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丸く収まったこの世界  作者: 榊屋
第零章 紡がれゆくあの過去
198/324

35-平和終了。-

 昼休み。

 俺は先ほどと同様で屋上へ上がる。しかし、今回は隼人つき。

 そして、『W』のまま俺が放置していたであろう、その扉を開けた。

 やはり誰も居らず、俺が放置した状態だったようだ。そこには、先ほどの少年の置き土産と思われるナイフと彼の軌跡を示すかのごとく、血痕が置かれていた。

 奴はなんだったんだろう・・・・・・。いや、今はどうでもいい。

「昼飯を食おう」

 隼人は相変わらずのテンションだが、俺はまず問題を突きつける。

「おい、こら。俺のキャラを前に言わなかったか?」

「ああ、あれだろ?」

 そういいながら隼人は弁当を出した。

「『俺はいつも宿題だけは真面目にやる、学校では孤立こそしていないが少し忌み嫌われる習性がある、成績は上の中くらいの中学生だ』だっけ?後、女子にもてる」

「まぁ、備考は置いておいて、大体そうだ。そんな俺がお前と関わっているとどうなると思う?」

「・・・・・・さぁ?」

「俺は、『あの王城隼人と関わっている、謎の少年』というイメージがつくようになる。だから、例えば、お前を好きな女子がお前に告白するとき、俺はその媒介としてしようされるのさ」

「なるほど、かわいそうに」

 言って、隼人は一つ目のサンドイッチを頬張る。

「でも、僕は君を守る契約をしている」

「・・・・・・は?」

「君のキャラを守るより、君が孤立しないようにする事こそが大切だと思った。だから、君の言い方を借りるなら、僕は君が孤立しないための媒介になるのさ」

「そう・・・・・・か」

「勝手なことをして悪いとは思うけど、それでも僕は止めないから」

 そう言って、隼人は『昼飯、食べようよ』と、サンドイッチの入ったバスケットを僕に突き出した。

 僕らはそこで、新たな平和を手に入れた気がした。



 当然、そんな簡単に終わるわけも無く、その後はクラスの男女に色々問い詰められた(しかも何故か俺だけ)。適当にそれら全てを捌いて、学校が終わって逃げるように家に帰った。


「はぁ・・・・・・。疲れた・・・・・・」

 思い切り溜め息をつき、ソファに伏せた。

「お疲れー」

「お前の気の抜けた声を聞くたびに、俺はお前の殺し方を学びたくなってくる」

「物騒な事は言わないでくれたまえ」

 隼人はそう言って、俺の脅迫を受け流すと、着替えを始めた。

「犬猫捜しか?」

「うん。下準備は出来たから、今から出来る事を1つずつ潰していこうと思う」

「俺も手伝うよ」

「助かるよ。助けてもらっているわけじゃないけど」

「へいへい」

 とまぁ。

 言うほど、何か事件が起きたわけでもないし、平和といえば平和だった。殺人鬼も捕まって、治安もようやく守られてきたのだろう。殺人鬼が横行している当時の方が良かったかもしれないけれど。

 ともかく、平和だからそれでいい。

 このまま今日が終わりますように。

猫探しと身辺調査を終え、尾行を隼人に任せて、先に帰宅した。もうすぐ終わるらしい。

「死ぬ・・・・・・」

 夏場、夜が近づいてくると、熱気の強さが増す気がする。恐らく少し前までの夜の涼しさと比べてしまう所為ではないだろうか。

「お疲れー」

 その言葉は俺に当てられたものかと思い顔を上げたが、部活帰りの少女たちの会話だった。誰かに、お疲れ、などといわれる事は滅多に無いので、羨ましいような気がする――いや。

 ココ最近、隼人には言われまくっている。

 女子に言われたいという心も奥底にある。



 さて。

 家の中にいるはずの俺が、何故少女達の話が聞こえているのか・・・・・・。

 それは、家という既存の枠にはまるべきではない我々を自己表現するために――――。

 はい、嘘。

 アイツが家の鍵を所持しているために、僕は外で待つ以外の方法がないのだ。

「くっそ・・・・・・・」

 そう呟いてから、僕は玄関から庭に移動した。

 天然芝で気持ちのいい庭だ。

 アイツが帰ってくるまで、睡眠と行こう。

 俺は寝転がった。






「起きたまえよ」

 隼人は偉そうにそう言って、俺を起こした。

「・・・・・・」

「まぁ鍵を持っていたままだった僕も悪かったけど、こんなところで寝たら風邪引くぜ?」

「・・・・・・バカは風邪ひかないから・・・・・・」

「夏風邪ならバカが引くんだぜ?」

「バカを否定しろ」

 雑談をしてから、俺は立ち上がり、家の中に入る。


「これで粗方、解決できたのか?」

「粗方っていうか、全部」

「あっそ」

「で、ちょっと気になる事件があった」

「・・・・・・?」

 そう言って、隼人は夕食を作り始めた。不器用なので俺も手伝う。

「この間あった、殺人鬼の事件」

「うん」

「僕の予想が正しければ、犯人は別に居る」

「は・・・・・・?」

 パリン!

 皿一枚割れた。

「え・・・・・・あれ?」

「別に捕まった人と会ったわけでもないし、龍兵衛さんに聞いたわけじゃないけど、どうもおかしい・・・・・・」

「おかしいって・・・・・何が?」

「それは――」

 ピーンポーン。

 というチャイムによって、その声は遮られた。

「・・・・・・ちょっと出てくるよ」

 そう言って、隼人は出て行く。

 俺は割れた皿の破片を集めて、キッチンに置く。

 さて。

 隼人はどうなったのだろう?時間が掛かっているという事は、お客さんだったはず・・・・・・。


 よく耳を済ませると、大きなエンジン音がする。しかもかなりの台数分・・・・・・。

 俺は扉を開けて、玄関を見た。

「だーかーらーよー!」

 リーゼント・・・・・・。暴走族・・・・・・?

「お前、探偵なんだろ?叶えてくれって!!」

「あなた義賊でしょう?自分でやってくださいよ」

 少しいざこざってるようだ。俺は離れたほうがいいだろうか・・・・・・。

 あれ?あのリーゼント・・・・・・。

「あ」

 思わず、俺は口を開いた。

「ん?」

 そう言って、こちらを見たリーゼント。

「ああ、いつぞやの後輩じゃねーか!!」

「どうも・・・・・・」

 この人・・・・・・隼人と出会った日に、ケンカに割って入ってきた人だ・・・・・・。

「えっと、何のようですか?」

「依頼だよ、依頼」

「ハァ・・・・・・」

「っと、名乗ってなかったか?」

 そう言って、見せた彼の後方には。

 十数人の暴走族とバイクが有った。


 ああ。

 あれだよね?確か、『平和は戦争と戦争の騙しあい・・・・・・』


「今、義賊を名乗っている、そこの総長の、東諒あずまりょうだ」


 平和終了。

 俺の中でそんな声がした気がした。


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