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丸く収まったこの世界  作者: 榊屋
番外編 前置きが必要なこの世界
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14-お返し-

 3月14日の話。

 さて。

 決まりが悪くて申し訳ないが、この後の話をさせてもらう。

 よく分からない形で、高校への進学の入試をパスする事になった俺達は、暇を持て余していた。


 ので。

 俺達は作戦を立てた。

 

「今日が決行の日だ」

 学校を女子達に内緒で無断欠席した俺は3階の部屋でそう言った。

「何とか間に合ったね」

 隼人はほうき類で埃を集めながら言った。

「それにしても粋な計らいだな、嘉島」

 海馬はいくつかの椅子を並べていく。

「まぁたまにはそういうこともしないとな」

「うぉ!この椅子リクライニングじゃん」

「まぁね。旧王城グループからもらえそうなものを奪ってきたんだよ」

 と適当に会話しながら準備をしておく。


 ガチャッ。

 という静かな音を聞いた。

「おい!女子は10時まで遊んでくるんじゃなかったのかよ!」

「まずい!予定より帰ってくるのが早かった!」

 隼人はそう言った。

「こちらの素行がばれたら大変だな」

 海馬がそういうので

「嘘をつくのが上手い奴がいこう」

 と提案すると、

「・・・・・・隼人だな」

「タダシ君」

 2人が争い始めた。初めから初ターンを放棄させてもらっている俺。


 下がざわつき始めた。

 ヤバイな・・・・・・。

「俺が行く」

 俺はそう言って勝手に出て行った。


 そして、そのまま階段から降り立つ。

「よ」

「あ、居た」

 虎郷と正面衝突しかけた。

「何をしていたの?」

「2階の広い部屋で乱闘中だったけど、今治まったところ」

「そう」

 虎郷は淡白にそういうと、リビングのほうへ歩いていった。

「あ、今何時くらい?」

「10時前」

 そう言って歩いていく。

「・・・・・・何怒ってんだよ」

「別に怒ってないわよ」

「分かるよ、俺には」

 そのままリビングに入る。

 ・・・・・・。

 何だ、この不穏な空気は。

 女子が3人とも不機嫌だ。

「おい・・・・・・何怒ってんだよ」

「じゃあ聞くけど」

 虎郷は振り向いて俺に詰め寄る。

「何か無いの?」

「な・・・・・・何か?」

「今日は何日か知ってる?」

「・・・・・・えっと?」

「14日よ」

 ・・・・・・うん。

「あー・・・・・・、えっと・・・・・・」

 確認が取れてないから勝手にするわけにも行かないし・・・・・・。

 と考えている間に音河と雅もこちらに迫ってくる。

 ああ、ヤバイ。

「嘉島」

 後ろから声がする。

「海馬・・・・・・」

「いけるぞ」

「分かった」

 そう言って俺はリビングの方から出る。


「来い」

 俺は虎郷の手を引っ張るように取った。

「あ」

 虎郷はそう声を出すと、何も言わずについてきた。


「雅、行こうぜ」

 海馬はそういうと、雅の横に並んだ。





 3階の階段を昇りきると、まるで屋上へ続くように扉があった。

「ここ。今日、男子だけで掃除したんだよ。学校休んでな。そして準備した」

「準備?」

 俺は虎郷に返事をせずに扉を開けた。


 そして隼人の横に並ぶ。海馬も来る。

「コレが、俺達のホワイトデーのお返しだ」

 3人にそう言った。

 それが聞こえていたかは定かではない。

 女子達は天を仰いで止まっていた。

 そりゃそうだ。これを見て感激しないものは居ないはずだ。



 天窓。

 それが3階だった。

 都会の街中では絶対に気付く事の出来ない星と月の美しさ。

 2つが織り成す幻想的な自然美は、王城グループ本社があったような地区では普通は見られない。

 しかし、ここは閑静な住宅街に作られた、天窓のある家。


「さて、座りなよ」

 隼人はそう促して、俺の様にではなく紳士的に音河の手を取った。

 うーむ・・・・・・。恋愛経験もそういう作法も分かっていない俺には出来ない芸当だ。

 と思いながらも虎郷を椅子へと促す。


「きれいですね・・・・・・」

「お前の方が(略)だ」

「大事なところ略さないで下さい」

 海馬と雅はふざけながらその空を見る。


「これでお返しになったのかな?」

「いーんじゃない?少なくとも私は」

「ならよかった」

 隼人と音河は静かにその空を見上げる。


「てか、こんなことで怒ってたのかよ」

「怒ってないわよ」

「・・・・・・」

 あからさまに嘘をつきやがった。

 と、心で悪態をつきながらもそんなことも忘れるような美しい空を見上げた。



 心が表れるようなその空を見上げて、それぞれが何を思っていたのかは分からないけど。


 自分の大切な人を想う気持ちがそこにあったことだけは、俺でも容易に想像できた。


 結局、お互いにその手を離すことなく、その日を終えることになったのだった。


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