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その日、学校では卒業式があった。
のは、まあ私にはどうでもよかった。
正先輩に助けてもらってから、学校で、私が告白される事は無くなった。彼が先輩の存在を皆に教えたのだろう。
女子や、親しい男子に正先輩について聞かれたけれど、そこまで嫌な気分にはならなかったし、写真を見せると「格好いい」と評判だった。自分のことのように嬉しかった。
帰り道は珍しく1人だった。というのも、これから火水さんと響花さんと一緒にショッピングだから。
3月14日。
今日はホワイトデーだった。
学校の登校中に
「彼ら・・・・・・返す気あるのかしら?」
「いやー・・・・・・最悪忘れてるよね・・・・・・」
と2人は話していた。
どうしてだろう、と思った。
自分の好きな人くらいは信じないのだろうか。
少なくとも正先輩は女性にそんな態度は取らない。いつでも一生懸命だ。
私以外にも同じ態度なのは、何故か嫌だけれど、それが男子だというのだから仕方が無い。
私の願いは「正先輩と一緒に居たかった」という願いだった。
初めて正先輩を見たのは、海馬家のパーティーだった。
私が中学1年生の時だったと思う。まだ出来たばかりの会社だったけれど、資金繰りがとてもよくて一気に大企業に進歩したらしい。
私の家は老舗の料理店なので、そこに御呼ばれしたらしい。
私は普段そういうパーティーには出席しないのだが、ダンスパーティーという事もあり、出る事にした。別にダンスなら何でも出来たから。
特に面白くも無いと思っていた。
その時。
「アンタ誰」
と声を掛けられた。
「・・・・・・」
「見たところ同級生くらいか」
「・・・・・・」
「あー・・・・・・一応返事してくれるか?」
「常盤雅です」
「雅か。風情があるな・・・・・・。ダンスとか得意なほうか?」
「貴方は?」
「ああ、俺は海馬正だ。よろしくな」
一目惚れではなかった。
むしろ第一印象は嫌いだった。
青い髪の毛で、手錠のペンダント。
ふざけている。そう思った。
「踊るか?」
「いえ」
「よし、行こう」
「は?」
先輩はペンダントを外して、髪の毛と服装を整える。
そして右手を出した。
「御手をどうぞ」
瞬間的に紳士になった。身長がそこらの男子より大きいことにも気付いて、男らしく見えた。
それからのダンスも長かったはずの時間を短く感じた。
その後は、2人で紅茶を飲んでいた。
「んー、あんまり作法を知らなかったけれど、案外上手くできたな」
「知らなかったんですか?」
「ああ、俺は運がいいから、何でも勘で出来るんだよ」
「勘ですか・・・・・・」
「てか、何で敬語なんだよ」
「え」
突然の質問に驚く。
「お前、同級生なんだろ?じゃ、敬語なんか使うなって」
「昔からの癖ですから」
「昔からって・・・・・・」
「うちではそういう仕来りが厳しくて・・・・・・小学校に入るときにはそういう癖が身についていたんです」
「ああ、そう・・・・・・」
先輩はそう言って、その場は落ち着いた。
その後、
「連絡先教えてくれよ」
と言われた。
「今度は別の日に会おうぜ。こういう張り詰めた空間以外の場所でさ」
「・・・・・・はい!」
で。
私はそのまま抱きついた。
周りには誰も居なかったが、先輩は驚いて、そのまま倒れた。
「お前・・・・・・想定外だよ・・・・・・」
そう呟いた。
それから、何度か会うことがあり、私はそのときに「正先輩と一緒に居たい」という願いが増幅していった。
それはいつからか「一生一緒に居たい」になった。
いつまでも、一緒に居たい。来世もその次も。
輪廻のごとく。いつまでも巡り続けたい。
廻って、回って。
いつまでもこの世界を回り続けていたいと。
「聞いてる?雅」
響花さんがそう言った。
「え、あ、はい」
いつの間に呼称が呼び捨てになったのかは分からないけれど、友達に近づいてきたような気がする。
「だから、あの人たちは返す気はあるのかって」
「はぁ・・・・・・」
「雅はどう思うの?」
火水さんがそう聞く。
「・・・・・・自分の恋人くらい、信じてみたらどうですか?」
「「え・・・・・・」」
「私は信じていますから」
私はそう言った。
満面の笑みだったと思う。
私は玄関の扉を開けた。
14話の帰ってくる直前ですよ。
題名は、『こめじるし』⇒『繰り返す』⇒『巡る』という意味です。