60-仲間-
最後の最後まで残しておいたサブタイトルです!
最終回なので長いですよ。
王城家。
俺はこれを初めて見た。
「・・・・・・何というか」
思ったよりも豪邸ではない。
マンションを一軒丸ごと買っても、王城の資財の5%にも満たないほどの金を持っている王城グループの人間の家とは思えない。しかも社長と会長が住んでいるようには。
だってその家は、言ってしまえば海馬の家よりも小さいのだから。
3階建てで、庭にはお祖母さんやお祖父さんの作るような小さな畑と盆栽があり、母親の飾りそうな花がある。庶民的な家を少し大きくした程度の印象しか受けない。
「・・・・・・もっと凄いと思った」
海馬が失礼にも呟く。
「別に金だけのために生きているわけではない。僕は性格の悪い人間ではないようにしたいと思っているし、うちの家系は代々、表舞台にたって行動はしても、一般的生活には支障をきたしたくないらしい」
とそれだけ隼人は答える。
「あと、家はこれ一軒だけじゃないし」
と言ったのは音河だった。
隼人はその発言に睨むという対応で答えてから、門(があるのだ。ビックリである)を開けてから家の中に入っていった。俺達もをれを追いかけて、家にお邪魔した。
「・・・・・・あ」
中にはジャージ姿の若い女性が1人。外見年齢、20前後。髪の色は金髪。
「おかえり」
「別に帰ってきたわけじゃない」
「あっそ」
と淡白に反応した後、後ろの俺達を見て、
「隼人、お友達?」
「仲間」
「そう。迷惑かけるわね」
と言って、女性は1度お辞儀した。
「あの、お姉さんですか?」
雅が訊く。
「僕に姉は居ない」
「え、じゃあ・・・・・・」
「息子がお世話になってます」
と余り感情のこもらない声でそう挨拶した。
ということは、
「ああ、お母様でしたか」
と雅が言う。
いや若すぎ。外見で20前後の母て。実質は35歳くらい(と仮定すれば、隼人を産んだのは20歳くらい)だろう。
「ああ、後ろの娘は、響花ちゃんか。うん、息子をよろしく頼むよ」
「はい」
まるで父親のようなセリフに対して、音河は慣れたように返事する。
「あ、お義父さんと鉋は3階だから」
と言ってから母親は何処かに消えていった。
「何というか・・・・・・」
「さばさばした姉ちゃんって感じだな」
俺のセリフに海馬がそう付け足した。
ジャージって・・・・・・。それが王城の社長の奥様なのか?
「ああ見えて実はしっかりしてるんだよ。ONとOFFとか特に」
音河がフォローを入れる。
「でしょうね」
虎郷は淡白にそう言った。
・・・・・・あ。
「隼人の母さんって、虎郷に似てるな」
「・・・・・・ああ、そういえばそうだね」
と隼人は思い出したように言った。
「私ってあんな感じなの?」
虎郷がそう言ったが、まぁ軽く無視しておいた。
「3階って・・・・・・お祖父さんなのに腰とか疲れないんですかね?」
と雅が心配する。
「うちの父を祖母が産んだのが、20だから。祖父が18の時。それで今父親が33だから、祖父は51」
「若いな・・・・・・」
「結婚相手は早々に決まっていたから、そういうのもさっさと終わらせれたんじゃないか?僕には興味ないけれど」
と階段を昇り始めた。
2階は和室造りになっていた。2階までは階段があったが、そこで途切れている。
「3階への階段は別の場所。王城グループ本社ビルと一緒の構造だよ」
「へー・・・・・・」
どうしてそんな構造にしているんだろう・・・・・・。
「会社の場合は知らないけれど、この家の場合は家族間の会話を増やすため。ここはいつもは祖父と祖母が使用するから」
と隼人は答えてから、いつも通りのように廊下を進む。マイペースだなー、と思う反面、こういう適当さは久しぶりだとも思う。まぁ、一週間くらいしか離れてないわけだが。
なんとなくそっと和室を覗くと、老婦人の姿が見えた。隼人の祖母だろうか。
・・・・・・え。
外人!?金髪じゃん!!ああ・・・・・・だから隼人は金髪なのか。そういえば母親も金髪だった。
と、階段に到着した。
「行こうか」
隼人が言ってから階段を上がる。
次に俺が上がり、虎郷、海馬、音河、雅が上がる。
