06-友達なら-
午前9時。
俺は、壁にもたれた状態から目を覚ました。
「・・・いや、この状態で寝れるって俺は一体・・・」
ほんとに、良く分からん男だ(自分を敢えて客観的視してみた)。
「・・・ん?」
車のエンジン音。俺のもたれている壁の後ろから・・・あ、そうか、この壁も海馬家の敷地か・・・。
ということは、海馬がこの家を出ようとしている可能性があるということ・・・。
車で出られると追いかけられないな・・・。遠い距離から感知してみようか。
と、挑戦しようとしたが
「お待ちください!」
と、老人の声が聞こえる。
「大丈夫だって。徒歩でいけるよ」
海馬の声だ。どうやら言い争いのようだ。
「そういうことではなく、ご主人さまやご婦人に外に出すなと・・・!」
「なんだよ・・・射撃場くらい大丈夫だって、爺や」
「しかし・・・!」
老人の声が聞こえなくなる。
「なんだよ・・・。大丈夫だよ、心配してくれるのは爺やくらいのもんだ。アイツらはもう俺には興味ないんだから」
すぐ戻るよ。
と続けて、海馬の足音が離れた。
射撃場・・・あの、UFOみたいなのを撃つアレか。
っと、ということは門を見とかねぇと―――
「やっぱり来たのか。嘉島」
「げ・・・!!」
海馬が俺がもたれていた壁の上に居た。
「おはようだな、嘉島」
「・・・おはようございます、坊ちゃま」
「その言い方はむかつくな・・・」
と、海馬はそのまま自由落下し、一度縦に回転して降り立った。
いや、低くは無いとは言っても、2メートルくらいだぞ・・・。
そのあたりが、運動神経ということなのだろうか。
「あの、爺さんは?」
「執事の・・・そうだな・・・セバスチャンで」
「執事が全部セバスチャンなわけないだろう、真面目に答えろ」
「県 寅兵衛だ。兄弟がいるそうだが、有った事はない。ああ見えてまだ49歳だよ。割と強い。警備会社で働いていたそうで、そっちにも仲間が数人居るそうだよ」
「あぁ、そう」
いや、別にそこまで聞きたかったわけでもない。
「で、どこ行くんだ?」
「聞いてたんだろ?」
「射撃場か?」
「あぁそうだ」
「じゃあさっさと行こうか」
「付いてくるのか?」
「おう」
そんな風な会話以降、俺と海馬は何の話もせずに射撃場へと向かった。
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「着いたぜ」
口火を切ったのは海馬で、事実はいとも簡単に分かる内容だった。現在9時34分。
近づいてから、銃撃音はしていたのでこの辺であることには気付いていた。
割と距離があったなぁ・・・という感想を抱いていると、
「入れよ、歓迎するぜ」
「お前の家じゃないだろ」
「ああ。俺の家じゃない。けど、俺の所有物だ」
「ん?」
その射撃場の名前は「海馬BALKAN」
・・・いや、海馬も金持ちだってのはわかってたけど・・・そんなレベルなのか・・・!?
ついでに、「バルカン」はないだろうと思う。
「・・・おじゃましまーす」
「はい、どーぞ」
中には、4人ほどの大人が居た。
「おや・・・。正君じゃないか!」
「おお!」
「正君、久しぶりだ」
と、3人の大人は寄ってきたが、もう1人はそのままだった。
その3人が来る瞬間に、
「両親の会社の人間だ」
と、俺に呟いた。ということはもう1人は部外者ということなのだろう。
「こんにちは。会社の方・・・ですよね?四葉さんと新嶋さん・・・後、古桜さんですね?」
「おお!覚えているのか!」
「君くらいのものだよ、会社の人間全員の名前を覚えているのは」
どの人間がどんな格好、性格、容姿であるかはモブキャラなので無視。
「ん?」
俺に気付きやがった。よし、逃げるぞ。嘘ですよ。
「僕の同級生ですよ」
海馬が言った。一人称を使い分け、印象を変えるという技を使用している。
「嘉島奏明です。どうも」
そして、便宜上の挨拶をして、握手を避ける。言動を全て吸収すると俺の頭がパンクして2度と機動しなくなるからである。
「正君は、すごいタイミングで撃つから見ててごらん」
1人の大人に言われたので、まぁ、海馬の撃ち方を見ることにした。
「・・・・・・・・・」
海馬は黙って、ライフルを構えた。こういう競技をライフル射撃というらしい。
「・・・!」
片手だった。狙う気など無いように。
バッ!
