54-屋上-
学校じゃないから、屋上だって開いているよ?
ていうか『マンガとかではよく屋上は舞台に使われるが、普通は開いていない』
みたいなくだりはもう古いよね。
だから、『マンガが開けてんだから、もう明け渡そうぜ?』みたいな先生募集。
屋上。空気が張り詰めているかと思えば、何のことは無い。
いや、何のことは無いわけではないけれど。
強く風が吹きすさぶ。
「風・・・・・・ああ、そうか。台風だったけ?」
「そうだよ。しかも雪だ。冬だからね」
「ホワイトクリスマスか」
「・・・・・・イブなんだけど?」
それでもホワイトクリスマスだ。
俺はそう思った。
「屋上だから風はより強くなっているけれど」
「だな」
俺達はいつもどおりの会話で屋上を見渡した。
「僕を取り戻しに来たんだっけ?」
「ああ。だから――」
「僕は帰らないよ」
隼人は質問の前に答える。
「絶対」
念を押す。
「隼人、虎郷が言っていたけど、お前可能性に気付いてないってさ」
「・・・・・・何それ?僕の進化の可能性?」
「ちげーよ。ったく・・・・・・」
俺はそう言ってから立ち止まる。
「どうしても継がなきゃならなかったのか?」
隼人は歩き続ける。
「・・・・・・多分」
「他に方法は無かったってのかよ」
「無いよ。継ぐか継がないか・・・・・・2択」
隼人も止まる。
屋上はヘリポートだったらしい。
Hの字を挟んで、円の線上立つ。
「隼人・・・・・・もう1回だけ訊くぞ」
「・・・・・・」
「帰って来い」
「ソウメイ君、適当な事を言うのはやめたまえよ。僕だって決断したんだ」
「ソウメイじゃない、奏明だ」
「・・・・・・最近は否定しなかったのに、突然だね」
隼人はそう言って笑う。
「お前の決断くらい、簡単に揺るがしてやるよ」
俺は笑わない。
睨む。
「隼人・・・・・・腕引きちぎってでも帰るぞ」
「奏明・・・・・・君をそう呼ぶようなときがくるとは思わなかったよ」
雪が途端に止んだ。
・・・・・・。
「キングダムか?」
「似て非なるもの・・・・・・といっておこうか。皆を守るために技だ。支障を与えるものを否定する能力だ」
「あっそ」
風も止む。
台風が去ったかのように。でも、前のような方眼紙の網目が地面には存在しない。
「!」
隼人の蹴りが飛んできた。
「くそ!」
右手で靴を掴んで、投げ飛ばすように後ろに引っ張った。
隼人は空中を舞う。そして地面に手をついて受身を取る。
「急に何してくれてんだ!」
「腕引きちぎるんだろ?正当防衛的な」
「比喩だ!『腕引きちぎってでも』だ!殺すぞ!」
「正当防衛キック!」
脚が伸びるように眼前に迫る。
「イナバウアー!」
叫びながら俺はブリッジの態勢。
「む」
俺の上を隼人の体が通過する。
「殺人シュート!」
その腹を突き上げるように蹴る。
ドガ!
・・・・・・え。
そのまま止まってる。
「痛い!」
隼人は地面へと転がり、受身を取ってから立ち上がる。
「おま・・・・・・腹筋すげー!?」
「キングダムで痛みを減らしてメチャクチャ腹筋、解除しても痛くないけど、次の日筋肉痛です。以上を繰り返せばいい」
「はー・・・・・・凄い事すんな」
言いながら、俺はブリッジの態勢から逆立ちしてそれからもう一度地面に脚をついて戻る。
「身長伸びなくなるな、165センチマン」
「君がでかいんだ、173センチマン」
こんなところで個人情報出すべきじゃないけれど。
というか。
「案外・・・・・・」
「長期戦になりそうだね」
さて。
乱戦開始どえー。