3階に上がってから俺は驚いた。
そこから見た様子は、俺達の家の玄関からリビングまでとそっくりだったのだ。
「これは・・・・・・」
「この階が王城家だ」
隼人がそう答える。そして続ける。
「1階は来客専用の仮の『家族』をする場所。2階は、家族で過ごすための空間に見える、『仕事場』なんだよ。そしてこの階が、社長が父になり、社長秘書が母になり、会長が祖父になり、議会委員長が祖母になり、社長後継者が息子になる場所なのさ」
言いながら廊下を歩く。横にあるトイレや洗面所、バスルームまで全て位置が同じである。各々の部屋も同じ場所にあるということか。
「僕の唯一の居場所だったところさ」
隼人はそう言って、廊下を奥まで行ってからリビングへの扉を開いた。
「よう、遅かったな」
「ちーっす」
目の前には不思議現象。
大人びたようなセリフを口から吐いたのは、真黒な髪をして正装している男性だった。オールバックに眼鏡という人を選ぶファッションを見事着こなしている。
対して若者言葉で俺達に応対したのは、黒髪の中に金髪を持ち、髑髏のTシャツにチェック柄のシャツを羽織っている青年だった。ジーパンを履いて、裸足で隼人がよく座るソファーに座っている。
「・・・・・・誰!?」
俺は思わず叫んだ。
「マジでなんだ?黒髪の人は、父親なんだろうけど・・・・・・」
海馬がうろたえる。
「そこの青年さんは兄かしら?」
彼は冷静に分析する。
「何か・・・・・・凄いですね」
雅は曖昧判定を認識した。
「ち・・・・・・違うよ」
音河が少し、おびえた様子で言う。
「あれは」
隼人が口を開く。
「あの黒と黄色のキリン青年が社長のくそ親父で、後ろの黒髪のしっかりした男性がお祖父様だ」
関係が分かりやすい紹介でした。
ていうか、33歳若いし。51も若いし。何なんだ、こいつ等は。
「んよっとぉ!」
父・・・・・・鉋さんがソファーから飛ぶようにして立ち上がる。
「よぉ!お前らがアレだな?王城グループをドガーンした奴らだな?」
「あ・・・・・・はい」
「ああ、いいよいいよ、気にすんなって!俺は今回のために王城グループを実質的に捨てて別の場所に移してんだよ。新生王城グループが見えるから待っときなって!」
「え・・・・・・?」
そんなことまでしてたのか・・・・・・。
皆も同様の顔つきをしている。
1人を除いて。
「だろうね。アンタならそれくらいはやると思っていた」
「親父にアンタってなんだよ」
鉋さんはそう言ってから笑う。
「ま、隼人が俺を忌み嫌うのも理解できなくないけどにー」
茶化すように彼は言うと
「黙れ、鉋。お前の欠点は何でも完璧にこなす割りに、うるさいことだ」
と祖父、椎名さんに怒られる。
「うっせなー親父は。欠点ばっか探すなっつの」
鉋さんは椎名さんを睨む。
「で。何の用だ?」
椎名さんはそう言って隼人を見る。
「分かってますよね?」
「それも含めて、お前の解答を聞く」
椎名さんはソファーに座り込んだ。貫禄ある大人って感じだ。本当は51歳なんだけれど。
「僕らは、王城グループを越えます」
隼人は言う。
「そしてここに居るメンバーと、ご存知の東先輩。そしてもう1人刑務所に居る今日元さん・・・・・・それが僕の居場所で、仲間です」
「・・・・・・OKだ」
椎名は言ってから立ち上がる。
「そいつらが裏切る可能性は?」
鉋さんが訊く。
「ないね。アンタの幹部達は裏切ったけど」
「あいつらは『幹部』だろう?俺の信用できる奴はそんなポジションにはおかない。現に信用できる奴のうち1人は俺の秘書兼妻だろうに」
鉋さんは少しムキになって言う。
「僕らは繋がっているから、絶対に仲間が終わることは無い」
「つながるって何で?心とか?」
鉋さんは笑う。
「右手と左手の法則だ」
「は?」
「僕が今考えた」
隼人がそういうと
「ああ、なるほど」
とまず椎名さんが納得した。
「・・・・・・ああ、そういうこと」
それから鉋さんが理解する。
「へぇ・・・・・・。面白そうだな」
椎名さんが笑みを浮かべる。そして
「隼人・・・・・・帰れ」
と言った。
「終いだ。今日のところは帰れ」
「・・・・・・」
