37-信頼-
海馬戦・・・・・・終幕
「じゃあ、僕は簡単にルールを決められる」
「・・・・・・どんなルールだ?」
海馬が訊いた。
「弾丸は1発のみ。缶にヒットさせれば勝利。使っていいのは、銃弾と銃それぞれ1つのみだ。それ以外の行動はなしだ。弾丸を缶にヒットさせられればそれで勝ちだ」
「・・・・・・分かった」
海馬は少し悔しそうに言った。
「どうかしたのか?何なら好きに相談しなよ」
人吉は余裕の表情で言った。
そりゃそうだ。向こうは完全に2択を作り上げた。右に当てるか、左に当てるか。先に『あらゆる制限をつける』と宣言したから、この状況を否定は出来ない。
海馬でも負けてしまう、人吉の力。どうやって勝つつもりなんだろう。
そんな俺の疑問や、海馬の焦りの表情を止めたのは
「大丈夫です」
雅だった。
「先輩は強いですから」
「雅・・・・・・!」
「そのままやってください」
雅はそう言って笑った。
「ああ。分かった」
海馬はそう言って、1発だけ装填してからトリガーを外した。
「・・・・・・僕が言う筋合いは無いけどさ」
人吉はそう言って、銃を構える。
「本当にそのままやるのかい?」
「アイツが間違えるたことは無い」
「間違えた事の無い人間なんていないさ」
「そうだな。アイツのただ1つの間違いは」
海馬も銃を構えた。
「俺なんかを彼氏にしたことだ」
「のろけかい?」
「それもある」
「あっそ」
2人とも準備を完了したように笑った。
コイツらはなんだか最終的には楽しそうだった。
だとすれば。
俺としても最後くらいは全力で審判をしよう。
「開始!」
銃弾はほぼ同時に放たれた。
人吉の銃弾を自信と余裕に溢れた、真っ直ぐな軌道で缶向かって行った。
対して海馬の弾丸は、明らかに缶から離れた方向に向かって飛んでいった。
「!!」
その弾丸は机の脚にヒットした。
そう。2つ手前で、海馬の弾丸が『失敗して』めり込んだところである。
そして俺の見解ならば、同じところに弾丸が2度ヒットすれば、間違いなく壊れる。
予想通り机の脚は壊れ、机は斜めに倒れた。結果的に缶は机の傾いた方向に向かって滑り始めた。人吉の弾丸は傾いた机の裏側にヒットした。
「念のために脚に弾丸を当てといて良かったぜ・・・・・・」
「このための布石だったのかよ・・・・・・」
人吉はそう言って、銃弾を装填し始めた。
「おい。何してんだ?」
海馬は人吉に向かってそう言い放った。
「は?」
当然間抜けな声で答える。
そりゃそうだ。彼の角度からは見えない。
「終わったぜ。俺の勝ちだ」
「何言ってんだ・・・・・・。今、缶は落ちただろう?」
人吉は言いながら、少し顔に焦りを浮かべた。
海馬は顎で地面のそれを指した。
「・・・・・・」
人吉はそれを恐る恐る見た。
砕けた机の脚の上に、缶が見事に立っている。
「・・・・・・これが何だってんだ?」
安堵した人吉は缶をとった。
そして人吉の表情が一気に強張る。
そこには、弾丸が突き刺さっていた。2つ前にめり込ませた布石である弾丸だ。
「弾丸を缶に当てれば勝ちなんだろう?」
「・・・・・・くっそ!!」
人吉は銃をたたきつけて、地面に伏した。手で地面を叩いている。
「こんな・・・・・・こんなことがどうして出来る!!」
「雅が俺にそのままやれって教えてくれたからだな。アイツが信じていてくれたからだ」
「そんなことで出来るわけないだろう!!」
「だから、まぁそういうことだ」
海馬は言ってから、人吉を見下ろした。
「運が悪かったんだ」
まぁ主人公補正といいますか、
大抵負けないんですよね。こういうのって。