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丸く収まったこの世界  作者: 榊屋
第二章 運が定めたこの世界
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09-王の『推理』と俺の『実験』-

こんな世界に生きる意味なんか考えてはいけない。


生きてほしいと願う人がいるなら、それは自分の命じゃないのだから。


僕には哲学的にそれを語れないから、感覚で理解してもらうしかないのだろう。

「で・・・・どんな話を聞かせてくれるんだ?」

 長い机に夕食を用意していて、晩餐会という雰囲気だった。メンバーは4人。

 俺と隼人と虎郷と海馬だけである。

 海馬の家についたのは、7時だった。

 門に着くと、警備員が

「嘉島奏明に王城隼人、それに『深窓の令嬢』・・・か。本当にきたのだな」

 と言って門を開けてくれた。

「夕食の準備ができている。入れ」

 ・・・夕食?


 といったところで、今現在。

 冷静に食べる隼人。自己紹介もしてない状態で、ふてぶてしくも食べる虎郷。行き場の無い俺。

 そしてニコニコ笑顔の気さくな海馬君。4人、それだけだ。

「食事中に言ってもいいのかい?」

「別にいいが・・・『深窓の令嬢』のアンタの名前聞きたいなぁ」

「あ、そうね」

 口をナプキンで拭いて(この間まで決して裕福ではなかったくせに様になっている)お辞儀した。

「虎郷火水です。漢字は―」

「虎に郷里の郷、火と水だろうな、合ってるか?」

「流石ね。それがあなたの能力なのね」

 虎郷はそれだけ言うと、水を飲んだ。

「じゃ、君の能力の証明だ。せーのッ」

 俺たちは同時にナイフとフォークを投げた。

 6つの刃が1つの的に吸い込まれる。

 距離は遠いが、男子に届かない距離ではない(虎郷の腕力は女子のそれと同等ではない)。

 が、時間差はある。海馬がナイフを投げた。

 海馬の投げたナイフが1番近かった隼人のナイフに当る。

 その衝撃で、海馬のナイフの軌道線が上、隼人のナイフが下に落ちる。

 そのまま海馬のナイフが隼人のフォークに当たり、それでナイフは落ちる。が、フォークは軌道が下になりつつも進む。その間、最初に衝突した隼人のナイフが落ちる軌道に俺のナイフがあった。当然2つともが落ちる。結果、テーブルに3本のナイフが落ち、そのうち1本が刺さる。その1本向かって俺のフォークと虎郷のナイフが当り、落ちる。最後に、軌道線を変えた隼人のナイフと虎郷にフォークがぶつかって落ちる。計、7本の食事用道具が落ちる。

「おいおい・・・。急に投げんなよ。ビックリしたじゃないか」

「・・・推理通り」

 ニヤリと隼人は笑った。

「君の能力は『狙える』んだ。何かを狙う際に全てを見極めるんだよ。君の頭の中に狙うための全ての情報が流れるんだよ」

 つまりは、くじ引きをしようということになれば、どれを引けばいいかが分かる。席を狙うことが出来る。植木鉢を狙うならば、ボールをどのように弾けばいいかわかる。と、隼人は言いたいのだろう。


「残念はずれ」

 海馬は言った。

「・・・え」

 隼人は言った。というかぼやいた。いや、呟いた。でもなく、声が漏れたという感じだった。

「え・・・」

 次は虎郷の声。これは驚きの声に他ならない。隼人の推理が外れた事に。

「もう一度言うぞ。残念はずれ」

「そ・・・んな・・・ばかな・・・」

 隼人の心が折れた。

 ぽっきりと。半分に。

 プライドが高いからなぁ・・・。

 5秒ほど時間が空いた後、

「・・・拍子抜けだぜ」

 と海馬は言った。

「俺は、今日、お前らに能力が解析されると思って呼んだんだけど、まさかこんなもんだったのか?」

 海馬はそう続ける。

「隼人・・・3日も考えてそれが今回の結果なのかよ・・・マジでねぇわ」

 と海馬最後に言って立ち上がる。

「帰るぜ。俺は。お前らもでてけ」

「あ、海馬」

 俺は提案する。

「紙を2枚と鉛筆1本持ってきてくれ」

「・・・?」

「俺が別の推理を見せてやる」


 俺のは隼人の推理とは全く違う結果が出た。

 隼人と虎郷が俺に驚きの顔を見せ。

 海馬は、ニヤリと笑って

「いいぜ」

 と言って出て行った。





 しばらく・・・というほどもせずに海馬は帰ってきた。

 そして、それらをココに置く。

「で?どうすんの?」

 俺は海馬に紙を投げ、鉛筆を置いた。

「1・・・いや、0~9まで、好きな数字を10個書いてくれ。俺は見ない」

「・・・・・・いいぜ」

 俺は自分の席に戻り、座った。これでアイツが何を書いているかは分からない。

 その間に周囲をうかがう。

 部屋の隅には一個だけ、小さなゴミ箱があるが、野球部が投げないと入らないだろう距離にある。

 隼人は少し放心状態で、虎郷は関心を持った顔で話を聞いている。



「書いたよ」

 と海馬は顔を上げた。

「おう。じゃあ、鉛筆だけくれ」

 海馬は遠い距離から鉛筆を投げる。

 俺は、紙に数字を書きながら言った。

「もし、隼人が言ったとおりならば、海馬は今何を狙ってる事になるんだ?」

「え?」

「今、海馬は何を狙って書いたんだ?」

「・・・別に何も狙ってないんじゃないかい?」

「いや、俺たちは何かをしようと思ってそうなるわけじゃない。それはお前も知っているだろう?ということは、今こいつは何かを狙っているはずだ。だとしたら、何を狙う事になるんだ?」

「・・・」

「分かってるだろう。こいつは当てたわけじゃない。当ったたんだよ」


 俺は、紙を見せた。

 3+1 2+2 5+9 7+3 1+5 3+5 6+3 2+5 7+1

 と書かれてあった。

「海馬・・・。見せろ」

「・・・まさか・・・」


 海馬は紙を上げた。

 4 4 14 10 6 8 9 7 8


「答えはあってるだろうな」

 海馬は言った。


「わざと9個にしても、0~9って言っておいて、答えが2桁になるようにしても、一緒だったという事・・・それはつまり、そういうことだ」

 俺は言って、指を銃の形にして続けた。












「彼は運が良いという能力だ」



 決まりきった世界に。



 決まりきった未来が見えた虎郷のように。



 偶然がもたらした世界に。



 偶然で自分自身の世界を作り上げていた男。



 それが海馬 正。



 脳の海馬・・・記憶に関係なく、正しい世界を見つけることができるという。



 そんな幸運かつ不幸な男だった。



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