「後、たまには帰って来い。ここでは王城グループじゃなくて、1つの家族だ」
「・・・・・・暇があったら、そうさせて頂きます」
隼人はそう言ってリビングの扉から出て行く。
俺達もそれを追いかける。
「あー、君らは待って」
鉋さんが俺達に言う。
「ほら、アイツ不器用だから、あんまり言わないだろうけどさ」
「だからこそ、俺らから伝えておきたい」
鉋さんのセリフに椎名さんが続ける。
「感謝する。出来るだけ長く、アイツの仲間で居てくれ」
「といった感じですかね」
「いーねー。青春って感じだ。行けなかったのが残念だ」
WRで今日元さんと会話を交わす。
「あの人たちは僕に王城を越える覚悟があるかどうかと、信じられる仲間を見せることを求めていたんだろう。そのために大掛かりことをしたわけだ」
つまり、王城グループの危機は演技だったわけだ。もちろん、実質的には演技ではなく、王城グループを仙波が占拠したことは事実なのだが、まぁ信用できない者を除去できた点ではよかったのかもしれない――いや。それも計算のうちか。
「おい、こらぁ!てめぇら!さっさと手伝えや!」
東先輩が遠くから叫ぶ。
WRのカウンターを派手に飾っているようだ。
虎郷はキッチンで料理作り。
「というか、部屋にしたんですね。今日元さん」
「そりゃそうだ。今日を何の日だと思ってんだ」
「そんなことまで出来るんですか・・・・・・?」
「外の様子だって出来るぜ?」
そう言ってから今日元さんは酒瓶を取り出す。
「20歳未満飲酒禁止です」
「固いこというな」
「正式に逮捕してもらいますよ?」
「ごめんなさい」
隼人と今日元さんの会話を見ながら俺は机の準備をする。
「雅、そこの飾り取って」
人々に願いはつきものだ。
「自分で取ってください、正先輩」
付き物であり、憑き物だ。
「嘉島君、これテーブルに運んで」
求めることは終わらず、欲は留まることを知らない。
「へーい。今日元さん、壁とかは飾らないのか?」
醜くても良いと願う。くだらなくても良いと請う。
「飾らなくてもいいぜ。俺が世界を変えてやる」
何もかもを欲しがり、希う。全てのものを手に入れるため、望む。
「おいこら!隼人ぉ!手伝えって言ってんだよ!」
希望とは本来そういう意味なのかもしれない。
「隼人ー、さっさと手伝わないと東先輩がうるさいよー」
それでも俺達は願う。請う。希う。望む。欲しがる。好む。
「へいへい」
それが間違っているとは思わないから。それが美しいと信じているから。
俺も間違っていると思ったことは無い。
これからも俺達は求め続けるだろう。
でも止まるつもりはない。
願いはいつの時代も留まらないのだから。
欲望は人間の正直な気持ち。本能だ。それを止める事を俺は良しとしない。
「っしゃ。準備完了だな」
人間は人間らしく生きていけばいいのだから。
俺は仲間達と共に生きていく。
「テーブルの準備完了だぜ」
「全員、飲み物あるかしら?」
「あるある。大丈夫、大丈夫」
「よし。じゃあ、雪見といこうか」
今日元さんが指をパチンと鳴らした。
床が雪になる。空からも雪が降る。
壁には周りのビルや住宅、店などの灯りが囲むように照らし出す、一本の木。
いろいろな電飾や飾りで彩られたそれを俺達は見上げる。
どんな感情で見ていたかは分からないけれど、まぁ、言いたい事は一緒だろう。
俺達はそれぞれのコップを構えた。
「メリークリスマス!」
コップ同士はぶつかり、音を鳴らす。
きれいな音を何度も鳴らしながら、宴は始まった。
そのまま騒ぎ立て、次の日まで騒いでいたんだと思う。覚えてないけれど。
どんな会話をしたかも良く覚えていない。
全く、ここは無秩序だなぁ。
でもまぁ、そりゃそうだ。ここは俺達だけの世界だから。
丸く収まらないのがこの世界だ。
これで終わりです。
ぴったり60で終わらせれました!
総合的な感想や評価をお願いします!
感想ついでに好きなキャラを教えていただけると助かります!参考にさせていただきます。
ここからは番外編として、彼らの残りの中学生活等を描いていく所存です!
また、シリーズとして、出会いの夏休みを描きたいと思っています!
これからもよろしくお願いします!