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丸く収まったこの世界  作者: 榊屋
第五章 失って気づくこの世界
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47-開放-

 突然ですが、風というか、空気の匂いって分かります?


 どことなく、何か、感じる時がたまにあります。


 いいとか悪いではなく、『気持ちいい』匂いなんですよね。

 何が原因かと尋ねられれば、真っ直ぐに答えられる。


 俺だ。


 こんなことまで虎郷の所為にはしないし、ならないし、出来ない。


「嘉島君!!」

 もう一度しっかりと虎郷は俺の名前を呼ぶ。

「・・・・・・セー・・・・・・フ」

 背中に強い熱を感じる。肌は間違いなく貫通している。骨に到達しているかもしれない。

 俺はそのまま前傾姿勢に屈む。

 はっきり言って、本当はこのまま倒れてしまいたい。

 けれどそんなことをすれば、間違いなく虎郷が殺される。


 だから俺はここで倒れるにはいかないのだ。


 俺は死んでも虎郷を守ってみせると決めたのだから。

「どうして・・・・・・?」

 虎郷は目に涙を溜めながら俺に向かって言った。


「どうしてこんなことを・・・・・・」

 虎郷はさらに続ける。


「私が死ねば・・・・・・済む事なのに」

 さっきも言ったようなことを虎郷は言う。

「・・・・・・」

「それで貴方は・・・・・・傷つかなくていいのに」

 瞳から涙がこぼれ、頬をつたう。


「・・・・・・ダメだ」


 俺はそれを見て、静かながらも言った。

「・・・・・・さっきも言ったろ・・・・・・それはダメだ」

 痛みが酷いがさらに続ける。

「お前を生かすために・・・・・・隼人はお前を助けたんだ・・・・・・。お前の心を解き放ったんだ」

「でも――」

「それに」

 言葉を遮って続ける。

「お前は・・・・・・人が死ぬのを見たくは無いはずだ。だから・・・・・・あの日、あんなにも必死になって助けたんだ。電車に乗ろうとする人たちを・・・・・・」

「・・・・・・」

「なのに、お前が死ぬなんて・・・・・・そんなのは俺が許さない」

 何て。

 珍しくも俺は嘘をつく。

 本当は単純なのに。


 俺はお前に死んで欲しくないんだ。いつまでも一緒に居て欲しい。だからお前を死んでも守る。


「だから・・・・・・お前は死ぬな」

「・・・・・・」

 彼女はこれでもかと言わんばかりの涙を流す。


 自分の心を解き放った、


 隼人に助けられた、


 自分を助けた、


 あの日のように。


「心を解き放つんだ。負けるな。自分に」

 精一杯の力で俺はそう言ってから、痛みに体を伏した。

 

「別れの挨拶は済んだか?」

 木好さんはこの状況でもそう言う。

 虎郷は下を見て涙をこぼしている。

 俺は渾身の力で木好さんを睨む。

「ったく・・・・・・待ってやっただけありがたいと思えよ。こんな茶番に付き合わされて・・・・・・」

 木好さんはそう言って右手に炎を纏った。

「じゃ、虎郷、一緒に逝こう」

 木好さんはそう言ってから、虎郷に向かって拳を振るう。



 ジュ・・・・・・


 と、涙は炎に掠め取られて、蒸発するが。


 虎郷の拳はしっかりと木好さんの腹部を貫かんというほどの強さで衝突した。


「な・・・・・・」

 木好さんは突然の攻撃に対応できず、思いきり4メートル近く吹っ飛び、無様に倒れた。


「・・・・・・立ちなさい。あなたに私は殺せない事を教えてあげる」

「虎郷ォ・・・・・・お前もか!!」

 木好さんは、またも怒りの炎に身を包む。

 憤怒の炎か・・・・・・いや、或いは、嫉妬の炎なのかもしれないが。


「ぶっ殺す!」

 木好さんはその姿で虎郷に突っ込んだ。

「もう俺に不意打ちは効かねぇ!」

「あぁ、そう。私はそんな卑怯ではないわ」

 そして、炎を身に纏った木好さんは虎郷に拳を振るいながら、

「お前に今の俺がなぐ――」

 木好さんはまたも吹っ飛んだ。

 恐らく、炎に纏われた体に触れられるはずがないと、高を括っていたのだろう。

 しかし虎郷はそんな事は関係ないように、真っ直ぐ殴り飛ばした。

「おま・・・・・・はぁ!?」

 木好さんは倒れた状態で虎郷に向かって叫ぶ。

「もう恐いものも、痛いものも無い。私は今を戦わなくてはならないの。それが私なりのけじめ」

 虎郷はそう言って、軽い火傷を負った拳を見せた。

 見た目は痛そうだ。

 しかし、これ以上彼女は痛いものはないのかも知れない。

 恐い目も痛い目も全て受けた彼女は、今、木好さんを倒すことにためらいなんてない。


「・・・・・・じゃあ、こっちは卑怯な方法で行くぜ?」

 木好さんは、傷ついた体で余裕を見せる。

「・・・・・・!」

 消えた。

 瞬間移動だ。

「・・・・・・やばい・・・・・・!」

 隼人の頭脳は、木好さんの動きを見て、行動できた。あれはアイツの脳があったからこそ出来たもの。

 そして俺も、自分でも良く分からないが、突然、向こう側の動きを『分かる』ようになった。

 しかし。


 虎郷にはそれに対処する方法が無い。


「虎郷!」

 俺は痛みに悶えながらも叫ぶ。

「・・・・・・大丈夫。どんな手を使ってでも私は勝つ」

 そう言って虎郷は仁王立ちでその場で止まる。そしてゆっくり呼吸する。


 木好さんは炎を消している。動きは目では追えない。

 俺には見えているが、虎郷に見えているとは限らない。


 そして。

 

 木好さんの手が虎郷の左側から伸びてきた。

 ドガァ!


 と。

 虎郷の拳が、木好さんをたたきつけた。


「何・・・・・・で・・・・・・」

 木好さんはそう呟きながら、天井を向いたまま倒れた。


「私の能力は未来予知。それを近未来的にしたの。ありがとう、一也」

 そう言って虎郷は木好さんを見下した。


「貴方への怒りと憎しみで、私は進化することが出来た」

 そう言った虎郷の目には涙があったが、瞳には明らかな怒りが映っていた。

 

 さて、虎郷さんも進化したわけですが。


 海馬君が進化していない理由はちゃんとあります。


 が、シリーズ化して、後々の出現です。覚えて置いてください。

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