44-炎々-
焔焔に滅せずんば炎炎を若何せん
事がまだ小さいときに防ぎ止めなければ、遂には大事になって手のつけようがなくなる。
木好さんは右手と左手を両方とも前方に掲げている。
「くっそ・・・・・・」
俺は戦闘態勢を取る。
しかし。
「・・・・・・!?」
虎郷は動かない。
いや、動けない。
「虎郷!しっかりしろよ!」
「・・・・・・」
今までしっかりしていた。木好さんの情報を聞いても、何の変動も起こっていなかった。のに。
今はこうして動きを封じられたように、何の行動も起こさない。
心が・・・・・・解き放ったはずの心が、戻ろうとしている。閉じようとしている。
俺はどことなくそう感じた。
「何だ?動かないのか?」
木好さんは俺達にそういうと、掲げた手を下げた。
「心配すんなよ、火水。俺はお前は殺さないから」
「・・・・・・」
「面倒だけど、頑張って調節して、嘉島だけ殺すから」
言ったが早いか、彼の姿はそこから消えた。
瞬間移動。
別に奇術、魔術の類ではなく、彼の手から出る炎の発射時の力の反作用だ。
でも、俺には分かる。
どこに攻撃が来るのか。
「右!」
俺は左手を突き出した。
ドガ!
と、木好さんの右手にぶつける。
「・・・・・・へぇ、成長したんだな」
「成長期ですから」
「ざけんな」
木好さんはそのまま、右手に力を込めて思い切り俺を吹き飛ばす。力技かよ・・・・・・。
「だったら俺だって強いってところを見せてやんぜ」
木好さんはそのまま突っ込んでくる。同じように右手を突き出す。
「!」
しかし、今回は燃えている。右手が炎を纏っている。
「そういや・・・・・・そうだった」
俺はそう呟いてから右手を地面につけて、壁を作る。
「そんなの訊くわけねーぜ!!」
木好さんはそう叫んでから、その壁に右手を叩きつける。
言ってもコンクリートだ。普通の人では壊せない。だから大丈夫だと、俺は高を括っていた
「!」
右手はその壁を溶かし始め、コンクリートは泥のようになる。そしてそこに右手がぶつかり、見事に砕けた。
マジか!コイツ!
俺は全力で右に向かって跳ぶ。拳は俺の後ろの壁にぶつかった。
「どんだけ燃えてんだ!?瞬間でコンクリート溶かすなんて!!」
「さぁな。油断大敵って奴だ」
木好さんは更に左手にも炎を纏わせる。
木好さん・・・・・・両手に纏わせられたのか・・・・・・?
出来てもやらなかったのか、これも一種の進化・・・・・・。
『火水を取り返す』という欲望であり願望・・・・・。
そういうことか。
「待てよ?お前は炎は掴めないよな?」
木好さんはそういうと、
「じゃあこうすりゃいいのか」
といってから、左手の炎を消した。
そして消えた。
瞬間移動だ。
しかし前ほど見えないわけではない。赤い右手の炎が移動ルートを表してくれている。
でも、見えているから俺には何とかできるわけじゃない。
拳は俺の右側頭部狙ってきていた。
「くっそ!」
俺は後ろに転ぶようにそれを避けた。
拳はそこで空を切る。
轟音のような空気を切る音だった。
「お前は避けるしかないよな?でもそれも、いつまでもつだろうな?」
「・・・・・・厄介だ」
脅威になりそうなものはあらかじめ殺しておくべきだ と。
そういう意味らしい。