49-幸運-
なんとなく予想つきますよね?
彼がどこと無く関わる話ですよ。
男の目は怒りに満ちているというのが良く分かる。
しかし・・・・・・異常だ。
「――って嘉島!?お前、背中!」
海馬が嘉島の背を見て、叫んだ。
「え?・・・・・・あぁ、まぁ、到達していても何とかなんじゃねーのかぁあああっとぁ!?」
嘉島がそんな状況ながら投げ飛ばされる。
「早く治せ!」
海馬は音河のところに嘉島を投げた。
「やってみる」
音河はそう呟いて、口を嘉島の傷に近づけた。
「ヒーリング・ボリューム」
静かにそう言って、「コォー・・・・・・」という、静かな吐息とその音を傷に当てていく。
嘉島の背中は少しずつながら治っていった。
「さて、こっちの処理はこっちでやらないとなぁ・・・・・・・」
嘉島を放置して、海馬と虎郷と雅は、男のほうを見る。コイツが木好だろう。
「てめーら、殺すぞ。お前らも嘉島の仲間なんだろ?虎郷の仲間なんだろ?」
「それがわかってんなら、殺すの許すわけ無いだろ?」
「許しなんかいらねーよ。勝手に殺す!」
木好は炎を右手から前方へと放出した。
「電気の次は炎ですか」
冷静に雅が言ってから、しゃがみつつ避ける。
電気ほど早くは無いので、避けるのは簡単なようだ。
が。
「死ねぼけがぁぁぁぁぁぁああああ!!」
木好の怒りの増幅と共鳴するように炎の勢いと温度、さらに大きさが変化する。
「こりゃ避ける避けないの問題じゃねーな・・・・・・」
海馬はそう呟いてから構えた。
木好が歩いた床は、ほとんど塗装は剥がれ落ちている。断熱材でも使われているのかは分からないが、恐らく王城グループの産業の賜物と言ったところだろう。
「消し炭にしてやる!」
大きくなった炎をさっきと同様で、前方へと放出する。
「はぁ!」
雅はその場で回転して風を生む。風と炎が衝突して、気流を生んだ。風が炎を包み込もうとしている。しかし、炎の勢いを弱まらせ、大きさを減らす事は出来たものの、変わることなく炎は真っ直ぐ雅の方向を目指す。雅は回転していたため、回避は出来ない。
「雅ィ!」
海馬が叫びながら、雅の方向に向かって走り出す。炎のスピードと大きさは変わったため、雅の元へたどり着くことは出来るだろうが、そうすれば海馬が炎に直撃する事は免れないだろう。
「ダメです!正先輩!」
それでも海馬は止まることなく、雅を抱き上げるように持ち上げてから炎を避けようとする。
「くッ・・・・・・!」
炎は海馬の肩当りを完全に喰うように燃やすだろう。
万事休す。
そう思われた時。
雨が降った。俺からすれば降らした事になるのだが。
正確には雨ではなく『火災用スプリンクラー』なのだが。
『本当にビックリするくらい運がいいな、海馬』
俺は海馬にそう語りかける。
海馬は雅を抱き上げたまま、呆けるように立っていた。虎郷と音河は不思議そうな顔。嘉島の顔は「信じていました」といわんばかりの表情だった。
「待ってました・・・・・・今日元さん」
嘉島は、俺の名前を呼んで笑った。
本当は題名は『降雨』にする予定だったんですけどね。
それだと、スプリンクラーの件がばれるので。