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丸く収まったこの世界  作者: 榊屋
第五章 失って気づくこの世界
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33-狙撃-

「無茶しやがって!」

「すみません・・・・・・」

 海馬は雅を背負い、階段をゆっくりと昇っていた。今回は同意の上で、である。

 あの後、雅はそのまま倒れてしまった。明前も軽い脳震盪のうしんとうのような形で気絶していた。雅は風圧の衝撃が少し遅めに来た様で、マンガならば渦巻きで表現されそうな目で昏睡状態にあったが、それを海馬が背負って階段に向かったという次第である。


「このまま戦いを後・・・・・・何回くらい?」

「おそらく15、20、25、30でしょう?4回ね」

「そんなに・・・・・・面倒だな」

 音河、虎郷、俺は、そう会話して先に駆け上がり、

「雅、何か作戦ないか?」

「・・・・・・すみません。眠いです」

「寝るな!寝たら死ぬぞ!」

「雪山ですか?」

「何だ、嘘かよ・・・・・・」

 とふざけながら俺達の後ろを追って来る。




 そして15階に到着した。今までの廊下とは違い、広いホールのようになっている。

 真ん中には1人の青年が座っていた。その青年は俺達を見て、

「・・・・・・何?」

 と呟いた。

 いや、こっちが聞きたいのだが・・・・・・。

「ああ。明前さんやられたんだ・・・・・・」

 自分で自分の質問に答えて、ようやく面倒臭そうに立ち上がった。

「僕は人吉ひときち。このホールはよくパーティーに使われるから、こんなに広いんだよ。僕との戦いも1対1だ。ルールはこれから言う。いいかい、よく聞いてくれ。二度手間は面倒なんだよ。こうやって話していることすらも面倒なんだ。ああ、閑話休題と行こう。さっさと話は済ませたい」

 と、一気に言った。話すのが面倒なのか、こちらが質問しそうな事は先に全て答えた。


「今回のルールは・・・・・・そうだね。射撃ゲームだ。君らなら海馬 正が得意とするタイプだ」

 こちらの考え方を読んでそう答える。

「今回は2つの缶を同時に狙い、先に当てた方の勝ちだ」

 と言ってテーブルを出して、缶を並べた。


「・・・・・・じゃあ、海馬」

 俺は海馬を指名した。

「ああ。俺の勝負だな」

 海馬は静かに雅をおろしてから、歩いて中心に向かっていった。

「正先輩。気をつけてください。おそらくあの人もアクターです」

「そんなことより、俺に対する褒め言葉でも考えとけ」

 海馬はふざけて言った。が、目は真面目だ。

 そんな海馬を見て雅は

「先輩・・・・・・」

 と本当に心配そうに言う。彼が真面目な顔をしているという事は、口で言うほど余裕を感じていないという事だ。

 すると海馬は立ち止まって言った。

「・・・・・・大丈夫だって」

 笑っていた。

 雅の心配を失くすために。彼は恋愛豊富に見えて、肝心な時に――特に雅が相手だと不器用なのだ。自分を正直に表す事が苦手なのである。彼が「正」であったとしても。



「やっぱり君か」

「ああ。で?ルールは?」

「この2つの缶を対極の位置に立って、同時に狙う。どちらか一方でも打ち落とせば勝ち。勝負の回数は10回だ。君が負けようが僕が負けようが、ここには兵士達がやってくる。僕は負ければ道を開けるけれど、僕を殴り飛ばして先に進むことはできないだろうね。この戦いが終わったときには兵士達が来ているだろうから。大丈夫。時間稼ぎしようとなんて思ってないから」

 相変わらず一気に言うと、

「さっさと始めようか。時間ないんだろう?」

「ああ。物分かりがよくて助かるよ。銃持ってる?」

「持っている。貴様は」

「有るよ。別に細工はしていない」

 そう言って2人はテーブルをはさんで、対極に並んだ。

 海馬が奥側に行って、人吉が手前(すなわち俺たち側)に立った。


「第三者としてそこの少年に審判してもらおう」

 人吉はそう言って俺を指した。

「・・・・・・」

 俺は雅を見る。雅は頷く。

「分かった」

 俺はそう言って、テーブルの横に立つ。


「開始の合図で始めてくれ」

「了解」

「さっさとしてくれ」

 人吉は少しいらいらしている。



「開始!」


 同時に銃口が火を噴いた。

 だが当然、射撃で海馬に勝てるはずが無い。だって彼は『最強の運』なんだから。


 そう思っていた。


 人吉から見て右、海馬から見て左の缶を打ち抜いたのは、


 人吉の銃弾だった。


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