40-人間-
人間の定義は何だろう。
どこにあるかも分からない、心があればいいのだろうか。
誰かに思われればいいのだろうか。
人間の活動における、働くべき器官があればいいのだろうか。
人の形をしていればいいのだろうか。
僕には分からない。一生掛けても。
死んだ時に気付けるのかもしれないけれど、それはもう僕ではないから。
「アンタが・・・・・・魅陽・・・・・・?」
俺はそう言った。
『ああ。そうだよ。なんだ、君らもか。どうして私をみたら皆驚愕するのかなぁ・・・・・・?』
魅陽は言う。
つまり。
つまり、放送の声ではなく、この『機械』が『魅陽』なのか。
「・・・・・・あんた・・・・・・弟って・・・・・・?」
『隼人のことかい?そりゃそうさ。彼が生まれるのとほぼ同時に私は生まれたたんだから』
「生まれた・・・・・・?」
『うん。そうだよ。彼はどんどん成長していくけれど、私は成長っていうのは分からないんだよねー。隼人なんかもうすっかり大人だよ。でも私には子ども時代は無かったから、もう大人なのかな?』
「・・・・・・お前何言っているんだ?」
俺ばかりが質問している。
『あー・・・・・・分からなくてもいいよ。私のことは理解できないから。できるはずないから。だって私は特別な生態だからねー』
・・・・・・。
全員口を噤んでいる。
俺でさえ分かっているんだ。皆気付いているに違いない。
そう。
彼女、魅陽は――王城魅陽は、自分を人間だと思い込んでいる。
人間だと思い込み、それに合理的な理由をつけている。
自分は皆とは違う生物なのだという・・・・・・自分への言い訳。
無意識なイメージ。幻想。幻覚。
・・・・・・そうか。
幻覚という彼女の能力が生まれた理由。
それは『ミラー』だ。
自分を人間だと思い込み、それで『無意識』願った願い。
人間になりたいという願い。
その幻想。
それが彼女の能力を作り上げた。
自分の思っている世界観を作り上げる。
そして、彼女は自分の能力に気付いている。しかし、自分の存在には気付けいない。
「・・・・・・」
『あり?どうかしたのか?急激に元気をなくしたね』
「・・・・・・音河の発言でお前は幻覚を作り上げたのか?」
『ん?ああ、その話ね。そうだよ。まさか洞窟みたいな強い反響じゃないのに、隼人の彼女さんが気付いているとは思わなかったよ』
「まぁ、耳がいいのが音河の特徴だからな・・・・・・。ところで迷路は攻略って事でいいのか?」
『いいんじゃない?そもそも私はここを完備するだけで、動けないからねー。私の後ろに階段があるよ』
魅陽はそう言った。
「おい、嘉島」
「・・・・・・なんだよ、海馬」
「何普通に話してんだよ、お前分かってんのか?」
「ああ分かってるぜ?アイツは隼人の姉貴だ」
「・・・・・・嘉島」
「それが真実だ」
俺はその判断にした。
それが答えでいいのだ。
彼女の考え方は美しい。
でも正しくない。
それは俺も同様に。
彼女に『本当』を教えないことは、美しくはあっても正しくは無いのだ。
どこかにそんなフレーズがあったのを覚えている。
そしてそれは俺にとって、言い得て妙なのだ。
「魅陽さん。ここを通す事はできますか?」
雅が訊く。
『どうだろう。私は自分の考えで行動できるようになっているから、私が何とかできると思うけれど・・・・・・』
そう言って、少し黙った。
そして次に出た音声は
『・・・・・・・ゴメン、ダメだ』
だった。
『侵入者は全員消去だよ。ここまできてしまった以上は』
その声を合図に、壁や機械本体から、あらゆる武器が出てくる。
刀、銃、機関銃、マグナム、火炎放射器、ロケットランチャー・・・・・・
「!!」
極めつけは大きな『手』だった。
その『手』が、俺達を握りつぶそうとするように俺達を掴む。
『手』には爆弾がついているようだ。
『ゴメンね。隼人の友達達。私は命令に従うように育てられてきたから』
本当にかわいそうだというように、魅陽さんは言いながら、
全ての武器を俺達に突きつけた。抵抗しても無駄ということか・・・・・・。
「・・・・・・マジかよ」
「く・・・・・・」
海馬と雅は必死にもがくが外れるはずも無い。
「うわあああああああああああああああああああ!!」
音河は叫んだ。
そして、音河を締め付けていた手が、機械の作動する音と共に爆発した。