31-激闘-
雅 VS 明前
「どうした?かかってこないのか?」
男は態勢を変えずに言う。
「……あなたの名前を教えてください」
「俺か?俺は『明前』だ。王城グループの幹部をしている。専門はクレーム処理と邪魔者の処理だ」
相変わらず態勢を変えるつもりはないようで、そのまま笑った。
「明前さん。私は全力で行きます」
「そうか。好きにしろ、常盤 雅」
どうやら俺たちの顔と名前は把握済みのようだ。
「なので、貴方が死んでも私は責任を負いません」
「心配するな。俺は強い」
「では行きます」
長い前置きを置いて、雅は7メートルの距離を詰めるために走り出した。
「気をつけろよ。俺は処理専門だから、生かす方法は心得てない」
男はそう言ってから、両手の指を構えた。指パッチンの形で。
「Shot」
男は言って指を鳴らした。音は「パチン」ではなく、「パン!」だった。或いは「バキューン!」かもしれない。
「!?」
雅は瞬間的にしゃがみこんだ。俺達からすれば単純に何かから避けたように見える。
「焔の錬金術師ですか?」
「大佐と呼ばれた覚えは無いかな」
2人はそう会話して、明前が続けた。
「避けられたか。まだまだ行くぞ」
同じように指パッチンの形を取り、音を鳴らす。今度は右と左を交互に連続で。
「これは・・・・・・」
雅は呟いて、跳ねたりしゃがんだりして明前に近づく。
「ほぉ・・・・・・これも避けるか。では、今度はこうだ」
明前は今度は両掌を開いて、濡れた手の水を散らすように手を振った。
「今度は・・・・・・散弾・・・・・・!?」
雅は驚きながら、回転することによって風を作り上げる。
「マジか・・・・・・」
明前も驚いて動きを止める。一々特筆すべき内容では無いと思うが、立ち姿には1つも変化は無い。
そして雅は距離を縮め切り、ほぼ2メートルの距離で跳び上がる。
「貴方の力、見抜きました」
「貴様の力、見抜いたぞ」
2人は同時に言って、雅は右足で跳び蹴りを、明前も右足で上段蹴りをする。足同士が交差した瞬間、火花が散った。
「くっ・・・・・・!」
「ぐゥッ!」
2人は少し呻いて、2人は弾かれるようにそれぞれの後方に飛ばされた。
雅は空中で回転してから着地した。明前は立ち姿が立ち姿だっただけに、衝撃を逃がす事に成功し、そのままの態勢で立っていた。
「貴様の足の力・・・・・・見えたぞ」
雅に向かって明前が言い放った。
「貴様、能力者か。足に纏っていたのは回転力・・・・・・その力による風か・・・・・・。しかしどうやらそれはそもそも戦闘目的のものではないようだ。動きが早いところから、恐らく脳の中のスピードを活性化しているのか・・・・・・それが戦闘向きに変化したというところだろう」
「・・・・・・」
「正解か?」
「否定はしません」
「そうか」
「貴方の力も見抜きました」
雅もそう言って、明前を睨む。
「どうやら貴方の力は『銃』のようですね」
「そうだ」
「指の中や手の中・・・・・・貴方の体中を取り巻いている空気を圧縮してそれを高速のスピードで放つ事により、『銃弾』と同じ威力、速度を持つ事が出来る。先ほど私と貴方の足が交差したとき、風と銃弾の速さが重なったということになり、2つの速さが混ざったんでしょう。そして風同士の摩擦力が生まれ、火花が散ったという事ではないでしょうか」
「まぁまぁ当りだ。正確に言えば、指パッチンで威力を上げられたり、連打すればマシンガン、投げるように指を散らせばショットガンだ」
「そうですか」
お互いに答え合わせをして、お互いに興味なさそうな素振りをすると、
「ではこれでもう終わりですね」
「遊びの時間が、だな」
「はい」
「ああ」
2人はそういうと、もう一度構えた。
能力とは常に進化するのだ。
僕らはそれに気付かなければならないんだ。