42-電波-
注:電波少年とかそういう意味ではありません。
恐らく、魅陽の前には絶世の美人が立っているに違いない。
そう。彼女の作った幻想の自分世界の目の前に、リアルな人間が居るに違いない。
両方ともそこには居ないのに。
『何なんだ・・・・・・。あなたはどうしてココに入られるんだ・・・・・・?』
【俺はアンタと似ているからな。人じゃないのに、人っていうアンタとね】
!!
言ってしまった。
『・・・・・・何言ってんの?』
「今日元さん!それは――」
【おいおい、嘉島。コイツが気付いていないわけ無いだろう?自分が人間じゃない事ぐらい誰でも気付くさ。特に周りの人間との違いを見たときにね】
それは普通はそうかもしれない。
でも魅陽は気付いていないはずだ・・・・・・。
【・・・・・・嘉島。コイツの発言を聞いていなかったのか?言っていただろう?『私は自分の考えで行動できるようになっている』って。つまり、コイツは自分は人以外の何かだって知ってたんだよ。だって、人間なら自分の考えで行動できるのは当然だからな。わざわざ『私は』なんて表現を使う必要も無いのさ】
「でも、コイツは自分がおかしい生命体だから、人間にも自分で考えて行動できない奴が居ると思っていたのかもしれない!」
【それもないな。コイツは命令が『送られてくる』って思っていた】
「それも、さっきと同様の理由が――」
【嘉島は優しいな】
俺の発言を今日元さんはそう言って邪魔する。突然の発言に俺も意表を突かれて、発言が止まってしまう。
【でもな。確実な情報があるのさ。俺がコイツの前に現れたときの動揺聞いただろう?『どうしてここに居るんだ』ってさ。それはここに人がいることがおかしいと思っていたのさ。もちろん、これにもさっきと同じような理由付けが可能だぜ?でも、その過程が壊れるだけでこれら全てが矛盾になるんだよ】
「・・・・・・つまり・・・・・・」
俺は唾を飲み込む。そして、俺は自分に言い聞かせるように自分で言った。
「・・・・・・嘘・・・・・・か」
【そうだ。そしてこうやって黙っている事も最大の理由だろう】
今日元さんはそう言って、黙った。
魅陽の姿は見えないから正確なことは分からないけれど、黙っている事から様子がひしひしと伝わってくる。
しばらく沈黙が流れた後、
『・・・・・・私は人に憧れていた』
と音声が流れる。
『私が2歳の時、自分以外の子どもは私ほど頭が良くない事に気付いた。そこから、私は瞬時に自分が人でないことに気付いた。王城の機械だ。それくらいの演算力はある』
私としては絶望的だったけどね。
と、皮肉交じりに続ける。
『だから、私は人になりたかった。人として生きていたかった。それが私の〔イメージ・バーン〕を作り上げた理由だよ』
魅陽はそう言った。
間違いなく。
言った。
俺のはその姿が目に浮かんだ。
「・・・・・・魅陽さん」
雅が言った。
『何?』
「通していただけますか?貴方がいくら兄弟以外の同級生と話したいと思っていても」
『はは・・・・・・ばれてたのか』
魅陽はそう言った。
そうか。彼女は兄弟以外に同級生を知らないんだ。だから彼女は遊びたい・・・・・・いや、話したいと思った。対話したいと思ったんだ。
機械は何も知らない。だから知りたいと願う。人だと思っていたかったのならなおさらである。
魅陽は横にスライドして階段への道を開いた。
『じゃ、また会えたらね』
それだけ言うと、コンピューターとしての機能を止めるように、ランプやエンジン音が全て消え去った。
「・・・・・・行こう」
俺はそう呟いて、先に階段を昇り始めた。
俺は美しかったと思う。彼女を人として終わらせてあげたかった。
でも、正しくは無かった。彼女に真実を告げることが、絶対に正しかったはずなのに。
それを今日元さんはした。
間違いなく、あの人は正しかった。
正しい事をする。
それでも。
どうしても。
正しい事を突きつけることが、俺には正しいとは思えなかった。
よし。書き溜めていたものが消えた。
どうしようかな・・・・・・