞれ同じ方向に向かって。
「楊瀬、貴様もか」
「なるほど、方向性は同じというわけですね」
「ああ、お前と戦っても埒が明かない。同士討ちがいいところだろう」
「前回と同様の結果でしょう。しかも何も周囲にありませんから」
「だな」
「ではでは、私はお先に」
と楊瀬さんは姿を消した。
「チッ……」
海馬は舌打ちをして、それから走り出す。
心配なのは……雅よりは嘉島か。
海馬は足を校舎内に向けた。
「今回はチーム戦だ。オイラものんびりするわけにはいかないね」
そう言って華壱はすぐに走った。
雅との間合いを一気に詰める。
「私もそれは同じです!」
雅はカウンターするように右足を横なぎに振る。
「ヒャッハ-!」
華壱は地面に両手をついて飛び上がり、その攻撃を避けつつ雅の肩に両足をひっかけ、さらにそのまま足を脇の下にする。雅の両腕が拘束される。
「!?」
「女性としてはあまりいい状態じゃないだろうから!」
そう言って、華壱は上半身をねじることで、自らの体を倒す。と同時に雅の体も倒れた。当の本人である華壱は地面に手をついて、ダメージを回避する。
「く……!? まるで猿ですね」
「んあ? んだよ、知ってんのかよ」
と、華壱は言った。
そして、どういう動きかも見えないが華壱はその態勢から飛び上がると、一本の楓の木に捕まった。
「オイラは猿だ。測定という脳を持った猿なのさ」
「……どういう意味ですか?」
「ん? あれ、知らなかったのかよ!? どっちなのさ!?」
一人で騒ぎ出す華壱。
仕方ねぇなぁ、と独り言のようにつぶやいた華壱は、その楓の木の長い枝を折って、降り立った。
「『測定器』だけが能力じゃない……楊瀬さんと一緒でね!」
そしてその棒を持って1回転する。
その後こっちを振り向いた瞬間、華壱の姿は変わっていた。
顔はほとんど変化がないが、髪の毛や手から『獣の毛』が出ていた。
「猿だぜ、オイラは」
その木の棒を持ったその猿の姿はまるで『孫悟空』のようにも見えた。
「……まずい予感です」
雅は苦笑いした。
「!?」
気づいたら後ろを取られていた。
そんな印象だった。
「な……」
「虎郷。私の能力を忘れたわけではないだろう?」
そう言って籠目さんが後ろから声をかける。
「く……!?」
虎郷は後ろを振り向く。
「かごめ、かごめ、かごのなかのとりは、いつ、いつ、であう」
そこに姿はなく、さらにまた後ろから聞こえる。
常に相手の後ろを取る能力。
例え相手の場所が見えていても、全く対応ができない。
相手の動き……未来が見えていてもそれは同じ。全く対応できないのだ。
「早く勝敗を決めてやる」
そう言って籠目さんは後ろから虎郷を蹴り飛ばす。
「く……」
無理ね。
方向は関係なく後ろに何かすれば当たるであろう海馬君や回転で全方向に攻撃する雅ちゃんや響花。王城君や嘉島君のようにどんな逆境にもやる気や根気でのみ対応できる最強の者であれば対応できるかもしれないけれど。
そう思った虎郷は冷静に判断した。
「な!?」
籠目さんも対応はできない。
後ろと言っても距離感は関係ない。後ろであれば。
虎郷は選んだのだ。
相手に背を向けて走ることを。
「今の状況から考えて……」
合流すべきは雅ちゃんね。
原理は分からないけれど、振り向いた瞬間私の後ろに現れる可能性がある以上、何もするわけにはいかない。
そう考えた虎郷は迷わず走り出した。