02-ブレーキ-
物語の展開が【恋愛】に近くなってきた。
僕。恋愛経験は皆無に等しい。
日曜日の授業は、午前中で終わることになっているらしい。
海馬は他の友人が話があるようで、授業が終わった瞬間に何処かへ連れていかれた。隼人は推薦入試とか言うので、先生に呼ばれていった。俺はとくに何も無かったので、誰よりも早く昇降口を出て帰途を進む。
「・・・・・・」
頭の中で、海馬のセリフが巡る。
「虎郷は・・・・・・どうするんだろう」
誰に聞くでもなくそう呟いた。近くに人がいないので、独り言ということになろうか。
「・・・・・・ん?」
携帯電話が震える。
着信メール 1件。
「あ」
俺の中の問題の渦中に居る虎郷からのメールだった。
『帰り道にあるスーパーが4時からタイムセールだから、勝ってきて』
勝ってきて!?戦闘かよ!
というか、俺にしかメールを送ってきていない・・・・・・。バラバラに送ったという線はなさそうなので、俺が早く帰るであろうことは理解できていたらしい。
「って!」
携帯電話を見る。表示されている時間は3:50。
「まじかよ・・・・・・!!」
ここからスーパーまで走って間に合うか否かだ。
足に力を込めて思いきり走り出した。
「間に合った・・・・・・」
3:57。ぎりぎりセーフということだ。
「タイムセールか・・・・・・」
あれ?商品について聞いてないぞ。そもそもどこで始まるんだ?
と思ったとき、
『タイムセールです!卵が2パックで100!数量限定です!』
という放送が聞こえた。
そこで俺は思った。
『勝ってきて』は打ち間違いだと思っていたが、言いえて妙だった。
おばさんたちと俺の戦争が勃発した。
「ただいま・・・・・・」
疲れきった体で俺は帰宅した。
「おかえり。何パック買えた?」
虎郷がそう言って俺の左手で掴んでいる卵を見る。
「6。もう行きたくないな・・・・・・あれ?」
虎郷以外が居ない。
「音河と雅は?」
「響花は少し・・・・・・諸事情ね。雅ちゃんは・・・・・・諸事情ね」
いつの間にか雅が『常盤』から『雅ちゃん』へ昇格していた。
女子はどこで結束が固まるか分からないからなー・・・・・・。
「何だよ、その諸事情ってのは」
「色々よ。まぁ貴方には支障は無いから」
そう言ってから、卵の入っている袋を受け取った。
「割れてないか?」
「大丈夫のようね。ありがとう」
と虎郷はそれだけ言うと、
「王城君と海馬君は?」
と訊きながらキッチンの冷蔵庫に丁寧に卵のパックを入れていく。
「しょじじょーだ」
「貴方の思っている諸事情と私が言っていた諸事情は絶対違うわよ」
「じゃあ教えろよ」
「セクハラ」
「はぁ!?」
突然の発言に俺は思わず叫ぶ。
「プライバシーくらい考えなさい」
「・・・・・・もしかしてあの2人が告られてたりしてな」
冗談のつもりだった。
「そうよ。響花は今日、雅ちゃんは昨日告られて私達に相談してきたわ」
「え・・・・・・マジ?」
「まじるんるん」
え・・・・・・。
何だこの女子告白されている率。
「響花は毎度のことだけれど、雅ちゃんは珍しい経験だったみたいね。どうすればいいか訊いてきたわ」
「どうすればって・・・・・・海馬が居るのに、そりゃダメに決まっているだろう?」
「ええ。だからどう断ればいいのか分からないって、相談してきたのよ」
「・・・・・・一途だなー・・・・・・」
それはそれは、まぁ真面目な事だ。
「でも、別に海馬君に執着しなくてもいいとは思うわよ」
「・・・・・・え?」
「だって、男女に別れはつきものでしょう?」
「・・・・・・」
「学生の愛が永遠なんて・・・・・・そんなのは極少数だと思うわよ。王城君と響花は置いておいてね」
・・・・・・そうか。
ずっと一緒じゃないんだ。だって、人の気持ちだから。
だから、俺が虎郷が好きだったとしても・・・・・・そしてそれがたとえ実ったとしても。
それが永遠なはずが無い。
悲しい現実に脆い俺の心は、ブレーキを強めた。
ブレーキくらいならあるよ。
簡単には告白できないよね。
僕のブレーキは全開で、アクセルには足も手も伸ばそうとしない。