白い円盤が出る。
ほぼ同時だった。妙な角度に向かって、銃を撃っていた。
バン!
当った。超高速の早撃ちだ・・・。
「・・・すげ――――」
「流石だねぇ、正君!」
俺の感嘆の声を掻き消す声で3人の大人が海馬に駆け寄る。
「いえいえ・・・」
結局、それから媚を売る社員の話をそれとなく聞いていた。
12時になってから俺たちは射撃場を後にした。
「お前すごいな。なんて速度と角度だよ・・・」
「いちいち気にするな。あんなの勘だよ」
「勘?」
「あの辺かな?と思う位置に向かって撃っただけの事だ」
「そんなのでよく当るもんだよ・・・」
ファーストフードの店でハンバーガーを片手に2人で話していた。こういう場所では、隼人とは話せないから新鮮な体験ではあったけれど、俺はこんな感じの気さくな感じが好きだ。
「嘉島、お前ってさ」
「何だ?」
「俺の能力について解明しようっていう魂胆なんだろう?」
「あぁ」
「・・・正直だな」
「隠し立てするような事でもないからな」
実際、そういう問題なのだった。俺にとって、そんなに重要視するわけでもない。どうせ、隼人が見つけるはずだから。
「でもさ、俺についてくる意味は無いと思うぜ?」
「?何でだ?お前についてりゃ、お前という存在が分かれば十分な資料だろう?」
「俺自身、俺の能力はよくわからないんだよ」
「・・・・・・・・そうなのか」
「もちろん大雑把な感じでは分かっているんだぜ?」
「そうか。でもまぁいいんだよ。友達として、楽しめりゃ」
「え?」
そう。隼人が見つけるはずの事実をこうも追いかけているのはそんな理由だった。
「単純にお前と友達になりたくてな」
「・・・なんでだよ」
「最初は、そんなつもりじゃなかったんだけれど、爺さんとの会話とか会社の人間との接待みたいな会話に耐えているところとか、そういうの見ると急にそう思ってさ」
「・・・そうなのか」
「まぁ、俺は友達って言うか・・・仲間モドキなら居るんだけど、そういうのを増やすのも最近は悪くないかなって思ってるんだよ」
まぁ、実際。俺には既に仲間と呼んで良いはずの人間が居るのだが。今になってそう呼ぶのもなぁ・・・と思ったり、俺がもし死んだら迷惑がかかるとか、そういう類の思想をもっているのだが。
いや、もしかしたら、裏切られるのが怖いのかもしれない。自分を守るためにやっている行動なのかもしれない。
でも。
それでも。
俺は仲間が必要だと、そう思うようになっていた。
俺たちはその後、中学3年生らしい生活を始めた。
バッティングセンターに行ったり、ゲーセンで遊んだりした。
月曜日、明日には隼人は帰ってくるだろう。まぁ、気にせずに俺は先生に
「新手の引きこもりです。明日には帰ってきますので、お気になさらず」とだけ告げておいて、その日は 平和に終わった・・・・・・ら良かったのに。
昼休み、海馬とともに食事を摂る事にした。海馬は友達が少ないわけではないし、どちらかというとリーダーシップを発揮して、皆に慕われているが、昼食は1人で摂るタイプだったので誘うのは容易だった。
そして、食事を終えて、さぁ今から昼寝・・・というときだった。
外がざわついている。その程度で別に寝ないわけではないのだが、しかし
「美人の女だってさ」
という声が聞こえた。男の端くれである俺としては見ないわけにはいかない(かと言って恋愛には今のところ興味はないのだが)。
「・・・ん?」
そこに居た女の姿を見た。そして、俺は逃げるか、とっ捕まえてどこかへ行くかの2択を考える。
以下の発言を聞いて、誰なのか判断して欲しい。
「あんた誰?」
1人の男子が聞く。
「あなたのようなゴミに用は無いわ。すぐに嘉島君を呼びなさい」
「・・・嘉島?」
「分からないの?嘉島奏明よ。まぁ、分かる人が呼んでくれればいいわ」
「・・・お前、嘉島の何かなのか?」
「嘉島君の?そうね――」
ダッシュ!!
俺は走る。腕を掴む。運良く、2階と1階は吹き抜けなので飛び降りる。
「虎郷・・・今、適当なこと言おうとしたな?」
「恋人と」