06-背中を預けるその扉-
スーパーで鶏肉を買って、帰り道を進む。
「・・・・・・」
隼人も海馬も自分の非は認めた。それは間違いなく正しい。そして、いいことだと思う。
そして俺はこれから虎郷に尋ねる。俺の中では、問い詰めるのとほぼ同義だ。だって俺は悪くないから。そして、虎郷も悪くないから。
俺は今から最低になる。
そのために足を動かしている。
時間を掛けてみようと思う。どうせ、帰るのに時間が掛かるから。
俺が虎郷を好きになったのはいつのことだったろうか。と、考えてみれば。
もしかしたら、最初にぶつかった時だったかもしれない。俺はあの日から、彼女を守ろうとしていた。確か、電車から。
今の俺なら他人が傷ついたり、事件に巻き込まれることを知れば、全力で助けようとするだろう。だが、あの当時の俺は、他人に干渉する事を嫌っていた。他人がどうなろうが知った事ではなかった。そんな中で、俺は虎郷を助けたいと思った。
もちろん、夏休みの隼人との経験で俺の何かが変わっていただろうことも要因だろうけれど、それでも俺の中で何かがあったことは分かる。もし虎郷と出会っていなかったら、他人を守ろうとする俺もいないはずだから。
「やっぱりなぁ・・・・・・」
大好きなんだよ、俺は。アイツの事が。
なのに。
俺は今から、彼女を諦めなければならないのだ。
「ただいま」
俺は靴を脱いでリビングに向かう。
「おかえり」
「音河は?」
「部屋で告白の返事を考えているわ。雅は今日もその男子にしつこく誘われて、一緒に帰って――というか、雅がストーカーされている状態で、帰ってきたわ」
「・・・・・・そうか」
俺は鶏肉を置いてから、ソファーに座った。
「・・・・・・どうかしたのかしら?」
「・・・・・・昨日さ。俺、卵買いに行ったじゃん?」
「そうね」
「その時、お前何してた?」
「・・・・・・?」
うん、そりゃそうなるよな。
「お前・・・・・・誰かと一緒に居たんじゃないのか?」
「・・・・・・!?」
虎郷の表情が変わる。
「虎郷も告白されたんだろ?」
「・・・・・・」
「別に隠さなくてもいいのに」
俺は無理して笑う。でも、向こう側には無理しているとばれないように。
「よかったじゃん、虎郷」
「・・・・・・あの、嘉島君、私は別に――」
「何で、隠してたんだ?」
責めるような言い方になってしまった。別に悪くないのに。
「・・・・・・私も・・・・・・考える時間が欲しかったから」
「そっか。相談してくれてもよかったのに」
俺はまた、無理して笑う。
「あー・・・・・・。俺、今日は夕飯要らないから」
そう言って、俺はリビングを出る。
「嘉島く――」
バタンと。
俺は扉を閉めることで、声をシャットアウトした。
そして俺は自分の部屋に入り、鍵を閉めた。
「・・・・・・あぁ・・・・・・」
そのままそこにうずくまる。扉に自分の背中を預ける。
別にいいんだよ。虎郷は自分の青春をしているだけなんだ。俺が何かできることじゃない。俺が鑑賞していいことじゃないんだよ。
なのに、怒りは抑えられなくて。
虎郷は悪くないのに、責め立てるように言ってしまった。
「・・・・・・あ・・・・・・」
頬を伝う、冷たいものを感じる。
・・・・・・だっせ・・・・・・。
俺は最低だ。
自分の想いも伝えず、相手を悪く思って、嫉妬して。
俺は最低の男だ。
甘酸っぱい少年です
好きな人に他の意中の人ができると、意識して話さなくなります。
向こうも話さなくなりますよ