08-語る口も無し-
2月に入ってしばらくしたのを覚えている。
肌寒さは一層強くなったような気がするが、そんなのが気にならないくらいに俺達は全員、心が凍えていた。
女子側からは話しかけようという行動は見られるが、男子側が受け入れようとしていない。心が狭い男子達だと笑うがいい。
俺はというと向こうからも何のアクションを起こされないし、俺も起こそうとはしない。寒さが一層強くなる気がした。
行動の時間は全てずらそうとした。しかし、向こう側もそれを行っているのか、全員が集合してしまう事も少なくは無かった。風呂で遭遇した事もあった。気まずい関係性の中での気まずい空気というものは一層修羅場に拍車を掛けるのだということを感じつつ、静かに出て行ったこともあった。仲直りした時のことが、とても恐い。
そうだ。
俺は仲直りしたいんだ。できれば何も悪い関係は無く終わらせたいと思っている。それでも、俺から頭を下げる事はなかった。特に俺の場合は、何に対して謝ればいいのかも分からない。向こう側から行動を起こしてこないのは、向こう側に何らかの後ろめたさがあるということだが、それが一体何なのかということは分からない。
俺は虎郷が好きだ。それを虎郷は多分知らなかったのだろう。最近知ったのだと思う。俺がそう「感じた」。恐らく音河や雅が教えたのだろう。余計な事をしてくれたものだな。と、格好つけてみるものの、実際、告白する勇気も無く終わった恋なのだから、全く格好よくも無いな、と反省した。
生活には支障を来たさないようにした。例えば、男女が会話をしなかったといっても、それはケンカしている間柄同士であって、俺の場合は音河と雅とは会話して、虎郷に伝えたい事があったら、そこを通じて伝えてもらうようにした。利用してないけれど。向こう側も伝えてくる事は無かった。音河と雅は俺に、虎郷と会話するように言ってくるかと思ったが、それは一度も無かった。まぁ、向こう側も同じ事が言えるからだろう。後ろめたさってところか。
そんな中、俺達は学校から時間をずらして帰宅した。
「・・・・・・」
リビングの扉が閉まっていて、そこに張り紙が貼ってあった。
「『男子厳禁』だってさ」
俺はそう2人に言う。
「・・・・・・頼まれたって入れないよ。響花が居るもん」
そう言って隼人は自分の部屋に戻った。
「・・・・・・あー・・・・・・王城、頼みがあるんだけど」
と言いながら隼人の部屋に入っていった。
俺は黙って自分の部屋に入り、意識を外す。
WR行き。
「・・・・・・ん?」
今日元さんがこちらを見た。
「ああ、嘉島。聞いたぜ。虎郷と会話してないんだってな。やきもちなんか焼くなよ。最低だなー」
「一行で現状を纏め上げてくれてありがとうございます」
「何か用?」
「今日元さんは東先輩のどこが好きなんですか?」
「人を見た目で判断せずに、相手をしっかり理解してくれるところ。少しキレやすいところもあるけど、それを俺がカバーできるくらいの優しさで包みたくなるところ」
早いな・・・・・・。
「何でそんなつらつらと言えるんですか・・・・・・?」
「好きな人の好きなところくらい、いつでも言えるくらいじゃないとな」
似たようなことまで言う・・・・・・。
「もういいです」
「あ、そう」
俺は帰ろうと意識を戻す。
「ああ、そうだ。明日は楽しみにしてろよ」
え。
起きた時、それは今日元さんの言う『明日』だった。
2月14日。
「あぁ・・・・・・そう」
俺の1番嬉しくない日が来てしまった。
何を楽しみにしろと・・・・・・?