38-迷路-
迷子の路と書いて迷路。
迷いの路と書いて迷路。
つまり、この世界は大きな迷路なんだよ。
「・・・・・・あーあ。ま、いいか」
人吉はそう言って立ち上がった。
「いいよ。早く上に行きなよ」
「・・・・・・止めないのか?」
「こう見えても僕はルールは守るんだ。信条なんだよ、これでも」
人吉はそう言って銃にトリガーを戻して、弾を完全装填した。
「補充完了」
「何するんだ?」
「約束は約束だ。追手は僕がしばらく何とかするから」
「そんなことしていいのか!?」
「いいよ。幹部だから」
気楽にそう言って人吉は、笑った。
「まー多分死ぬね。僕。逃がした上に、侵入の促進。挙句に反乱・・・・・・か」
「・・・・・・大丈夫だ。何とかなる。死ぬか死なないかの2択ならお前は勝てる」
海馬がそう答えた。
「はは・・・・・・。君に言われると心なしかそんな気がするよ」
人吉は「あっちいけ」と追い払うように手を振った。
それを最後の挨拶に、俺達は階段をのぼる。
「ショック・ノート!」
音河がギターで階段の天井を破壊して時間稼ぎの対応もしておいた。
これで何とか、上に上がり続けられるだろう。
そして着いたのは20階。
今度も廊下だった・・・・・・のだが。
階段を昇り終わった後の、目の前の廊下・・・・・・というかそれ自体が、分かれ道になっていた。
「・・・・・・これは」
分かれ道が計10本。正面の廊下だけでも、さらに派生するようになっている。
迷路。
まさしく迷路という言葉が相応しいような、そんな廊下だった。
「テレビ局は侵入者対策用に、迷路になっているという噂を聞いたことがあるけれど・・・・・・その類かしら?恐らくここから上は有数の職員しか通れないようになっているんでしょうね」
「どちらにせよ、ココの攻略は海馬にしか任せられないだろう?」
そう。分かれ道ともなれば彼の見せ場だ。
「ああ。分かった。やってみよう」
そう言って海馬はまず、真ん中から右に2つの道を進む。そしてすぐの角を左に曲がり、次の角を無視して真っ直ぐ歩く。
というように、適当に歩いて海馬は進んだ。
しかし。
俺達が最終的に行き着いた先は、下りの階段だった。
「戻って・・・・・・きた」
音河がそう言った。
「・・・・・・どうなってんだ?」
俺は取り敢えず海馬に聞いてみる。
「知らん。さっきから俺の運は否定されてばかりだな・・・・・・」
少し海馬は落ち込みムードで言う。
取り敢えず、もう一度海馬の勘のルートを通ってみた。
「・・・・・・」
また戻ってきた。
「やってられっか!!」
海馬はそう言ってふてくされた。
「どうなってんだ?海馬でも通れないなんて・・・・・・」
俺がそう呟くと
『そりゃあそうさ』
廊下からそう聞こえた。
上・・・・・・スピーカーだ。
この声は・・・・・・女?
『海馬君の運の確率は100%なんだよ。なのに通れない理由・・・・・・それを考えてみれば簡単に分かるよ』
「お前誰だ!!」
『私は魅陽。そしてここは[帰りの道]。有数の人間だけが通れる道。残りの人間は帰ってもらわないといけない迷路なのさ。さ、早く私のところへおいでよ』
挑発するように魅陽は言った。
何をすればいいかもわからない。
してしまえば戻れない。
後戻りのきかないレール。
常に後ろから列車が来ているんだ。