02-冥福-
次の日は金曜日だった。通っている学校は「榛谷第2中学校」。特に進学校ってわけでもないので、土曜日は学校は無い。
昨日の夜、11時56分に家に入った。門限には間に合ったので、あいつに鍵を閉められることは無かったが、既に寝ていたため昨夜の話はできなかった。
とか何とか言いながら、既に半分くらい昨日の話は忘れていた俺であった。
学校の始業の時間は8時40分。今の時間は6時22分。こんな早い時間に来たのは、やはり、あいつのせいだ。
「6時30分に図書室に来たまえ」
・・・・・・面倒だ。
そう思ったつもりだが、呟いていたかもしれなかった。まぁ、そんなことはどうだっていい。
朝練に励んでいる、野球部とサッカー部の横を通り過ぎる。そして校内に入る。靴箱のところに、
クラスメイトの一人が立っていた。青色の髪の毛と、首につけている、手錠で作られたペンダントが目立つ。
海馬・・・・・・・・正だっけか?
もう9月だというのに、まだクラスメイトの名前をはっきりと覚えていないが、これに関しては、正解だろう。
「よぉ、海馬」
「ん・・・」
海馬は眠そうな顔をしている。相変わらずクールだ。
「あぁ、嘉島か。おはようだな」
そういって、ニヒルに笑ってから歩き始めた。
いつもは社交的なのに、1人で居る時はクールな表情を見せている。
うーん・・・・・・絡み辛い。
そう思いながら、3階の教室(数人の女子と、机に突っ伏した海馬がいる)に荷物を置く。そして、渡り廊下を越えて、図書室に入る。中には目立つ一人の少年以外いなかった。
「6時31分」
そいつは、眼鏡に金髪という、奇抜な男だった。金髪は地毛だから、何ら問題は無い(そもそも髪を染める事にも、別に問題は無い)。その金髪は、朝整えていないのか、寝癖がそのままのようなぼさぼさの 髪を形成している。
王城隼人様(www)だ。
「いつも通りの1分遅れかい?適当な男だね」
机の上に立ち歩く。そして、俺の正面に立つと、俺の頭をつかんだ。
「相変わらず人を見下すんだな、隼人」
そういいながら、頭に置かれた手をはじく。
「ソウメイってのもやめろよ」
「君がそういう限り、やめないさ」
ひねくれ者め。
「で、何のようですか?隼人様」
「おいおい、怒ったのかい?悪かったね。謝るよ」
「単調にリズムよく、その馬鹿は言った」
「・・・・・・・・・」
ドライアイスのような眼をして、隼人はにらんできたが、そんな攻撃は俺には通用しない。
「で、何の用だ?」
「君の話を聞かせてもらえるか?」
「拒否権を発動」
「・・・・・・君のことは良く分からないけれど、協力したくないって言うのかい?」
「悪ぃな。これに関しては少し思うところがあってな」
俺がそういうと、隼人はそのぼさぼさの髪をかきむしり、ずれた眼鏡を上げて
「そうかい。そこまで言うなら、初動は君に任せるよ」
と、机を飛び降りて、扉へと歩いていった。
「隼人」
俺は隼人を呼び止めた。
「なんだい?」
「でも、多分・・・・・・力を借りる」
「・・・・・・そうかい」
そして、後ろ手で扉を閉めた。
結局俺は、始業のチャイムが鳴るまで、考え続けていた。
俺は何をすべきか。彼女のために。
授業が終わった後、誰よりも早く学校を出た。
家に荷物を置いて、制服から私服に着替える。まあ、俺の服のセンスはどう突き詰めても、ジーンズとパーカーなわけなのだが。
昨日、彼女………虎郷 火水と出会ったのは、中心街のほぼ南にあるところだった。
踏切は今は上がっている。とりあえず、このあたりで待ってみる事にした。
何かが起こるのを。
近くにあったベンチに腰を下ろす。
「今が15時50分くらいだから、昨日と同じ時間まで待ってみるか」
特に誰に言うでもなく、ふざけた調子で言った。
出来るだけ前向きな気持ちで、持ってきておいたお茶とポテチを食べ始める。
21時31分
「………あ」
寝ていたようだ。物は何も取られていない(というか取られるものはない)。
というか。
「…なんか騒がしいな」
向こう……東側にある、電車の駅で、何か騒ぎが起きている。
「……………あんまり人が多いとこには行きたくねェけど」
俺はその方向に向かって歩き出した。
「何かあったんですか?」
近くにいた、女性に聞いてみる。
「あの娘よ」
「?」
駅の前で少女が何人かの男女と言い争っている。
「この電車に乗るのはやめなさい。一本後にするの」
少女の言葉に男が反応する。
「はぁ?何で!」
それを質問と受け止めたのか、少女は
「死ぬわよ」
と即答した。しかし
「いいから行こうよ。どうでもいいわよ、こんな奴」
一人の女が、言葉を無視して通る。
「待ちなさい。死にたいの?」
「あんた……頭、おかしいよ」
女はそう付け加えると、きゃはきゃはと笑った。
「待ちなさ―――」
俺はその少女の手を取った。
「………何よ。貴方」
その声が届く前に、別の思いが俺に届く。
「……………!!電車が…!?」
「!!」
少女は、俺の手を振り切り、踏切の方に走る。
「くっそ……。お前ら、死にたくなかったら電車に乗るな!」
そして少女………虎郷 火水を追いかけた。
振りかえると、先程の塊は2、3人になっていた。
しかし、今はそれを気にしている場合じゃない。虎郷を追いかけなければ。
踏切の近くに彼女は立っていた。
「今すぐ、この踏切から離れなさい」
「あぁ?なんだよ……」
その辺にいた、男女をまた説得している。
あぁ……また、同じような事を……。
彼女の横に行って、
「いいから、さっさと離れろよ」
と俺も加勢した。
「あぁ?お前もかよ…。なんだ?喧嘩売ってんのか?」
男は手を伸ばす。
俺はその手を取って、
「谷村 京平:高校三年生 誕生日:3月22日 学校名:鹿原高校 趣味:後輩いびり」
その男の個人情報を呟く。
「……まだバラされたいか?」
俺の問いかけに、男は引きつった表情をうかべて、背を向けて逃げた。同時に、他の男女も逃げて行く。
「こんなところか」
「……あなた…一体?」
虎郷の言葉には耳を傾けない。
「あんた、物体浮遊使えんだろ?」
「・・・・・・」
「アイツが言ってた。未来予知とかの能力の根源を持っているものは、思念が使えるって」
「・・・・・・やってみる」
俺は地面を触れた。踏切の前のアスファルトが盛り上がって、壁を形成する。
そしてサイコキネシスでその上にベンチや樹木を置いて行く。
「まぁ……これが限界だな。俺の力も」
「あなたも……」
「あぁ。化物だよ」
そして2人そろって、電車を見た。踏切が降りてきているから、電車も発車するのだろう。
「俺達も離れるぞ」
「えぇ」
数人、俺達を見物していた人がいたようで、俺達が動くと目をそらした。俺達はそいつらの横に立った。
そして見送る事にした。
電車は、こちらに向かって進んできた。
そして、踏切に差し掛かった途端。
爆発した。
コミカルに言うなら「どかーん」と。
リアルに言うなら・・・・・・俺の語彙では無理か。
俺達は、ご冥福をお祈りするとしよう。
忠告をきかなかった、彼らの。