39-蝙蝠-
迷路の謎を解明しましょう。
答えはCMの後!
というか、本文の後。
・・・・・・へー・・・・・・。
「だとよ」
俺はそう言って海馬を見た。
「俺に言われても困る。今回の事に関しては俺はお手上げだ。1回で出来なかった奴が2回3回やっても無駄だよ。特に俺の場合」
と、海馬は両手をあげて降参の意を表する。
だとすれば頼れるのは雅か・・・・・・。
「雅。何かいい策は思いついたか?」
「・・・・・・嘉島さんの手で人の辿った跡を探りながら進むというのはどうでしょうか?」
「よし。任せとけ」
俺はそう宣言してから右手を地面につけた。
「・・・・・・ここはやっぱり数人しか通る人間は居ないようだ。向かっている足跡は全て同じ方向に向かっている。こりゃ余裕そうだぜ?」
俺はその跡を追って歩き始めた。
が、すぐに壁に到達してしまった。
行き止まりである。
「・・・・・・嘉島君」
虎郷が冷たい声で言う。
「・・・・・・この地面まで反応はあったんだ。壁の正面に立ってから消えた・・・・・・」
「・・・・・・もしかして壁の奥に道があるんじゃないか?」
海馬がそう言って、壁を触る。
「虎郷、頼めるか」
「分かったわ」
淡白にそう言って、虎郷は壁を右足で蹴った。
コンクリートの壁が壊れて、煙が出る。崩れる音は廊下に反響して、鼓膜を揺らす。
が、すぐにその煙は風によってかき消された。
「・・・・・・これは・・・・・・」
底から見えたのは建物。暗闇とそこにちらほら見える光。そして吹きすさぶ風・・・・・・。
そう。
外である。
「ここは建物の端っこだったようね。間違いなく外よ」
「実は映像とか・・・・・・」
言いながら海馬が瓦礫を落とす。
地面に向かって急降下して落ちていき、どんどん小さくなっていった後、暗闇に溶け込んだ。
「・・・・・・じゃ、ねえな」
「嘉島君・・・・・・」
虎郷の冷たい声が通路に反射する。
「俺もお手上げだな」
俺はそう言ってから両手を挙げた。
「私も対応策が見つかりません。そもそもこういう確率戦で正先輩が負けた時点で私としてはお手上げなんです」
雅もそう言って少し落ち込んだ。
打開策無しか・・・・・・。
そう思ったとき。
「おかしい・・・・・・」
音河が言った。
「何が?」
「声が反響しているんだよ。声が壁にぶつかって反射している。でも外と繋がっている以上、普通は反響しないけれど、ほら」
そう言って音河は言葉を区切る。
・・・・・・反響しない。
「あれ?」
「いや、さっきまで確かに反響はしていた。何かが変わったんだ」
「・・・・・・・・・・・・もしかしたら・・・・・・」
雅はそう呟いて、風が強く吹いている外を見た。そしてその直前の床を触る。
「・・・・・・音河さん。ギターの効果の『モスキート』を使ってみてください」
「・・・・・・?分かったよ。やってみる」
そう言って音河はギターを構える。
小さな、聞こえるか聞こえないかの音が鳴る。
「・・・・・・どうですか?音河先輩」
「音が・・・・・・反響している・・・・・・?」
「そうですか。では行きましょう」
そう言って雅はその壁から離れた。
「雅?」
結局、4メートルくらい離れて、雅は外に向かって助走をし始めた。
「おい、おま――」
海馬が叫んだが遅かった。
雅は外に向かって飛んでいった。
そして雅は・・・・・・・・・。
その外に立った。
「な・・・・・・何だ?」
「これは映像・・・・・・しかも本物に忠実な幻覚です」
「げ、幻覚・・・・・・?」
どういうことだ・・・・・・。
そう思ったときには、外であったそこは、ただの廊下になっていた。瞬きをした一瞬のうちに変わったという感じだ。
「では行きましょう!」
雅は走り始めた。
「海馬君がクリアできなかったわけね・・・・・・」
虎郷はそう言って廊下を進む。
「どういうことだ?」
俺は走りながら訊く。
「彼は予想できない事に関しては対応できない。それはつまり、選択肢にないものを選ぶ事はできないということなの。だから、彼は壁の奥にある物に気付けなかったし、まさか外の世界が幻覚だとは思わなかったわけ」
「ああ・・・・・・。なるほどな」
そりゃ選択肢がないのに答えるなんて真似はできないだろう。
「でもあの幻覚は本当に外と変わりないレベルだったぜ?なのにどうして雅は通れたんだ?」
「簡単です」
雅が答える。
「あれは幻覚を幻覚と信じなければいいんです。信じてしまえば、それは石が地面に落ちていく事まで、『自分』想像してしまう。信じなければそこには道は無いと言うわけです」
そこまで答えて、大きな機械の前に着いた。
「ちなみに私が気付いた理由は、音河さんの言った反響の現象が、突然消えた事です。恐らく、音河さんの話を聴いて、咄嗟に幻覚の作用を発生させたんでしょう。しかし、音河さんの能力に、彼女の能力が勝つことはできなかった。だからモスキートは発動したんです」
そう言って雅は笑った。
『いやー・・・すごいね。そこまで見抜いた人間はそんなにはいないよ。まぁ、隼人はさっさと気付いちゃって、かわいくない弟だけどさ』
魅陽の声が聞こえた。
俺達はその方向を見る。
そして驚愕した。
その声は目の前にあった、大きな機械から聞こえたのだった。
蝙蝠は物体に対して超音波を放つ事で、物体との距離や形を理解しているそうです。
音河はそれを利用したのです。
ちなみに『モスキート』は、本文では、蚊が飛ぶくらい小さな音、という意味です。