33-狙撃-
「無茶しやがって!」
「すみません・・・・・・」
海馬は雅を背負い、階段をゆっくりと昇っていた。今回は同意の上で、である。
あの後、雅はそのまま倒れてしまった。明前も軽い脳震盪のような形で気絶していた。雅は風圧の衝撃が少し遅めに来た様で、マンガならば渦巻きで表現されそうな目で昏睡状態にあったが、それを海馬が背負って階段に向かったという次第である。
「このまま戦いを後・・・・・・何回くらい?」
「おそらく15、20、25、30でしょう?4回ね」
「そんなに・・・・・・面倒だな」
音河、虎郷、俺は、そう会話して先に駆け上がり、
「雅、何か作戦ないか?」
「・・・・・・すみません。眠いです」
「寝るな!寝たら死ぬぞ!」
「雪山ですか?」
「何だ、嘘かよ・・・・・・」
とふざけながら俺達の後ろを追って来る。
そして15階に到着した。今までの廊下とは違い、広いホールのようになっている。
真ん中には1人の青年が座っていた。その青年は俺達を見て、
「・・・・・・何?」
と呟いた。
いや、こっちが聞きたいのだが・・・・・・。
「ああ。明前さんやられたんだ・・・・・・」
自分で自分の質問に答えて、ようやく面倒臭そうに立ち上がった。
「僕は人吉。このホールはよくパーティーに使われるから、こんなに広いんだよ。僕との戦いも1対1だ。ルールはこれから言う。いいかい、よく聞いてくれ。二度手間は面倒なんだよ。こうやって話していることすらも面倒なんだ。ああ、閑話休題と行こう。さっさと話は済ませたい」
と、一気に言った。話すのが面倒なのか、こちらが質問しそうな事は先に全て答えた。
「今回のルールは・・・・・・そうだね。射撃ゲームだ。君らなら海馬 正が得意とするタイプだ」
こちらの考え方を読んでそう答える。
「今回は2つの缶を同時に狙い、先に当てた方の勝ちだ」
と言ってテーブルを出して、缶を並べた。
「・・・・・・じゃあ、海馬」
俺は海馬を指名した。
「ああ。俺の勝負だな」
海馬は静かに雅をおろしてから、歩いて中心に向かっていった。
「正先輩。気をつけてください。おそらくあの人もアクターです」
「そんなことより、俺に対する褒め言葉でも考えとけ」
海馬はふざけて言った。が、目は真面目だ。
そんな海馬を見て雅は
「先輩・・・・・・」
と本当に心配そうに言う。彼が真面目な顔をしているという事は、口で言うほど余裕を感じていないという事だ。
すると海馬は立ち止まって言った。
「・・・・・・大丈夫だって」
笑っていた。
雅の心配を失くすために。彼は恋愛豊富に見えて、肝心な時に――特に雅が相手だと不器用なのだ。自分を正直に表す事が苦手なのである。彼が「正」であったとしても。
「やっぱり君か」
「ああ。で?ルールは?」
「この2つの缶を対極の位置に立って、同時に狙う。どちらか一方でも打ち落とせば勝ち。勝負の回数は10回だ。君が負けようが僕が負けようが、ここには兵士達がやってくる。僕は負ければ道を開けるけれど、僕を殴り飛ばして先に進むことはできないだろうね。この戦いが終わったときには兵士達が来ているだろうから。大丈夫。時間稼ぎしようとなんて思ってないから」
相変わらず一気に言うと、
「さっさと始めようか。時間ないんだろう?」
「ああ。物分かりがよくて助かるよ。銃持ってる?」
「持っている。貴様は」
「有るよ。別に細工はしていない」
そう言って2人はテーブルをはさんで、対極に並んだ。
海馬が奥側に行って、人吉が手前(すなわち俺たち側)に立った。
「第三者としてそこの少年に審判してもらおう」
人吉はそう言って俺を指した。
「・・・・・・」
俺は雅を見る。雅は頷く。
「分かった」
俺はそう言って、テーブルの横に立つ。
「開始の合図で始めてくれ」
「了解」
「さっさとしてくれ」
人吉は少しいらいらしている。
「開始!」
同時に銃口が火を噴いた。
だが当然、射撃で海馬に勝てるはずが無い。だって彼は『最強の運』なんだから。
そう思っていた。
人吉から見て右、海馬から見て左の缶を打ち抜いたのは、
人吉の銃弾だった。