03-他人の目-
ゴメン、まじゴメン。
これ【恋愛】だわ。見たくない人は見なくてもいいけど、展開についていけなくなるかも!
「大変な事になりそうです」
偶然、全員が同じタイミングで帰ってきて、制服から着替えた後、昼食を取る事になって、その時に雅が言ったのだ。
「大変って?」
隼人がオムライス(本日の戦利品である卵)を食べながら言う。
「いえ、少し色々有りまして」
雅はそう言って、話を打ち切ろうとした。恐らく、女子にだけ相談したかった事を無意識に口に出していたのだろう。しかし、
「もしかして告白のことか?」
と俺が(冷静に考えると無頓着に)言い放ってしまった。
カタンと。
海馬と雅のスプーンが机に落ちて、音を鳴らす。
「あ」
しまった。簡単に言っていいことではなかったか。
その証拠に虎郷の目が俺を射るように見ている。音河は目を白黒させている。
「えー・・・・・・っと」
「雅。どういうことか説明しろ」
海馬が雅を睨む。
「あの・・・・・・えっと」
「彼女、昨日告白されたそうよ」
虎郷が答えた。
「虎郷さん!?」
「いいのよ。どうせいつかはばれる事じゃない」
と淡白に雅に応対する。
「そうなのか?」
海馬が雅を見る。
「はい・・・・・・。でも断ったんです」
「そう・・・・・・か」
そして安堵した表情になった。いや、安心するタイミングじゃないぞ。
「それで、大変というのは何があったんだい?」
と隼人が訊く。そうそう、それだよ。
「その男子がしつこいんです。断ったのに、一緒に帰ろうとしたり、メアド訊いてきたり・・・・・・」
「俺に任せろ」
海馬が立ち上がる。
「絶対ぶっ潰す!」
勢いあまってチキンライスが口から散布し、俺の顔に張り付く。
ああ、青春しているなぁ。だが、食べながら喋るのはいかがなものかと。
「・・・・・・ダメですよ」
雅は珍しく小さな声で言う。
「え?」
海馬はまさかの否定に対応できずに少しうろたえる。
「私は、学校で目立ちたくないんです。こんな髪色だからそれだけで凄く目立つのに・・・・・・」
「だからって・・・・・・お前は困ってるんだろ?」
「正先輩には関係有りません・・・・・・」
ギリ。
と、海馬の歯軋りが聞こえた。
「あ、いやそうじゃなくて」
それに気付いた雅は必死に弁解を試みるが、
「そうかよ」
海馬は呟いてからリビングを飛び出し、玄関から外に出て行った。
雅はそれから少し落ち込んだ面持ちで部屋へと戻っていった。
食器類を片付けて、俺達はソファーでくつろぐ。
「ケンカ・・・・・・しちゃったね」
音河がそう言って、苦笑する。
「海馬君が怒るのは珍しいね。別に敵対している相手でもないのに」
「それに弁解も聞こうとはしなかったわね。怒り心頭状態ね」
「まぁ・・・・・・関係無いって言われちゃー・・・・・・怒るよな」
そこで少しの沈黙が流れた。
「響花も告白されたのか?」
隼人は思い出したように訊く。・・・・・・待て。隼人の前で、音河の話はしていなかったはず・・・・・・。
「どして?」
「頬の緩みが、ぎこちない。響花が何か後ろめたい事を抱えている時の表情だ。ミヤビ君のときの過剰な反応とかから想定してみても、ただ、この現状に対応できていないだけじゃぁないっぽいから」
こんなときにも冷静分析か・・・・・・。
「まぁ、いつものことだけどね」
音河は笑う。
「あっそ。返事したの?」
「・・・・・・」
「まだなのか。いつもならさっさとするのに」
あ、隼人が少し怒ってる。
これは能力ではなく約半年で見つけた隼人の特徴である。淡々と相手を追い詰めていく動作をする。それは相手を犯罪者と同様に見ているから出来る行為だと、俺は考えている。
「王城君。触れすぎよ」
「僕と響花の問題だよ」
「男子は男子で悩みなさい。女子は女子で考えるから」
「・・・・・・分かったよ」
隼人は言って、ソファーに深く座り、背もたれに身を預けた。
あ。これは。
「・・・・・・寝たぜ」
「寝たわね」
まるで死んだような勢いで睡眠状態に体を持ち込む癖がある。いつも気分を張り詰めているからだ。
「・・・・・・隼人、超怒ってるね」
「ああ」
俺と音河の会話に、
「そうなの?」
と虎郷が入ってくる。
「・・・・・・私、部屋戻るよ」
音河はリビングから出て、そのまま部屋へと入っていった。
「ケンカ2連続かよ・・・・・・」
「どうする?私達もケンカしてみる?」
「っていいながらファイティングポーズをとるな。俺、死ぬ」
「そう。つまらないわね」
虎郷は手をおろす。
「どうして音河は返事してないんだ?」
俺は疑問を口にする。
「さぁ。私にはさっぱり」
「・・・・・・女子ってやっぱり世間の目とか気にするのか?」
「世間というか・・・・・・。まぁ、クラスでの立ち位置くらいは」
「俺推理」
宣言してから言う。
「音河は、結構告られている。そのたび、音河は断っているはず。だから、男子に高飛車とか言われたり、女子に嫉妬されたりする事があって、簡単に断れる状態じゃない・・・・・・とか」
「・・・・・・ま、ご想像にお任せするけれど」
正解ってことか。違う時は違うって言うから。
「だとすれば王城君は気付いているはずよね・・・・・・。そのくらいの事なら」
「隼人は・・・・・・まぁ、アレだよ。うん、男子にしか分からない世界だ」
「・・・・・・そう。そういう言い方するなら、貴方に女子の話はしないわ」
「いいよ。別に。どうせ教えてくれるんだから」
俺はそう言って、リビングから出た。
そして部屋に入り、その扉に背中を預けて座り込む。
「・・・・・・だよな、隼人」
そんな事は関係ないんだよ。君は自分のものであって欲しい。だから、他の女子の目とか男子の目とか気にせずに、自分のそばにいて欲しいんだ。
頭では分かっていても、簡単に受け入れられないんだよな。間違っている事も分かっているんだよな。
そして、次の日を迎えるのだが。
その日、俺と虎郷も話さなくなってしまう。