16-進化-
人間は足の小指を使わないから、少しずつ消えていっているそうです。
これって退化なんですかね。進化なんですかね。
それとも・・・・・・消化?
走って走って走って走って走ったってくらい走った。
「居ない・・・・・・どうなってんだ?」
俺がそこで立ち止まってその辺りを見回す。
すると、
「おい、嘉島!」
後ろから海馬に声をかけられた。
「どうなってんだ?全く現れないぞ?」
「そうだよな・・・」
俺と海馬が話し合いを始めたと同時に、
「先輩!」
「嘉島、海馬!」
と、雅と音河もやってきた。
「全く姿が見えないよ。どうなってるの?」
「いくらなんでも消えすぎですよ。全く人影も気配も動きもしない。これは一体・・・」
「俺に訊くなよ。一体何が・・・・・・」
俺達がうろたえていると、
「もしかしたら」
と雅が口を開いた。
「もしかしたら進化ではないでしょうか?」
「し・・・進化?」
「はい。能力の進化です」
言いながら周りを見渡す。
「先ほどの長堂寺先輩・・・・・・。スピードが以前より遥かに速くなっていました。それこそ瞬間移動のような・・・・・・」
「待てよ、雅。そりゃ進化というか・・・・・・まぁ成長はしているような気がするけど、それは運動量とはによるものじゃないのか?」
と、雅の考えに反論すると
「では、その成長のための運動とはいつ行ったのでしょう」
「そりゃ、今までずっとだろう?」
「彼らは今までずっと少年院にいたんです。しかも、彼らのような者達がそう簡単に動ける環境には居なかったと思います」
「・・・・・・あぁ・・・・・・そうか」
「ですから、運動とは関わらない、能力・・・『アクター』ではないかと考えられます」
と雅が言い切った。
「それにしても・・・・・・」
「何でしょうか?」
雅が反応した。自分の考えに穴があると思ったのだろうか。
「いや、何でも無い」
「・・・・・・?」
俺が思ったのは。
それにしても、よくそんな事思いつくな。
まるで。
まるで隼人のようだ。
だからこそアイツは雅を仲間に引き入れようとしたのだが。
「ということはこの状況はアイツらの誰かの能力の進化が引き起こしているって事か?」
「そういうことだと私は思います」
「となれば恐らく丹波だな」
と、海馬が言った。
「アイツの能力は『視聴覚能力増強』だ。とすれば今は『相手の視聴覚減少』という能力を持っていると思われる」
「その仮定で動こう。元より行き当たりばったりみたいなもんだ」
「じゃあ、私に任せて」
と音河がギターを構えた。
「超音波」
そしてピックでギターの弦を弾く。
ほぼ無音。しかし何かが広がっているような印象を受ける。
俺の感覚神経がそれらを受け止めているようだ。他の奴には分からないかもしれない。
「・・・・・・みっけた」
静かに音河は呟いて、
「ショック・ノート!」
音河は向きを変えてもう一度、今度は激しい音を立ててギターの弦を弾いた。
音符が飛ぶ。
「が!」
何かに当る。そこには空気しかない。が、声は間違いなくそこから聞こえた。
そして、それは何処かに倒れてから姿を現した。
「・・・・・・げ」
そこには3人の人間がいた。それは間違いなく長堂寺、長柄川、丹波だった。
「思ったより近くにいたんだな」
「ああ。だから貴方達の見解も聞いていたわ。そしてその通りよ」
と長柄川が丹波の変わりに肯定した。
「で?だから何?」
強気に長柄川が言う。
「私達は全員進化しているのよ。貴方達の力で勝てるはずが無いわ」
それと同時に長堂寺は消えるような速さで走り始めた。周辺をスーパーボールの反射運動のように動いている。
「・・・・・・・・・・・・虎郷はいないのか。じゃ、さっさと行くよ」
そう言って長堂寺は俺達4人を睨んだ(かどうかは定かではない)。
「・・・・・・!」
俺は長柄川と丹波を見る。
・・・・・・丹波が居ない。やはりそういう能力か・・・・・・。
俺達は4人同士で背中を合わせ、警戒する。
「進化なんか・・・・・・どうしろってんだよ!」
俺は思わず叫んだ。
「・・・・・・例えば彼女達がどうしてあのような能力を手に入れたんでしょうか?」
雅がそう言って、俺達に考えを促す。
「・・・・・・どうやって・・・・・・」
「恐らくそれは私達を殺すという強い願い。つまりは私達の能力の進化のためには強い願いが必要なのではないでしょうか」
「強い願い・・・・・・」
「中途半端では駄――――」
雅が吹っ飛ばされた。背中合わせになっていた状態から、一人分外れる。
長堂寺ではない。だとすれば、見えない敵・・・・・・丹波。
「雅!大丈―――」
海馬も吹っ飛ばされる。しかしこの場合は、超速攻・・・長堂寺だ。
「音河!気をつけろよ!」
「分かってる!」
俺は地面を左手で殴った。
地面のコンクリートがとげのようになって、長柄川を狙う。
長柄川は避けようとはしない。
「・・・・・・爆弾:触発」
そのまま手をそれに向けて開く。
とげが当る。
轟音を立ててぶっ壊れた。
「・・・・・・アイツ自体が爆弾かよ」
「ちょっと危――――」
音河が吹っ飛ばされた。これで現在ここに居るのは俺だけとなった。
「音河!」
飛ばされた3人は気絶している。力も増幅しているのか・・・・・・?いや、この違和感は・・・・・・。
「長柄川・・・・・・これもお前のか」
「爆弾:気絶」
「くっそ・・・・・・」
俺がそう呟くと、丹波は現れ、長堂寺は止まった。
「これでおしまいだぜ」
「・・・・・・・・・・・・弱い・・・・・・」
「貴方達に勝てるわけ無いでしょう?」
3人にそう言われて、俺が搾り出した言葉は。
「・・・・・・お前ならどうする」
だった。
「何言ってるの?」
もちろん長柄川にわかるはずが無い。
俺には勝てない。皆に命令するような能力も無い。そこまで力を持っていない。
どうすればいいんだ。俺は一体何をすれば正しいんだ。
隼人・・・・・・お前ならどうするんだ?俺はどうすればいいんだ・・・・・・隼人。
「願えばいいのさ」
「もういいや。終わらせよ」
長柄川はそう言って、二人の背中を押した。
丹波は消え(視覚的に)、長堂寺も消えた(物理的に)。
見える。
長堂寺が俺に蹴りを向ける。
分かる。
丹波が空気を切り裂いて拳を向けている。
何だこれ・・・・・・。何だ・・・・・・この感覚は。
どうして見えるんだ。どうして分かるんだ。
瞬間。俺は右足を横薙ぎに振った。
「が・・・・・・!」
「く・・・・・・!」
俺の脚は2人にヒットした。
もう一度俺は2人を追いかけて、左手で地面を叩き、剣を二本作る。そして勢いのまま2人の右足に刺した。
「あああああああ!!」
「いってえええええええ!!」
悶える2人を見て
「そのまましばらく死んでろ!」
俺はそう叫んだ。
そして――――。
「!」
長柄川の爆弾がそこに有った。
死ぬ。そう思った。
「・・・・・・・・・?」
爆弾は地面に落ちている。
そこで俺を待っていたのは、真っ黒い空間だった。
地面には方眼容姿のような線。
倒れていた敵味方全て、何の問題も無かったかのように立ち上がり、不思議な顔をしている。
・・・・・・・これは・・・・・・。
「キングダム」
少し遠くに。
彼が居た。
「・・・・・・隼人!?」