56-映画-
「キングダム」
隼人は言った。
方眼用紙のような世界が来る。
先ほどとは違い、別空間に俺達を誘おうとしている。
「 !」
俺は叫んだ。
カッ!
と。
目映い光と共に、空間が削除される。
方眼用紙の網目は消え去る。
「・・・・・・君・・・・・・一体何をした!」
「・・・・・・さぁ」
「答えろ!」
隼人はまた走り出した。
視認する。
攻撃の動きを。
俺に蹴りを繰り出してくるのが見えた。
「さっせかよ!」
5秒後、俺の頭蓋を狙うように上段蹴りを繰り出す。
横薙ぎに振るった脚を俺は背を向けるようにして避ける。
「予想通り!」
隼人はそう言ってから、右手に持っていた地面の破片を投げつける。
俺はその破片が隼人の手から出ると同時に同じものを投げた。
その破片を見ずに。
カン!
と、刃同士が当った音をして破片は地面へと落下する。
「!」
「こっちから行くぜ」
俺は瞬時に身を翻して隼人の懐に潜り込む。
「しま――」
「うおりゃ!」
俺は右手を突き出した。
「ぐ!」
「うおおおおお!」
右手をねじるようにしてから、元に戻す。
「な・・・・・・!」
乱回転を加えて、さらに吹き飛ばす。
「ぐあああ!」
隼人は腹部を抉り取るような衝撃を受けた・・・・・・はずだ。回転力を加えたのだから。
「君は一体・・・・・・何をしているんだ!」
「俺は俺であり続けようとしているだけだ!お前みたいに折れたりしない!」
「知ったような口を・・・・・・利くなああああ!」
彼は瞬間移動のような速度で真っ直ぐ突っ込んでくる。
「俺には見えるんだよ・・・・・・お前の動きが」
そう。
見える。理解できる。分かる。
「お前は・・・・・・俺には勝てない!」
俺は隼人が瞬間的に現れたと同時に、隼人と同じ方法を使用する。
「・・・・・・!?」
「お前の頭なら、足への伝達速度を異常に早める事によって、反射の速度と同じレベルで脚を動かせる。それを連続して行う事によって、縮地法とまではいかないが、それなりに高速で動く事が出来る」
「・・・・・・何故、それを君が出来る」
「俺には、お前とは違うものが憑いている」
俺は隼人から遠ざかるようにして瞬間移動を中止した。
「だからお前は俺には勝てない」
「・・・・・・だから・・・・・・」
隼人は怒る。
怒りを露呈し右手に拳を固めた。
「君は一体何なんだ!」
隼人は地面のタイルを捲り上げ、俺に投げつけた。
「ああああああああああああ!!」
俺は叫ぶ。
地面が捲りあがり、タイルが数枚空中を舞う。
それらに隼人の投げたタイルは防御され、無残に落ちる。
「だから、無理だ。諦めろ。1人のお前には勝てない」
「君だって1人だ!一対一じゃないか!」
「違う。俺にはいつだって仲間が居る」
「黙れぇぇぇぇえええ!」
隼人が暴走し始めた。
「俺が絶対止める!」
隼人は俺の言葉を聞いて尚、止まることなく、怒りに固めていた右拳を前に突き出した。
「キングダム!」
さっきとは違い、叫ぶ。
だから、俺はさっきと同じように叫ぶ。右手を突き出して。
「キングダム!」
カッ!
と、閃光が目を焼く。
「・・・・・・何を・・・・・・君は一体何をしているんだ!」
隼人は息を切らしながら叫んだ。
「・・・・・・神様から与えられた使命。迫害から逃れるために導き出した絶望。自分の走るべき運命」
「・・・・・・?」
「お前は自分の能力をそう言った。でも、俺達は違う。俺達の能力は、使命でも絶望でも運命でもない」
俺は続ける。
「当然、能力なんかでもない。俺達はアクターだ。俳優なんだよ」
「・・・・・・」
「俳優は1人じゃ何も出来ない。それが俺の見解だ。何人もの人間が集まってこそ、俺達、俳優は完成するんだ」
俺は自分を指差す。
「お前の攻撃を見破った『近未来予知』。お前の攻撃を見ずに石を投げて応対した『運』。お前の腹を抉り取ろうとした『回転』。お前の瞬間移動を利用できた『電波化』と『移動』。お前の攻撃から守ってくれた『声』。そして」
隼人を指差す。
「お前の王宮を滅ぼした『王宮』だ」
「・・・・・・つまり」
「俺の中には仲間が居る。俺を護らんとする仲間が居る。俺と一緒に演じてくれる仲間が居る」
隼人にはないもので。
今、俺が持っているもの。
「俳優達が集まって1つの仲間になる。俺はこれを」
背後に仲間達を感じながら、俺は言った。
「仲間と名づける」
1人では創れないもの。1人では出来ない事。1人では分からない時。
必ず、それはあるから。
絶対に離れなれないから。