09-王の『推理』と俺の『実験』-
こんな世界に生きる意味なんか考えてはいけない。
生きてほしいと願う人がいるなら、それは自分の命じゃないのだから。
僕には哲学的にそれを語れないから、感覚で理解してもらうしかないのだろう。
「で・・・・どんな話を聞かせてくれるんだ?」
長い机に夕食を用意していて、晩餐会という雰囲気だった。メンバーは4人。
俺と隼人と虎郷と海馬だけである。
海馬の家についたのは、7時だった。
門に着くと、警備員が
「嘉島奏明に王城隼人、それに『深窓の令嬢』・・・か。本当にきたのだな」
と言って門を開けてくれた。
「夕食の準備ができている。入れ」
・・・夕食?
といったところで、今現在。
冷静に食べる隼人。自己紹介もしてない状態で、ふてぶてしくも食べる虎郷。行き場の無い俺。
そしてニコニコ笑顔の気さくな海馬君。4人、それだけだ。
「食事中に言ってもいいのかい?」
「別にいいが・・・『深窓の令嬢』のアンタの名前聞きたいなぁ」
「あ、そうね」
口をナプキンで拭いて(この間まで決して裕福ではなかったくせに様になっている)お辞儀した。
「虎郷火水です。漢字は―」
「虎に郷里の郷、火と水だろうな、合ってるか?」
「流石ね。それがあなたの能力なのね」
虎郷はそれだけ言うと、水を飲んだ。
「じゃ、君の能力の証明だ。せーのッ」
俺たちは同時にナイフとフォークを投げた。
6つの刃が1つの的に吸い込まれる。
距離は遠いが、男子に届かない距離ではない(虎郷の腕力は女子のそれと同等ではない)。
が、時間差はある。海馬がナイフを投げた。
海馬の投げたナイフが1番近かった隼人のナイフに当る。
その衝撃で、海馬のナイフの軌道線が上、隼人のナイフが下に落ちる。
そのまま海馬のナイフが隼人のフォークに当たり、それでナイフは落ちる。が、フォークは軌道が下になりつつも進む。その間、最初に衝突した隼人のナイフが落ちる軌道に俺のナイフがあった。当然2つともが落ちる。結果、テーブルに3本のナイフが落ち、そのうち1本が刺さる。その1本向かって俺のフォークと虎郷のナイフが当り、落ちる。最後に、軌道線を変えた隼人のナイフと虎郷にフォークがぶつかって落ちる。計、7本の食事用道具が落ちる。
「おいおい・・・。急に投げんなよ。ビックリしたじゃないか」
「・・・推理通り」
ニヤリと隼人は笑った。
「君の能力は『狙える』んだ。何かを狙う際に全てを見極めるんだよ。君の頭の中に狙うための全ての情報が流れるんだよ」
つまりは、くじ引きをしようということになれば、どれを引けばいいかが分かる。席を狙うことが出来る。植木鉢を狙うならば、ボールをどのように弾けばいいかわかる。と、隼人は言いたいのだろう。
「残念はずれ」
海馬は言った。
「・・・え」
隼人は言った。というかぼやいた。いや、呟いた。でもなく、声が漏れたという感じだった。
「え・・・」
次は虎郷の声。これは驚きの声に他ならない。隼人の推理が外れた事に。
「もう一度言うぞ。残念はずれ」
「そ・・・んな・・・ばかな・・・」
隼人の心が折れた。
ぽっきりと。半分に。
プライドが高いからなぁ・・・。
5秒ほど時間が空いた後、
「・・・拍子抜けだぜ」
と海馬は言った。
「俺は、今日、お前らに能力が解析されると思って呼んだんだけど、まさかこんなもんだったのか?」
海馬はそう続ける。
「隼人・・・3日も考えてそれが今回の結果なのかよ・・・マジでねぇわ」
と海馬最後に言って立ち上がる。
「帰るぜ。俺は。お前らもでてけ」
「あ、海馬」
俺は提案する。
「紙を2枚と鉛筆1本持ってきてくれ」
「・・・?」
「俺が別の推理を見せてやる」
俺のは隼人の推理とは全く違う結果が出た。
隼人と虎郷が俺に驚きの顔を見せ。
海馬は、ニヤリと笑って
「いいぜ」
と言って出て行った。
しばらく・・・というほどもせずに海馬は帰ってきた。
そして、それらをココに置く。
「で?どうすんの?」
俺は海馬に紙を投げ、鉛筆を置いた。
「1・・・いや、0~9まで、好きな数字を10個書いてくれ。俺は見ない」
「・・・・・・いいぜ」
俺は自分の席に戻り、座った。これでアイツが何を書いているかは分からない。
その間に周囲をうかがう。
部屋の隅には一個だけ、小さなゴミ箱があるが、野球部が投げないと入らないだろう距離にある。
隼人は少し放心状態で、虎郷は関心を持った顔で話を聞いている。
「書いたよ」
と海馬は顔を上げた。
「おう。じゃあ、鉛筆だけくれ」
海馬は遠い距離から鉛筆を投げる。
俺は、紙に数字を書きながら言った。
「もし、隼人が言ったとおりならば、海馬は今何を狙ってる事になるんだ?」
「え?」
「今、海馬は何を狙って書いたんだ?」
「・・・別に何も狙ってないんじゃないかい?」
「いや、俺たちは何かをしようと思ってそうなるわけじゃない。それはお前も知っているだろう?ということは、今こいつは何かを狙っているはずだ。だとしたら、何を狙う事になるんだ?」
「・・・」
「分かってるだろう。こいつは当てたわけじゃない。当ったたんだよ」
俺は、紙を見せた。
3+1 2+2 5+9 7+3 1+5 3+5 6+3 2+5 7+1
と書かれてあった。
「海馬・・・。見せろ」
「・・・まさか・・・」
海馬は紙を上げた。
4 4 14 10 6 8 9 7 8
「答えはあってるだろうな」
海馬は言った。
「わざと9個にしても、0~9って言っておいて、答えが2桁になるようにしても、一緒だったという事・・・それはつまり、そういうことだ」
俺は言って、指を銃の形にして続けた。
「彼は運が良いという能力だ」
決まりきった世界に。
決まりきった未来が見えた虎郷のように。
偶然がもたらした世界に。
偶然で自分自身の世界を作り上げていた男。
それが海馬 正。
脳の海馬・・・記憶に関係なく、正しい世界を見つけることができるという。
そんな幸運かつ不幸な男だった。