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丸く収まったこの世界  作者: 榊屋
第二章 運が定めたこの世界
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01-クジと植木鉢とサッカーボールと落下速度と偶然の確率論-



 あれから・・・・・・虎郷火水の事件から、2週間近く経った。

 正確な日数を言えば9月10日からなので、20日経った、9月30日だった。

 確か10日は土曜日だったはずなので、9月30日は金曜日という事になるのだろう。


 その日の終わりのHRホームルームに、来週から10月と言う事で、席替えがあった。

 俺からすると、9月に入ってから8日間しかこの席に馴染んでおらず、退院して学校に行ったその日に席替えになってしまったのだから、なんというか、虚しい気分になった。

 しかしながら、それでも席替えというのは少しワクワクしてしまう(つまり俺もまだ子供と言う事だろう)。

 だが。

 いつもの事だが席替え後には、友達とは離れてしまい、何とも言えない空気になってしまうのだ。

 俺にはその心配は無い。友好な人間関係を持つ人間、つまり友達がそれほど多くないからだ。


「嘉島」

 俺の机の上に右腕を乗せて身を乗り出してきた男が居た。

 俺の前の席に居る海馬という男だ。

「お前どこの席がいいんだ?」

「は?」

「ついでに席が近くになりたい奴教えろよ」

「何言ってんだよ」

「いいからいいから」

「・・・・・・そうだな」

 ま、とりあえず話しに付き合ってみることにした。

 俺は自分の今の席を見る。

 長い事座っていたわけではない上に窓際だ。


「この席のままでいい。後、隼人を近くに置いてくれ」

「そうか。じゃあ俺は廊下側の一番後ろの席に行くかな」


 そう言って立ち上がった。俺もついていく。


 席替えは、今回はくじ引き形式だった。

 教卓の上に置いてあるくじに書かれている番号と、自分の名前を紙に書いて先生に出す。

 全員が提出し終わったら、その紙を見ずに黒板に席の見取り図を書いて、そこに番号を書いていく。

 その番号のところにさっき提出した番号と一致するところに座るということである。

 番号を紙に書いて提出する事で不正を禁止する。

 ちなみに名前を書かなかった連中は「死よりも恐ろしい罰ゲーム」らしい。


 さて、俺と海馬が教卓に着いた時、同時に隼人もいた。

「・・・海馬君。それに、ソウメイ君」

「俺はついでかよ」

「よぉ」

 上から隼人、俺、海馬の順である。

「さっさとくじ引こうよ」

 隼人が手を伸ばした。その手を海馬が弾く。

「これと、これと、これだな」

 海馬が適当に取った。

 そして一枚ずつ俺と隼人に渡した。

「何やってんだ?」

 俺は自然に疑問を口にした。

「まぁ、気にすんな。確率は同じだろう?」

「いや、そりゃそうだけど・・・」

 と、その間に海馬は名前を書いて提出して、席へと戻った。

「・・・・・・何なんだい?彼」

「いや・・・・・・俺にもさっぱり」

 本当に何がしたいんだか。


 その後、驚くべき結果が出た。俺の望んだ席、つまり、今俺が居る席の番号が14。

 俺のくじの番号も「14」だった。

「すごいな・・・」

 ともかく、皆が動いている中、俺は一人、この動作の流れが止まるのを待っていた。

「・・・・・・・・・?」

 俺の前の席に、

「やぁ。ソウメイ君。奇遇だね」

「・・・」

 なんだろう。この仕組まれた感は。

 ふと。

 俺は廊下側の席を見る。一番後ろ。

 海馬が座っていた。

 こちらを見て、ニヤリと笑った。



 俺たちは、教室で荷物を片付けながら、以下のような会話をしていた。

「もしかしたら、彼には全てが見えていたのかもしれないね」

「全てが?」

「クジの番号も先生がどこに何番を書くのか・・・とか」

「未来予知ってことか?いや・・・こんな近くに2人も同じ能力のアクターがいるものなのか?」

「多分だけれど、未来予知ではなく『目』だろうね」

「『目』?」

「うん。ウェポンには、武器・・・アームと、人体自体に備えつく、或いはそれ自体が武器になる、サイボーグがある・・・って、この話はしてなかったような気もするよ」

「あぁ。聞いた事無いな」

「まぁともかく、もしかしたら彼は『サイボーグ』にあたるアクターなのかもね」

「・・・この片田舎の街に、こんなに多いアクターが居るものなのか?そもそもアクターってのは、そんなに多いわけでもないんだろう?」

「でも、願う者が居たらそこに生じるはずだよ?それに、ここは片田舎ではないし。王城グループの本社があるような場所なのだからね」

「・・・それでも、あんな気さくなキャラクターの奴が、何かを願うとは思わないよ。深い願いでこそ意味があるわけだし。やっぱり、ただの偶然だろ?」

 長々と間髪入れずにしていた会話に空白があく。

 教室には誰も居ない。部活に入ったりとか忙しいのだろう。

 そう思っていると、ようやく溜めが開放される。


「キャラクターなんか関係ないさ。どんな性格でも願いは重いもんだよ?思いだけにね。それに、偶然って・・・君はこういうつもりかい?」

 と一度、ニヤリと不敵な笑いをして

「偶然自分の前の席だった海馬君が、偶然君の願いを聞き、偶然僕とも出会って、偶然引いた3つのくじが、偶然先生の書いた見取り図と一致して、偶然君と海馬君の願い通りだった・・・と」

「・・・・・・・・・」

「6個も偶然が有ったら、1個くらいは誰かの意図する物だと、そうは思わないかい?」

「・・・なるほど。流石だな。隼人」

 そうして、俺と隼人は外に出た。

「あ」

 そこで、海馬を見かける。

 玄関ホールを出た所であった。


「危ない!!」

 場面がスローモーションに見えた。

 

 上から声が聞こえる。

 上は確か、飼育委員・・・動物だけでなく、ベランダで、植木鉢に入った植物を育てている。

 俺は、上を見た。ベランダの真下に俺たち。その少し前に、海馬。

 植木鉢が落ちてきている。海馬の頭上に。

 と思った時には、既に落ちているのがこの世界だ。

 その時に、海馬の足元にサッカーボールが転がってきた。

 海馬はそれを、左足の爪先と右足のかかとで器用に上に打ち上げた。

 植木鉢と衝突する。その二つの物体は、お互いの軌道線を変えて、植木鉢とサッカーボールは海馬の近くに落ちる。


「すみませんでした!!」

 上からの声。同時に右からも、サッカー部の人が言った。

「気にすんな」

 振り返らずに、海馬は帰り道に歩を向ける。

 いや、それより。

 これは一体・・・。

 植木鉢が落ちてくる位置を『見ず』に。サッカーボールの存在にも『気付かず』に。

 落下速度も『分からず』に。軌道線をずらした。

 これが偶然以外の何であろうか。

 いや、偶然ではなく

「・・・アクター・・・」

 その呟きが聞こえたのか、海馬は振り向いた。


 言った。



「へー・・・・・・こういうのアクターっていうのか?」




偶然の出会いっていうけど、運命的には偶然の出会いも必然なんだけどね。





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