13-特捜-
いや、特捜ってのは「特別捜査」の略であって、
特別捜査部隊の略ではないらしいけど。
つまりはこういうことらしい。
俺達が捕まえた犯罪者(しかも異常な能力を持っている)が逃げ出した。本来、一般人や子どもに協力を求めている時点で警察失格かもしれないが、俺達ならもう一度捕まえられるだろうという方針を上の方が取ったらしい。まぁ多分、龍兵衛さんが掛け合ったんだろうと思うけれど。
その引き換えに、王城グループへの殴りこみを決行する事になったのだそうだ。これも恐らくは龍兵衛さんの交渉の結果。まぁ王城相手に上司がよく重い腰を上げる気になったものだ。世間にこれだけの被害を出したのに、行動しなかったら警察も形無しだと世間に叩かれる事になるのは間違いないが、それでも別の犯人でも作り出しそうなものなのに。その辺りで、少しだけ尊敬には値するのかもしれない。
で、俺達は捜査本部から指令され、特別捜査部隊のメンバーとして迎え入れられた。だから、俺達は警察ということになる。この間だけではなく、特別捜査部隊として恐らくこれからも。その証拠に警察手帳は6個。つまり、隼人の分もある。
さて、特別捜査部隊、略して「特捜」が行動するために、まずは事件概要から整理するべきだろう。というか、俺がそうしたい。
王城グループの幹部がそうした理由は、やはり俺達に対する攻撃のためだ。もちろん、「嘉島達を殺せ」などという指令は出していないだろうが、俺達が捕まえた、死んでいない犯罪者たちが俺達を殺しに来る事には全く不思議は無い。というか、間違いないだろう。「レッドテイル」は間違いなく俺達を狙っているわけだし。
ともすれば、俺達が戦い行く、或いは捜す必要は無く、堂々としていれば向こうから勝手にやってくるというわけだ。
ではいい加減始める事にしよう。捜査を。
俺達は警察署の門を抜けて、歩行者用の道路に出た。やはり、倒壊しかけた建物に近づきたくは無いのか、人通りもほとんど無かった。
「取り敢えずは俺達は全員ばらばらで行動してみようか?」
俺がそう提案すると
「いいや。恐らくアイツらが狙ってくるのは、俺と雅か虎郷だろう?レッドテイルか、木好ってやつだけなんだから。つーことは、2組で大丈夫だろう」
と海馬が答えた。
「2組ってのは?」
「虎郷グループと俺と雅グループだ。狙ってくるものたちを分散する必要があるだろう」
「そうか・・・・・・」
しかし・・・木好さんが虎郷を攻撃してくる可能性は少ない。
だって・・・・・・いや、言うだけ野暮だろう
人の恋心はそう簡単に終わりはしない、とだけ言っておこう。
「では、こうしましょう。私達は海馬君と常盤の行動を遠くから見守ることにするわ。つまり同じ空間に居ない程度の状態にするという手法よ」
虎郷が言った。どうやら2組作戦には反対らしい。
「つまりは私達を尾行するというやり方ですね?」
雅が確認を取る。
「そう。そうすることで私も別行動のように見えるというわけ。だから相手も襲ってくるのならそういう方法で来るでしょう」
「そう・・・・・・だな」
海馬は少し迷ってから同意した。
「では今からデートしましょう」
「は、はぁ!?」
海馬が雅の誘いに驚く。
「お前・・・予想外にもほどがあるぞ・・・・・・。俺達は今から狙われる身になるんだぞ?しかも後ろからこの3人が尾行してくるんだ。そんな状況でどうして――」
「嫌なの?」
敬語の消えた雅の発言。うん、確かに怖い。
「嫌って言うか、状況が――」
「嫌なんだ・・・・・・ふーん」
黙って雅は道を1人で進んでいく。
「・・・・・・分かったよ。すればいいんだろ!」
海馬が雅の手を取った。
「はい!」
待っていたかのように雅は海馬に寄り添う。
「はぁ・・・」
と、言ったかは分からないが、肩を落とした海馬を見て「落ち込んでるな」と思った。
しかし・・・・・・どうなのだろう。過去に愛した人が今、自らの命を狙っている可能性がある状態で、彼らのような愛し合っている2人を見る感情は。と思って、虎郷を見る。
「微笑ましいわね」
と、虎郷は少し笑って言った。どうやら本心。そして虎郷は先に海馬たちを追いかける。
「そうだな」
俺は取り敢えず同意して、彼らを追いかけた。
「あ、私は今日元さんに頼んで、こっちから相手を探してみるよ」
と音河は言った。
「ああ。それもいいかもな。じゃ、そっちは頼んだ」
「ついでに2人もデートしたら?」
冗談のように音河が
「自然そうなるが、そういう展開は期待したくないな。それに虎郷の気持ちもあるだろう」
「真面目に答えないんだよ、そういう時は。じゃ、また夜に」
と言って音河はそのまま警察署内の戻った。
自分で言っておいてなんだが、虎郷の気持ちはどこに向いているのだろう。
さっきの発言からして、そこまで木好さんに向いてはいない。そりゃそうだ。だって、最終的には木好さんには怒りをもっていたのだから。だが、海馬たちの姿を見て微笑ましいと思うことは、すなわちそれらへの憧れ。
もしも、俺に虎郷の気持ちが向いていてくれれば・・・・・・。
虎郷の背中を見て、冗談ではなく、そう思うのだった。